2026年9月16日(水)、米国・シアトルからザイ投資戦略メルマガ「ポール・サイの米国株&世界の株に投資しよう!」で情報配信をしている元フィデリティ投信トップアナリストのポール・サイさんが、ストックボイス社が手掛ける経済・マーケット番組「WORLD MARKETZ」(TOKYO MX 月~金 22時~23時)に生出演した。

AIの進化はスローダウンどころか加速している? 数カ月かかっていた経営分析もAIでできるように
番組は、シアトル在住ストラテジストのポール・サイさんに、急速に進化するAIについて聞くところから始まった。
AIの急速な発展に伴い、その安全性や社会への影響を懸念する声も聞かれるようになっている。
実際に日常的にAIを活用しているポールさんは、AIの進化について、「スローダウンしているというより、どんどん加速していると実感している」と話す。
その実感につながったのが、自身が会長を務めるPTAでの経験だ。
ポールさんのPTAでは、学校の運営資金を集めるため、毎年スキー用品などを販売する大規模なバザーを開催している。
ポールさんによると、このイベントについて以前と同じような経営分析をしようとすれば、かつては数カ月ほどかかっていたという。
ところが、現在はAIを活用することで、その大部分をこなせるようになったそう。
さらに、学校のウェブサイトを参考にしながらPTAのホームページをリニューアルした際には、わずか1~2個のプロンプト(AIへの指示)で、30分~1時間ほどの間に7割程度まで作ることができたという。
以前のAIは間違った回答をしたり、うまく動かなかったりするケースも多かったが、そうした問題も徐々に減っているとポールさんは感じている。
数学など高度な分野でもAIの能力向上が続いていることから、AIの開発スピードはむしろ速くなっているのではないかとの見方を示した。
AIを使ってフィデリティ・コントラファンドを独自分析。公開情報だけでプロ向けの分析を再現
続いて番組MCの渡部一実さんが注目したのが、ポールさんがAIを投資分析に活用していることだ。
ポールさんは自身のウェブサイト「PAUL TSAI.net」で、米国の大型株を中心に投資し、長期にわたって運用されてきたアクティブファンド「フィデリティ・コントラファンド」を独自に分析している。
(出所:WORLD MARKETZ)
ファンド会社自身も運用成績や保有銘柄などを開示しているが、ポールさんによると、そうした開示だけではファンドの運用実態を十分に把握しにくい場合があるという。
そこでポールさんは、ファンド会社や米証券取引委員会(SEC)への提出資料などの公開情報を使い、かつて自身がフィデリティ投信で働いていたころ、ファンドの運用成績や投資行動をレビューするために作っていたような分析を再現した。
しかも、現在はAIを活用することで、その分析に必要な作業時間を大幅に短縮できるようになったという。
では、そこまで詳しくファンドを分析することに、どんな意味があるのだろうか。
ポールさんは、レストランで料理を選ぶことに例えて説明した。
同じように見える料理でも、エビや豚肉、野菜、ソースなど、何が入っているのかによって中身はまったく違う。
投資信託も同じで、表面的には似たファンドに見えても、実際にどんな銘柄を保有し、どんなリスクを取っているのか、手数料はいくらなのかによって、その性格は変わってくる。
そのため、ファンドを買うかどうかを考えるときは、運用成績だけでなく「中身」を確認することが重要というわけだ。
ファンドを買わなくても投資のヒントになる。プロが「何を多めに持っているか」をAIで追跡
ポールさんは、ファンドそのものを購入する予定がなくても、その保有銘柄を分析することには意味があると考えている。
プロのファンドマネージャーがどの銘柄を買い、どの銘柄を売り始めているのかを追跡することで、自分自身の投資を考える際のヒントが得られるからだ。
その際、ポールさんが注目しているのが「アクティブウェイト」だ。
アクティブファンドを見る際は、S&P500などのベンチマーク(運用成績を比較する基準)に対して、銘柄ごとの保有比率がどれくらい違うのかがポイントになる。
例えば、ある銘柄がベンチマークの中で5%を占めているのに対し、ファンドで10%保有していれば、その銘柄のアクティブウェイトはプラス5%となる。
つまり、ベンチマークよりどの銘柄を多く持ち、どの銘柄を少なく持っているのかを見ることで、ファンドマネージャーが「どこに賭けているのか」が見えてくるという。
ポールさんの分析では、フィデリティ・コントラファンドには、メタ・プラットフォームズのようにベンチマークより多く組み入れられている銘柄がある一方、少なく組み入れられている銘柄もある。
(出所:WORLD MARKETZ)
ベンチマークと同じ銘柄を同じ比率で保有していては、ベンチマークとの運用成績に差は生まれない。
こうしたアクティブウェイトも、ポールさんがファンドの運用方針を分析するうえで重視しているポイントの1つだ。
コントラファンドの上位10銘柄への集中度が低下。運用体制の変化にも注目
ポールさんは、フィデリティ・コントラファンドの「集中度」にも注目している。
これは、ファンド全体のうち上位10銘柄がどれくらいの割合を占めているのかを見るものだ。
S&P500自体も、AI関連株など大型テクノロジー株の上昇によって、一部の大型銘柄への集中度が高まってきた。
コントラファンドも同様に集中度が上昇していたが、ポールさんの分析では、最近になって上位銘柄への集中度がやや低下していることが確認できるという。
その背景としてポールさんが注目しているのが、長年コントラファンドを運用してきた著名ファンドマネージャー、ウィル・ダノフ氏からの運用体制の変化だ。
運用者が変われば、当然ながら投資スタイルにも変化が出る可能性がある。
ポールさんは、運用体制の変更との因果関係はわからないとしながらも、以前に比べてややリスクを抑えた運用に変化しているように見えると話す。
今後も注目すべきポイントの1つだという。
コントラファンドの約半分がAI関連!? 通常の業種分類では見えない「AIへの賭け」を独自に分析
もう1つ、ポールさんが独自に分析しているのが、フィデリティ・コントラファンドがどれくらいAI関連企業に投資しているのかだ。
