日本人はもともと農耕民族。だから、コツコツ働いて貯蓄するのが得意。でも、長期投資は得意ではない
みなさんは貯蓄が得意ですか? 投資が得意ですか?
私は日本人は貯蓄が得意だと思っています。でも日本人は投資、特に長期投資は得意ではないと感じています。一方、アメリカ人は貯蓄が得意ではないですが、投資は得意だと思います。でも、私からみると、投資より貯蓄のほうが難しいのです。
日本人はもともと農耕民族ですから、コツコツ働いて、資産を蓄えていく傾向があるのです。若いころから常に節約を心掛けていた日本の高齢者が死亡したとき、残されていた資産が5000万円を超えていることも珍しくありません。20代などの若い世代も、今から老後を見つめて、お金を使わないようになっています。
「人生100年時代」と言われても年金額は多くはない。仕方がないから、あなたは死ぬまで働きますか?
近年、『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)という書籍がベストセラーとなり、「人生100年時代」という言葉が急速に拡がりました。そうした流れの中、日本の国も、社会も、人生できるだけ長く働く、という意見にシフトしてきています。
人生100年時代となったとき、資本に働いてもらわないと十分な資産は形成できませんから、資本に働いてもらわないなら、長く仕事をしてお金を稼ぎ続けなくては…という選択肢をとってしまうのです。これはFIREとは逆の生き方です。
でも、普通の人は死ぬまで働く、長く働くのを望んでいるわけではないはずです。お金がなくなるのを恐れて、貯金を使えないだけなのです。
日本人サラリーマンの生涯年収は2~3億円ぐらいですので、どういうふうに貯蓄しても、今までのような手厚い国の年金や企業年金なしでは引退できないはずです。
働き続けたとしても、日本人がもらえる年金額は決して高くはありません。多くの会社員がもらえる年金は国民年金と厚生年金の2種類です。その年金額はそれぞれの人の状況によって異なりますが、モデルケースを想定して、算出してみると、以下のようになります。
(1)国民年金 毎月1万6590円(※)を40年間支払うと、65歳から年間約78万円受け取れます。
月額:約78万円÷12ヵ月=約6.5万円
(※2022年度の納付額。年度によって変化します)
(2)厚生年金 会社員 仮に大卒初任給から40歳の退職までの平均給与が40万円だったとします。このとき、初任給は20万円、そして、30歳から60万円の給与を得る必要があります(一般的に、30歳で月給60万円は難しいとは思います)。これで仮に42歳時に退職(20年間勤務)したとすると、厚生年金の額は、1年間に約52万円受け取れることになります。
月額:約52万円÷12ヵ月=約4.3万円
1年間に受け取れる年金額は合計で約130万円になります。1ヵ月あたりで見ると約10.8万円しか受け取れず、年金だけで生活するのは難しいと思います。
月額:約130万円÷12ヵ月=約10.8万円
さらに日本の年金には、若い世代の人たちが受け取る年金額が実質的に減っていくしくみが導入されています。
もしも、65歳で保有資産がゼロだったとすると、毎月約10万円で生活しなければならなくなります。どんな田舎であっても家賃だけで数万円はするでしょう。相当貧しい生活になりますね。これでは死ぬまで働くしかない──と考えてしまいますね。しかし、若いうちに死ぬまで働くことを覚悟するのは、夢がないと思います。
失われた30年で日本株への長期投資は厳しいものに…。日本人が抱えてしまった投資へのトラウマ
しかし、死ぬまで働くのではなく、別の方法もあります。投資することです。FIREの根本は自らが労働して稼ぐ以上に、資本に働いてもらって資産を増やすことにあります。
投資というと、リスクが高いと感じがちですが、投資の期間を長期とすることによって、確実に利益を上げることが期待できます。ただ、投資の世界には「フリーランチはない」という言葉があります。長期の利益を得るためには、短期の乱高下に耐えなければいけません。それは長期的にリターンを稼ぐための対価なのです。
資産運用を行っていると、調子のよいときも悪いときもあります。短期的には上がったり、下がったりしつつも、長期的に右肩上がりならよいのです。ところが、多くの日本人は、資産額が減ってしまうことがあるなら、運用しない方がましだと思ってしまうのです。
日本は何十年も景気低迷とデフレが続きました。「失われた10年」と言われていたものが「失われた20年」になり、さらに「失われた30年」にまで発展してしまいました。
日経平均は1989年末につけた3万8915円という最高値を、それから30年以上が経過したというのに、いまだに更新することができていません。個別の銘柄では異なる動きをするものも、もちろんあるのですが、全体として日本株を見れば、単純な右肩上がりとは言えない推移をしてきたわけです。
この間、日本株に長期投資していたとしても、もしも、バブルの頂点で保有していた株式をそのままにしておいたら、長期的には資産が減ることになってしまいました。そして、その間、日本はデフレ傾向だったわけですから、反対に預金や現金の価値は上がっていたことになります。こういったことから、少なからぬ日本人がますます資産運用から遠ざかってしまったという経緯があります。
米国株は長期で見ると年率7%で比較的安定的に上昇。為替リスクも長期で見れば、気にしなくてOK
しかし、日本株がそうだったからといって、株全体に投資するのを諦めるのは正しい考え方ではありません。また、これからも日本ではデフレが続いて、株より預金のリターンがいい状況が続くとは限らないです。日本の国の借金は猛烈なペースで増加しており、これはインフレにつながりやすい状況です。
