投資行動に強い影響を与える「アンカリング効果」とは?
投資の世界では心理的なバイアスが大きく働きます。その中でも特に強力なのが「アンカリング効果」です。
アンカリングとは、最初に見た数字や価格を無意識のうちに基準にしてしまい、本質的な価値判断ができなくなる心理現象のことです。株式や不動産などで、「安値を割ったら買い」「高値を超えたら売り」という行動が自然に生まれるのは、このアンカリング効果の典型例と言えます。
[アンカリングを使ったトランプ大統領の戦略に関する参考記事]
●対中国の高関税を大幅引下げ! それはトランプの著書やTV番組に示されていた交渉戦略の通りだった。バフェットの格言「アメリカに逆らうな」はやはり正しい
その住宅は55万ドルで売りに出されていたが、調査の結果、私は65万ドル以上の価値があることを確信した

私自身も、このアンカリング効果を意識して克服した経験があります。
数年前、米国シアトルで不動産投資をしていた時、ウェスト・シアトル地域で約50軒もの物件を見て回ったことがありました。
当時、55万ドル(約7000万円)(※)で市場に売り出されたばかりのある一軒家がありました。
(※円換算価格は当時の為替レートに基づくもの。以下同)
多くの買い手は過去数ヵ月の売買データを参考にしているようで、そこから55万ドルという提示価格はまずまず妥当と判断し、その提示価格を基準に入札を考えていたようでした。つまり、私以外の多くの買い手は55万ドルという提示価格にアンカリングされていたのです。
しかし、私は独自の調査から、過去数ヵ月の売買データは参考にするには遅すぎるものであり、その物件がその時点で少なくとも65万ドル(約8300万円)以上の価値があることを確信していました。
提示価格より高い65万ドルで購入した住宅の市場価格は、数年で100万ドルを大きく超えた
理由は簡単です。
その家は庭に生い茂った茂みを剪定すれば美しい眺望が得られる場所にあり、さらにその地域はかなり住宅不足の状態だったからです。
そうしたことを考えれば、数年後には100万ドル(約1億2800万円)にも達する可能性が高いと考えられました。
私は「提示価格55万ドル」というアンカーに縛られることなく、本来の価値である65万ドルまで上限を引き上げた入札を行い、結果的にその家を落札できました。
その後、茂みを整え、朽ちたデッキを修繕した結果、美しい景観がよみがえり、現在の市場評価額は100万ドルを大きく超えています。
[海外投資家から見た日本の不動産に関する参考記事]
●日本の地方の空き家は、外国人には魅力的な資産。安い日本の住宅への投資&活用を考えてみよう!
価格変動に惑わされず、本当の価値を見抜くことこそ、投資を成功に導く鍵だ
この体験から言えることは、投資で重要なのは市場に提示された「現在の価格」や「値動き」ではなく、あくまでも資産の持つ本質的価値を冷静に見極める力ということです。
不動産や株式などの資産で価格が下がり続けているものを見ると、その対象に投資することは「悪い投資だ」と直感的に感じてしまうのは人間心理として自然なことでしょう。しかし、実際には、市場でつけられている価格は、本質的価値を反映した適正価格を大きく下回っているだけかもしれません。
[参考記事]
●投資心理学:多くの人が株が暴落すると売り、急騰すると買うという衝動的・非合理的行動をとってしまうのはなぜか? 答えは「進化」の中にある
価格の変動や他者が作ったアンカーに惑わされず、本当の価値を見抜くことこそ、投資を成功に導く鍵となるのです。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。
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