もし、エネルギーが知能に変わるなら、知能の供給を最後に決めるのはエネルギーです。本シリーズ連載の最終回となる今回は、その蛇口の話をします。そして、最後はシリーズ連載全体をまとめ、投資家視点からの結論を述べます。
世界のデータセンターの電力消費量は2024年から2030年にかけて倍増する見通し
では、電力の数字から見ていきましょう。
IEA(国際エネルギー機関)の発表によると、世界のデータセンターの電力消費量は、2024年の415テラワット時から2030年には945テラワット時へ2倍以上に増える見通しです。これは日本一国の総消費電力に匹敵する数字です。
世界のデータセンターにおける機器別電力消費量の実績値と予測値 2020年~2030年 水色:加速型サーバー、青:従来型サーバー、黄緑:その他のIT機器、緑:冷却機器、黄色:その他のインフラ 出所:IEA, Energy and AI (2025) / CC BY 4.0
あるハイパースケーラーのCEOは昨年(2025年)の秋、「いま最大の問題はコンピュートの供給過剰ではなく電力だ。電源に差し込めないチップが在庫に積まれている」と認めていました。
電力は重要だが、これから10年のボトルネックは電力そのものではない
ただし、正確には、これから10年のボトルネックは電力そのものではありません。
送電網への接続待ちは平均4年半、大型変圧器の納期は3~5年、ガスタービンは2030年頃まで実質完売。
不足しているのは「電気」ではなく、「電気を作る機器、運ぶ設備と許認可」です。米国最大の電力市場PJMの容量価格は2年余りで10倍以上になりました。
大手テック各社は原子力発電による電力確保に動いている
だからこそ原子力発電が戻ってきました。大手テック各社は相次いで動いています。
1979年の事故を起こした2号機とは別のスリーマイル島1号機は、2027年の再稼働を目指しており、マイクロソフトがその電力を20年間購入する契約を結んでいます。
そして、既存原発からのギガワット級の電力確保が続いており、新規の原子力発電所発注は数ギガワット規模に達し、新型小型炉(SMR)や核融合にまで電力購入契約が及んでいます。
米政府は「2050年までに原子力発電を400ギガワットに拡大する」大統領令を出しました。
エネルギーは「解決できる制約」だが、本格的に解決できるのは2030年代。ここに投資機会がある
一方、現実の時間軸も直視すべきです。
建設中の大型原子炉は中国36基に対し、米国ゼロ。ウランは電力会社の契約量が必要量の半分程度しかないという構造的な需給問題を抱えています。
エネルギーは「解決できる制約」です――人類は資本を電気に変える技術(核分裂)を持っています。ただし、本格的に解決できるのは2030年代で、この時間差こそが投資機会の正体なのです。
なお、労働人口が減り続ける日本は本来、「AI=労働の代替」の恩恵が最も大きい国のはずですが、稼働可能な33基のうち、福島第一原発事故後に再稼働したのはまだ15基にとどまります。エネルギーを知能に変える変換装置を持たない国は「天才の国」を輸入する側に回る――日本の投資家がこのテーマを他人事にできない理由です。
[「天才の国」に関する参考記事]
●【シリーズ連載:エネルギーから知能へ】第4回 AIで「知能」が2倍になればGDPも2倍になる? 経済効果の予測が大きく割れる理由とは?
電気は静かに知能に変わり始めている
そして、本シリーズ連載第1回で紹介した、ヘッジ・ファンド「シチュエーショナル・アウェアネス」のレオポルド・アッシェンブレナー氏の話に戻りましょう。
[参考記事]
●【シリーズ連載:エネルギーから知能へ】第1回 人類は大昔からエネルギーを知能に変換してきた。AIが史上初なのはこれを脳を経由せず大規模に行っている点
1873年の鉄道恐慌で報われたのは、線路を敷いた資本家ではありませんでした。線路の上で小荷物を運んだアダムス・エクスプレスであり、寝台車を貸したプルマンでした。
ネットワークを作る資本は競争と陳腐化によって削られ、その上に乗って顧客とデータと標準を握る者が利益を持ち帰るのです。
光ファイバーの残骸の上でグーグルとネットフリックスが育ったのも同じ構図です。
[参考記事]
●【シリーズ連載:エネルギーから知能へ】第1回 人類は大昔からエネルギーを知能に変換してきた。AIが史上初なのはこれを脳を経由せず大規模に行っている点
●【シリーズ連載:エネルギーから知能へ】第2回 鉄道狂時代、ドットコムバブル期と比較して考える。2026年7月の一部AI関連株下落、AI懐疑派の主張は妥当か?
アッシェンブレナー氏がとった「コンピュートを買い、ソフトを売る」という投資戦略は、前述の歴史に照らせば、長期では分の悪い賭けでした。コンピュートは、資本さえあれば誰でも買える以上、いずれコモディティになるからです。
ただし、短中期でCAPEX(資本的支出)の波に乗ること自体は合理的で、その波はまだ終わっていないと私は見ています。アッシェンブレナー氏が運用していたポートフォリオのほとんどをヘッジファンド「シタデル」が買い取ったことが、その何よりの証拠です。
[「バーベル戦略」に関する参考記事]
●S&P500に大差をつけた「バーベル戦略」の片翼を担った石油株。中期ではいいけれど、長期でなぜ持ってはいけない?
このシリーズ連載では、「エネルギーが知能に変わる」という大きな構造から、AI時代の投資機会について考えてきました。
では実際に、私はこの変化の中でどの企業に投資し、どの銘柄を避け、ポートフォリオをどう組んでいるのか。
メルマガ「米国株&世界の株に投資しよう!」」では、AI、半導体、電力・原子力を含め、私が実際に注目している企業や投資判断を毎週詳しく解説しています。記事で紹介した「知能の供給曲線」を、具体的な投資にどう落とし込むのかに興味のある方は、ぜひご覧ください。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査に12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語に堪能。米国株などの資産運用について助言するメルマガ「米国株&世界の株に投資しよう!」を配信中。著書『台湾系アメリカ人が教える 米国株で一生安心のお金をつくる方法!』発売中。
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