日本は人口減によって国内需要が減っており、日本企業は総体としてみれば、世界の中で競争力を段々と失ってきました。そのため、日本株は下落か横這いとなっていた期間が長かったのです。
このような状況では、海外へも分散投資した方が得策です。アメリカなどの海外の国はまだ成長する要素を備えています。米国株は長期で見ると年率7%で比較的安定的に上昇してきました。そして、さらなるリスク分散を考えるなら、米国以外の外国株を投資対象とする戦略もあります。
外国株投資というと、為替の問題がよく指摘されます。外国株は株価自体は上がったとしても、為替で負けることもあるから、結局、外国株は国内株よりもリスクが高いじゃないかという指摘です。
けれど、為替は長期で見ると、購買力に収斂していきます。これは購買力平価説という為替レートの決定理論に基づいています。同一のモノについて2国間であまりにも価格の差が大きくなれば、価格が安い国で買って、価格が高い国で売るアービトラージ(裁定取引)が成立してしまいます。
米ドル/円についていえば、実際の為替レートが近年は100~120円で推移する期間が長くなっており、比較的安定しています。足元では120円を超えて、米ドル高・円安方向に動いているとおり、安定的なレンジをはずれてこれから動くリスクは、円高方向というより、むしろ円安方向にあるでしょう。それがリスクシナリオです。
日本人が米国株投資をしているケースでは、為替が円安方向に動けば、円安になった分、投資の利益は増えることになります。リスクシナリオといっても、それが実現すれば、利益は増えることになるのです。
そして、運用期間が長くなれば、購買力で考えて、為替リスクは実はないものとも思います。
生活コストの低い日本で暮らし、投資は成長力の高い米国株へ。日米両国でオイシイとこ取り!
たとえば、ある日本人が100万ドルの資産を作ったとします。この人がアメリカで生活してFIREを達成できているとすると、日本で生活してFIREを達成していないということは基本的にはないと思います。
もしも日本で100万ドルでもFIREを達成できないとするならば、その理由は日本の物価がアメリカより高いということ以外にないはずです。しかし、日本のジュース1本の値段がアメリカよりはるかに高くなる可能性は少ないです。むしろ、アメリカと比べたときの相対的な日本の物価はこれからさらに安くなっていく可能性のほうが高いでしょう。
実際、現在そうなっています。アメリカに住んでいると特に実感します。アメリカでランチは最低限でも10~15ドルぐらいかかります。日本ではランチがまだ500円程度でも食べられると思います。
不動産価格もそうですね。シリコンバレーの普通の家は2~3億円相当の価格がついています。同じような物件が東京にあったとしても、1億円近辺になると思います。
日本経済はこれまでデフレ体質だったのと成長力が低いことがあり、日銀が金融緩和政策を長年続けていても物価は抑えられたままです。また、日銀の金融緩和政策は多くの諸外国と方向性が違うため、為替も円安方向へ振れています。こういったトレンドはこれからも続くだろうと思います。もしも、トレンドが続かなかったとしても、購買力平価説から考えれば為替リスクはあまり大きくないと思います。
日本経済は長らくデフレ体質でしたが、これからはインフレによって、預金のまま置いておいても、お金の価値は実質的に下がっていく恐れがあります(日本がインフレになっても、アメリカに比べたらインフレ率は相対的に低く、アメリカに比べて生活コストが低いであろうことは先ほど述べたとおりです)。
預金しておけば、何もしなくてもお金は減らないという時代はおそらくすでに終わっています。日本の株、不動産、預金、債券だけではなく、グローバル分散投資を行わなければいけません。
海外へ投資していると、成長が早いところ、イノベーションが強いところ、ガバナンスが働くところで自分の資本を働かせることができます。複利効果によって、長期で投資していけば、思ったよりお金は増えていくものです。
この道をたどっていけば、あなたでもFIREを達成できます。
しかし、この道をたどることは簡単ではありません。簡単であれば、誰でもお金持ちになり、FIREを達成しています。
長期投資では、それを成功させる可能性が高いやり方があります。保有する銘柄の数、銘柄分散のさせ方などは適切にやっていく必要があります。
銘柄選びの方法も大事です。ツイッターで話題になっていたから、人気YouTuberが推していたからといった理由で短期間に急上昇した銘柄に飛び乗るようなやり方は、長期投資ではあり得ません。銘柄選びも長期投資にふさわしいやり方をとる必要があるのです。この連載ではそういったことのノウハウもお伝えしていきたいと思います。
長期投資にふさわしい適切なやり方をとっていても、リスクをとって投資をしていると、短期的には株価の急落など、このままで大丈夫かな?と疑問に思い、不安を感じる場面に出くわすものです。
しかし、世界で一番成功している投資家、ウォーレン・バフェットは「他の人がパニックしていれば、うれしくなるべきだ。その時は絶好な投資チャンスだ」と言っています。冷や汗をかくような場面も、実はFIREという目標を達成するためには必要なことです。
不安を感じて投げ売りなどしないよう、長期投資でFIREを目指すためには、長期投資に取り組む心構えなど、精神的なものも大切になってきます。そういったこともこの連載ではお伝えしていきたいと考えています。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。
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