安井明彦
米大統領選挙に向けたバイデン、トランプ両氏のテレビ討論会は政策論より個人攻撃の目立つ舌戦となったが、どちらが勝つにしても新大統領は、就任早々、債務上限引き上げや「トランプ減税」を延長するのかどうか、年金医療改革などの財政を巡る決断を迫られる。

米大統領選は前回と同じ対決となりバイデン、トランプ両陣営とも勝利には浮動票の上積みよりも自らの「支持層の離反」を食い止めることが鍵になっている。「激戦州」の戦いが焦点だが、黒人やヒスパニックの支持離れが目立つバイデン氏にはラストベルトの中西部3州の勝利が再選の生命線だ。

欧州や日本の米国巨大IT企業の独占・寡占の弊害除去の規制強化の動きを、バイデン政権は“容認”する一方で、デジタル貿易だけでなく政府調達や鉄鋼分野でも自由貿易原則の通商政策を変えている。経済安全保障や気候変動対策重視ともいえるが米企業にとっては逆風だ。

米大統領選は「スーパーチューズデー」で民主・共和両党の候補者が確定し「バイデンVSトランプ」の再戦の構図だ。だが、世論調査で優勢のトランプ氏は党内の反トランプ層や無党派層に支持を拡大できるのか、一方のバイデン氏も高齢への不安払拭や有権者に景気回復を実感させることができるか、勝利には課題を残している。

米大統領選は共和党予備選で6連勝のトランプ前大統領が本選でも高齢懸念を払拭しきれないでいるバイデン大統領に勝利する「ほぼトラ」の空気が漂い始める。危機感から民主党が打ち出したのが「次世代の顔」と期待されながら存在感の薄かったハリス副大統領を前面に出す作戦だ。

米大統領選に向けた共和党の予備選はトランプ前大統領が連勝し早ければ2月中にも指名獲得を確実にする可能性があるが、この「早期決着」にはバイデン大統領にむしろ有利に働く要素がある。「トランプ氏の復活」「過激な思想に支配された政党」に焦点を絞って危機感を高める選挙戦略ができるほか、経済実感の回復など追い風になりそうな材料が出てきたからだ。

コロナ禍を機に米国への流入が急増した移民が国内に拡散し、自治体財政負担増や住宅不足などの問題を背景に米国民の移民に対する意識が厳しくなっている。移民に寛容な民主党の支持者にも変化が見られ、2024年大統領選挙のイシューにもなり得る。移民抑制となれば米国経済の成長にも影響が必須だ。

24年米大統領選はバイデン大統領の支持率低迷で“トランプ氏再登場”もあり得る状況だが、米政治の混迷に輪をかけそうなのが議会選挙で上院と下院の多数派が入れ替わり、今とは違う「ねじれ議会」になる可能性があることだ。

バイデン大統領が表明した「ハマス襲撃」を受けたイスラエルとウクライナ支援の予算計上には「ねじれ議会」との調整が難題だが、そもそも財政運営のネックとなっている財政赤字拡大は政治に財政再建の機運が乏しいことが最大の理由だ。

大統領選挙で再選を目指すバイデン大統領の年齢が論点になり続けているが、米政治の多くの場面でベビーブーマー以前の世代が主役のままだ。一方で有権者の6割はベビーブーマーより若い世代で2024年選挙は来るべき世代交代への前哨戦だ。

共和党のテレビ討論会を皮切りに本格化した米大統領選で際立つのはトランプ前大統領の「強さ」だ。異例の刑事訴追を受けながらコア支持者だけでなく民主党の基盤とされる非白人労働者階層にも支持が拡大、バイデン大統領も気になる流れだ。

米最高裁判所は2022~23年の会期でも大学入試で人種を考慮する措置の制限を打ち出すなど、保守的判決が目立った。だが24年の大統領・議会選挙に向け共和党にとっては保守派優位の最高裁の存在が優位に働くより「逆風」にもなりかねない。

刑事訴追されたトランプ前大統領は大統領に返り咲いた後、バイデン大統領捜査の特別検査官の任命を表明するなど「逆襲」の構えだが、司法介入などで大統領権限の強大化をめざす姿はウォーターゲート事件で辞任したニクソン元大統領と重なる。

バイデン大統領が次の大統領選挙出馬を正式に表明したが、高齢への懸念は支持者の間でも強い。「トランプ氏よりもましな候補」という消去法での選択から抜け出すカギは経済政策の評価と24年の成長率だ。

バイデン政権が重視するESGなどの取り組みに協力的な企業に対する共和党の批判は、破綻したシリコンバレー銀行にも向けられている。党派対立が経済の不安定化を助長しかねない状況だ。

バイデン政権と議会共和党が連邦債務の上限引き上げで対立するが、もともと債務上限は財政規律の維持には無力だ。今回も政治の駆け引きに使われることで年金・医療財政の悪化にむしろ歯止めがかからなくなる懸念がある。

バイデン政権が提唱するインド太平洋経済枠組み(IPEF)の交渉が本格化するが、議会を“迂回”し政府主導で進めるやり方に対中強硬姿勢では一致する議会の不満は強い。米国が指導力を発揮し成果を上げられるかは不透明だ。

米国では中間選挙で上下両院が「ねじれ議会」となり政策運営の停滞が予想されるのに対し、州政府は知事と議会の多数派が同一政党の州が増え次世代のリーダーが独自政策を競う動きが活発化しそうだ。

接戦となった米中間選挙では共和党はトランプ前大統領の負の側面が際立ち、民主党は求心力が低下するバイデン大統領に再出馬を思いとどまらせる機会を失った。両党ともに24年米大統領選への悩みが深まることになった。

米中間選挙は民主党が上下両院の過半数を維持するのか、前回大統領選のような投票集計の「不正」などをめぐる混乱が再び起きることはないのかで、バイデン政権の選挙後の政権運営の難易度は大きく違うことになる。
