★★★☆☆ (5段階中3 最高評価は5)
同社は高い将来性を有しています。将来性から現在の時価総額は大方説明できます。それでも、中立判断の3となってしまったのは、現段階で株価が高いと考えているためです。理由は後述します。
筑波大学発のベンチャー、唯一無二のリハビリ補助器HALが主力
CYBERDYNE株式会社(7779)は東証マザーズに上場する新興企業です。筑波大学発のベンチャー企業です。同大学の山海嘉之教授が創業者であり社長を務めています。
脊髄損傷患者を再生医療治療と同社開発のHALにより失われた身体機能を回復させるリハビリが市場からとても注目されています。HALとはサイバーダイン株式会社が提供するHybrid Assistive Limbの略です。
死んだ蛙の足の筋肉に電気を流すと足が動くガルバーニ(1737-1798)の実験は小学校のとき、皆様も経験されたのではないでしょうか。
筋肉が動くときに脳からの指令が微小な電気になって神経を流れます。脊髄等を損傷した方は、常人で機能する生体の電気・神経システムがうまく効きません。ですが、脳はしっかりと意識を持ち、筋肉を動かそうと多くの指令を出しているのです。その仕組みを、体からの微弱な電気信号として解釈できたのが同社の革新性です。それを権利化してビジネスにしてしまったのです。微小な電気を体に貼り付けたセンサーで感知。コンピューターが次の行動を予測し、必要な部分のモーターを動かす仕組みです。
筑波にある同社本社を訪問した際には、下肢タイプのHALを有料で装着させていただきましたが、例えば、右足を上げたいと頭で思うと、勝手にスーツが反応して、右足が上がるのをスーツがアシストするので、不思議な感覚でした。
正直、とてもびっくりしました。
脳の命令をそのままロボットスーツに伝える仕組みやノウハウが同社の強みであり、この分野では唯一無二の存在となっています。
脳卒中患者への保険適用に期待も業績に対して市場は高評価過ぎ
今後、大きな期待がかかるのが、患者数がべらぼうに多い脳卒中患者のリハビリへの保険適用です。スケジュールとしては、2年程度で、脳卒中患者のリハビリに同社のHALが我が国で保険適用されるとみられています。
将来は、日本だけではなく、世界各国へのHALの普及が期待されています。そのため、同社の株価は非常に高い評価を得てきました。
しかしながら、株価はピークの2016年6月の2600円から大きく下落しています。2019年3月の600円台へと3分の1以下になりました。それでも時価総額は1500億円です。
何年も継続している赤字を考えると市場の評価は依然としてとても高いのです。同社の株価が近年、さえない理由も考えてみましょう。
冴えない理由の一つは過去の業績です。業績は「ひどい」の一言です。2009年から一貫して10年赤字です。また、従業員数は非常に少なく数十名の規模です。
売上と時価総額との対比(=PSR, Price Sales Ratio)は2015年は400倍を超えていました。現在は、90倍程度に下がっています。とはいえPSRが90倍という水準は極めて高い部類に入ります。
市場は気が早いので、早急な「結果」(=黒字)を求めているのでしょう。数年前に買った方々はもっと力強い業績の拡大を見込んでいたのでしょう。
前述の通り、日本において医療向けに下肢タイプが脳卒中のリハビリに保険適用が期待されているのです。それこそが、いまだに、売上17億円の赤字企業が時価総額1500億円を誇る理由なのです。現在の時価総額1500億円はどう説明できるでしょう?
