歴史を知らずに「今回は違う」と言う資格はありません。今回は、AI懐疑派が引き合いに出す2つのバブルを数字で解剖し、それを物差しにしたいと思います。
そして、この物差しを使い、AI関連銘柄の一角に起こった2026年7月の株価急落について、改めて評価したいと思います。
鉄道狂時代とドットコムバブル時の猛烈な投資とその後の大きな株価下落
1840年代の英国における「鉄道狂時代」には、ピーク時の1847年に鉄道投資が国のGDPの約7%、国内投資全体の約半分を占めました。認可路線の約3分の1は建設されず、鉄道株指数は高値から3分の2も下落しました。
1873年の米国では、南北戦争後の8年間で3万5000マイルの鉄道が敷設され、その反動で恐慌が起き、全米364の鉄道会社のうち、89社が破綻しました。
1990年代のドットコムバブル時には光ファイバー敷設に5年間で5000億ドル超が投じられ、敷設された光ファイバーの9割前後が一度も通信に使われない「ダーク」のまま。2002年の稼働率はわずか2.7%、通信株の時価総額は2兆ドル減少しました。
バブルの本質は「無駄な投資」ではなく、「据付と展開の時間差」
しかし、これらの事例で、打ちのめされたのは投資家であって、インフラではありません。
英国の鉄道網は国の背骨となり、米国の鉄道の経済価値は後年の研究で年間GNPの3%規模と推計されました。そして、二束三文だったダークファイバーはブロードバンドとYouTubeとクラウドの土台になりました。
バブルの本質は「無駄な投資」ではなく、経済学者カルロタ・ペレスの言う「据付と展開の時間差」です。
資本は金融の速度(数年)で設備を作り、需要は社会の速度(数十年)で成熟する。工場に電気が導入されて生産性統計に現れるまで40年かかった、という有名な研究もあります。
この物差しで2026年7月のAI関連銘柄の相場を見てみましょう。
2026年7月のAI関連銘柄で、急落した銘柄群と急騰した銘柄群とは?
2026年7月、S&P500は2%強安、エヌビディアは5%安でした。AI相場全体が崩壊したと呼ぶような値動きではありませんでした。
その一方で、急落したのはメモリーや新興クラウドといったAIの「二次派生」銘柄(35~55%安)でした。
代表的な半導体メモリー企業の1つ、マイクロン・テクノロジー(MU)の株価推移(日足) 出所:TradingView
また、急騰したのは空売りの標的になっていた既存ソフトウェア銘柄(17~37%高)でした。
SaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)企業の代表格、セールスフォース(CRM)の株価推移(日足) 出所:TradingView
これはAI需要の崩壊ではなく、レバレッジの強制解消とローテーションです。前回の記事で紹介した、AI特化のヘッジファンド「シチュエーショナル・アウェアネス(Situational Awareness)」による株式一括売却がその象徴です。
そして注目すべきは、その株式一括売却の受け皿となった買い手の存在です。買い手となったヘッジファンド「シタデル」は割引価格とはいえ、160億ドル分の株式を引き受けました。もし「シタデル」がAIの波は終わったと判断していたのであれば、それらの株式が買われることはなかったでしょう。
[参考記事]
●【シリーズ連載:エネルギーから知能へ】第1回 人類は大昔からエネルギーを知能に変換してきた。AIが史上初なのはこれを脳を経由せず大規模に行っている点
ドットコムバブル後の光ファイバー稼働率はわずか2.7%だったが、今のAIデータセンター需要はまだまだ旺盛
次に、規模の物差しでも、現在の状況を確認しておきましょう。
現在の米国のAI投資は狭義でGDP比1~2%です。広義に数えた場合は5%程度です。鉄道敷設ピーク時のGDP比5~7%、ドットコムバブル期の約5%と比べても、少なくとも狭義ではまだその水準に達していません。
そして、需給の形は過去の事例とは逆になっています。
先ほど述べた通り、かつてのドットコムバブル後の光ファイバー稼働率はわずか2.7%にすぎませんでした。これに対し、現在のAIデータセンターは稼働開始直後から需要で埋まる状況で、クラウド事業の受注残はマイクロソフトが6780億ドル、アマゾンのAWSは4960億ドルもあります。
先日、私がメルマガ「ポール・サイの米国株&世界の株に投資しよう!」で使った言葉で言えば、今回の設備投資には「領収書」(契約済みの需要)がついているのです。
「ショック」には2種類ある。それらを区別するため、私が監視する3つの指標とは?
ただし、供給と需要の時間差は構造的なものであり、偶然ではありません。
供給が需要を追い越す瞬間はいずれ来ます。私が監視するのは3つ――AIの稼働率、受注残の伸び、電力価格。
結論はシンプルです。
「ショック」には、「需要の死」(2000年)と「ポジション一掃」(今回=2026年7月)の2種類があります。それらを見分ける物差しは、株価ではなく、稼働率なのです。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査に12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語に堪能。米国株などの資産運用について助言するメルマガ「米国株&世界の株に投資しよう!」を配信中。著書『台湾系アメリカ人が教える 米国株で一生安心のお金をつくる方法!』発売中。
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