絶好調だった25歳の天才率いるAI特化のヘッジ・ファンドが7月だけでマイナス67%のパフォーマンスに
7月30日の朝、ウォール街で静かな、しかし、歴史に残るかもしれない取引が行われました。
25歳の天才レオポルド・アッシェンブレナー氏が率いるAIに特化したヘッジ・ファンド「シチュエーショナル・アウェアネス(Situational Awareness)」が、約160億ドル(約2兆5000億円)の株式ポートフォリオをほぼ丸ごと一括でヘッジ・ファンドの「シタデル」に売却したのです。
シチュエーショナル・アウェアネスの7月ひと月の成績はマイナス67%と報じられています(それでも年初来ではプラス80%)。450億ドル近くあった運用資産は約100億ドルまで急減しました。そのため、短期的な資金繰りの問題が生じ、保有する株式ポートフォリオを売却せざるを得なくなったのです。
4倍のレバレッジで、AIインフラ(メモリー、新興クラウド、データセンター電源)を買い、既存ソフトウェア銘柄(アドビ、セールスフォースなど)を空売りする――純度100%の賭けが、7月の市場のローテーションで両側から踏まれた形となりました。
シチュエーショナル・アウェアネス(Situational Awareness)公式サイト
AIファンドはレバレッジで飛んだが、「AIが巨大である」というテーゼは間違っていない
この一件を「若者がレバレッジで飛んだ」で終わらせるのは簡単です。
しかし、私が注目するのは、彼のテーゼの方です。彼は「AIが巨大である」ことについては間違えていません。
[参考記事]
●AIバブルのピークは今ではない。テクノロジー株を持っている人と、そうでない人の資産の二極化が進んでいる
●AIのピークアウト論は、外れても何も言われないメディアが煽っているだけ。ザッカーバーグやイーロン・マスクは、AIが本物だと強く確信している
間違えた可能性が高いのは、価値がどこに蓄積されるかという読み――言い換えれば、この革命を何に喩えるか、でした。今回から始まるこのシリーズ連載は、その問いに正面から答える試みです。
人類は大昔からエネルギーを知能に変換してきた。AIが史上初なのは、この変換を脳を経由せず、産業的な規模と効率で行う点だ
私の仮説から始めます。
人類は実は大昔から、エネルギーを知能に変えてきました。ただし、恐ろしく非効率に――人間の脳という迂回路を通じてです。
農業革命も産業革命も、その本質は「(一定数の)人間を筋肉労働から解放し、考える時間を作った」ことにありました。
カロリーは胃を通り、脳を通り、何十年もの養育と教育を経て、ようやく思考になります。AIが史上初めてなのは、この変換を脳を経由せずに、産業的な規模と効率で行う点です。
エヌビディア、マイクロソフト、OpenAIのCEOたち自身がすでにそう語っている
AI関連企業の当事者たちは、すでにそう語っています。
エヌビディアのジェンスン・フアンCEOは「電子が入り、数字が出てくる。そのトークン(AIの出力単位)こそが知能だ」と話しました。
マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは、AI時代の通貨は「1ドル・1ワットあたりのトークン数」だと述べ、OpenAIのサム・アルトマンCEOは「知能のコストは最終的に電気のコストに収束する」と述べました。
変換効率も劇的に良くなっています。
グーグルの開示では、Geminiへの質問1回に使う電力は中央値で0.24ワット時と、1年で33分の1になりました。
前回の当連載では、私自身がAIを活用し、短期間でフォトブックを完成させた話をご紹介しましたが、その時、書いた通り、私が2日間のAI使用に対して支払った金額は、突き詰めればほぼ電気代でした。
[参考記事]
●AIを活用して息子に贈る156ページのフォトブックを2日で完成。コストは数十分の一、時間は十数分の一――AIのROI(投資収益率)は桁違いだ
AI関連の巨額投資が「行き過ぎ」に見えるか、まだ「序盤」に見えるかは、どの比喩を選択するかで決まる
ここで私の仮説へ話を戻しましょう。
鉄道はモノを、光ファイバーは情報を「運ぶ」技術でした。一方、AIはエネルギーを認知労働に「変換する」技術です。
AIが「運ぶ」技術のカテゴリーではなく、「変換する」技術のカテゴリーに属するものならば、AI革命の比較対象とすべき存在は鉄道バブルではなく、エネルギーを動力に変えた産業革命や、知の生産体制を変えたルネサンスかもしれません――ただし、この比較にもワナがあり、このシリーズ連載の第3回で私の仮説は一度、数字に殴られます。
[参考記事]
●新しい産業革命とも呼ばれるAI革命だが、その経済的インパクトはむしろ産業革命とは真逆!? AI革命がもたらすデフレ圧力が投資戦略に及ぼす影響とは?
どの比喩を採用するかで、目の前の巨額投資が「行き過ぎ」に見えるか、まだ「序盤」に見えるかが決まります。どの比喩を選択するかということは、実は投資しようとするAI関連銘柄のバリュエーションの評価につながります。
アッシェンブレナー氏は比喩を1つに絞り、レバレッジをかけ、そして、退場しました。私たちはもう少し慎重に、しかし逃げずに、同じ問いを追いかけましょう。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガ「米国株&世界の株に投資しよう!」を配信中。著書『台湾系アメリカ人が教える 米国株で一生安心のお金をつくる方法!』発売中。
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