通常、米国株はGICS(世界産業分類基準)によって情報技術やコミュニケーション・サービスなどのセクターに分類される。
ところが、AI関連企業は1つのセクターにまとまっているわけではない。
例えば、AI関連企業として注目されるメタ・プラットフォームズやグーグルの親会社アルファベットは、GICSではコミュニケーション・サービスに分類される。
そのため、通常のセクター別構成を見るだけでは、ファンドが実際にどの程度AIに投資しているのかわかりにくい。
そこでポールさんは保有銘柄を独自に分類し直し、コントラファンドのポートフォリオのうち、AI関連が約48%を占めていると分析した。
一方、残りのAI以外の投資先を見ると、たばこ関連やホームセンター関連なども組み入れられている。
AI関連株が注目される中で、プロのファンドマネージャーがAI以外のどんな企業に投資しているのかを見ることも、投資のヒントになるというわけだ。
その月の保有銘柄を見るだけではわからない。「変化」を追えばファンドマネージャーの投資行動が見える
一般的なファンドの開示資料では、ある時点の保有銘柄や組入比率を確認することはできる。
しかし、それだけではファンドマネージャーが過去から現在まで、どのように投資判断を変えてきたのかはわかりにくい。
そこでポールさんの分析では、公開されているデータを時系列で整理し、個別銘柄の保有比率がどのように変化してきたのかを確認できるようにしている。
例えば、メタ・プラットフォームズの保有比率を追えば、ファンドが同社への投資を積極化しているのか、それとも減らしているのかが見えてくる。
ファンドマネージャーというと、相場に合わせて頻繁に銘柄を入れ替えているイメージもあるが、必ずしもそうではないようだ。
ポールさんによると、運用成績の良いファンドほど、有望だと判断した銘柄を長く保有する傾向があるという。
フィデリティ・コントラファンドについても、成長性がありながら株価が割高ではない銘柄を選ぶ「Growth at a Reasonable Price(GARP)」という考え方を重視してきたとポールさんは説明する。
何年分ものデータ整理やチャート作成もAIなら一気にできる。ただし「何を見るべきか」という知識は必要
渡部さんは、こうした分析を人間が手作業で行えば、膨大な時間が必要になるのではないかと尋ねた。
ポールさんも、何年分ものデータを集めて整理し、さらにチャートまで作ろうとすれば、従来はかなりの時間がかかったと話す。
AIを使えば、その作業を大幅に効率化できる。ただし、AIに任せれば誰でも同じ分析ができるという単純な話でもないという。
ポールさんの場合、ファンド分析の経験があるため、「ファンドを見るときに、どこをチェックしなければならないか」を理解したうえでAIに指示している。
個人投資家の場合、そもそも何を分析すればいいのかわからないこともある。
それでも現在のAIなら、分析したいファンドや参考となる分析ページを示して、「このファンドを分析してほしい」と依頼することで、以前よりはるかに高度な分析に取り組みやすくなっているようだ。
つまりAIは、単に情報を検索する道具ではなく、これまでプロが時間をかけて行っていた投資分析を、個人投資家にも身近なものにする可能性があるということだ。
AIの急速な進歩にはリスクも。ポール・サイ氏が「危険だ」と感じる理由とは?
一方、AIの急速な進化はメリットばかりではない。
渡部さんが、AIの開発スピードや人間社会へのリスクをどう考えているのか尋ねると、ポールさんは「危険だと感じている」と答えた。
現代社会はコンピューターや決済システムなど、さまざまなデジタルインフラに大きく依存している。
そのため、AIの利用拡大によってそうしたシステムに重大な問題が起これば、社会生活にも大きな影響が及ぶ可能性がある。
また、バイオテクノロジーなどの分野でAIの能力が高まれば、悪用された場合のリスクも無視できないとポールさんは考えている。
さらに、ポールさんが注目するのが、「AIを使える人」と「AIを使えない人」の格差が広がる可能性だ。
AIとロボットによって人間の仕事の多くが代替できるようになれば、これまで人間が担っていた仕事や社会における役割そのものが変化する可能性がある。
AIによって生産性が上がる一方、その恩恵を受けられる人と受けられない人の差が拡大すれば、社会全体にとって新たな課題になるという。
AI革命のような大きな変化を経験できるのは「ラッキー」。だからこそ投資でも分散が重要
こうした急激な社会変化に備えて、緊急時の食料を用意したり、決済システムが使えなくなった場合に備えて少額の現金を手元に置いたりすることも考えていいのではないかとポールさんは話す。
新型コロナウイルスの感染拡大を経験したことで、世界は想像以上に急激に変化することがあると実感したからだ。
投資についても同様で、何が起こるかわからないからこそ、1つの資産やテーマに集中するのではなく、ある程度の分散を意識する必要があると話した。
ただ、AI革命という大きな変化を目の前で経験できることについて、ポールさんは前向きにも捉えている。
現在の大人の世代は、インターネットの普及やドットコムバブルなど、情報革命によって社会や市場が大きく変化する過程をすでに経験してきた。
その経験があるからこそ、AIによって起きている変化についても、過去と比較しながら考えることができる。
インターネットによる情報革命を経験したうえで、今度はAI革命をある程度成熟した視点から見られることは「すごくラッキーなこと」だとポールさんは語った。
ここまで、9月16日(水)に放送された「WORLD MARKETZ」の模様をお伝えした。
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●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査に12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。著書『台湾系アメリカ人が教える米国株で一生安心のお金をつくる方法』を発売中。
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