まず、同社のビジネスモデルは売り切りではなくレンタルです。医療向けの下肢タイプのHALのレンタル料金は40万円程度だそうです。また、薬価改定などの動きと合わせると、保険適用が叶えば、月々30万円程度で貸せるのではないでしょうか。このレンタル料金をベースにして業績やバリュエーションを考えていきましょう。
期待される脳卒中での保険適用となれば、どれだけ普及するでしょうか。全国で脳卒中のリハビリが行える施設は1000ほどあります。1施設あたり2台が普及する仮定すると、2000台程度のHALが配備されるのでは?と期待が持てますね。全ての施設というわけにはいかないでしょうから、その半分が導入するとしましょう。そうなると、最終的には、年間でおよそ50億円の売上規模となります。
さて、同社は原価率で30%を超える程度ですから、粗利が35億円となります!! 販管費 20億円。
営業利益は15億円となる計算です(まあ、ツッコミどころは満載の前提ではあります)。さて、営業益15億円ならば純利益は10億円程度でしょう。そうとなれば、PERは140倍まで「改善」します。下肢タイプは片足タイプと両足タイプがあり、ここでは片足タイプのレンタルを月額40万円として一部両足として平均で年間500万円をレンタル料/台としました。
一方で、HALの需要サイドをみてみましょう。我が国には年間150万人の脳卒中患者がいるとされています。年間で30万人程度が脳卒中となります。その2割がリハビリをすると仮定しましょう。全くリハビリが不要な軽度が大半でしょう。従来のリハビリで十分な方々を除きます。また、重すぎる重度の方も除いています。自己負担もかかるので、2割ぐらいかなと想定しました。
すると6万人がHALを使うことになります。HAL1000台が年間一人平均30回のリハビリと仮定。
一台を三人/日で分け合うと仮定。1000台に360日/30日をかけて3人をかけると3.6万人対応可能です。仮定が正しいかは別にして、計算の結果です。これで日本は、ほぼ、十分対応が可能でしょう(これぞまさしく皮算用です...)。
さて、さらに期待が募るのは海外の市場です。米国では日本の4倍の脳卒中患者がいます!!
ところが米国の医療制度は、政治力のある医薬品メーカー等の力で治療費や医療費は高騰しています。その上、日本のような皆保険制度もないため、日本の3倍程度の医療負担が国民に重くのしかかります。「貧乏人は病気になるなよ」と言う国が米国です。
金持ちだけが治療できる国、米国は、HALは日本のように誰もが使えません。ただし、金持ちの比率の分だけは普及するのでしょう。患者数は多いのですが、市場規模は多分、日本以下でしょう。
それでも、日本程度の市場が米国にあると仮定してみれば、そのまま純利益を2倍にすればよいのです。
すると日本と米国との可能性を考慮した純益想定は20億円となり、これでようやくPERは70倍まで下がりました。
さて、国内では医療向けHALの医療単価を2.5倍に引き上げました。まさに国策です。薬価などは引き下げられるのが普通ですが、引き上げたのは国として同社を応援したいという表れでしょう(2016年のこと)。
脳卒中分野での米国FDAへの申請はまだです。臨床もまだ先です。アップサイドは、日本以外の国で、どこまでHALが普及するのかにかかっています。
腰装着型の普及は懐疑的
同社が近年、力を入れている腰装着タイプのロボススーツの将来性はどう考えればよいでしょうか。
単に、ロボットスーツで福祉向けや労働者向けのものでは期待はできません。同社の優位性が医療向け下肢スーツほどないのです。競争もかなり厳しい市場なのです。
投資家の皆様の中には、腰タイプの普及に期待を持つ方が多いと思います。ですが、私は同社の腰タイプの普及に懐疑的です。
腰型は、量産実績やコストに長けた大企業が抑えるべき市場ではないかと思っているからです。つまり、開発がいくらよくても、量産の格安コストが提案できないとビジネスにはならないのです。ここが量産化や低コスト志向商品のビジネスの難しいところです。
この分野でCyberdyneが大きな赤字を出す可能性もあります。不確実な急成長市場なので、むしろ罠が多いのです。汎用市場は、とても危険と思ってしまうのです。
技術力はあるが経営力には疑問符
経営については、山海先生の発明から始まった医療向けHALビジネスは、レンタル中心のビジネスモデルや知財の強さから、医療向けのコアのビジネスモデルは評価されていると思います。
一方で、経営に関する投資家からの率直な意見としては、「同社の経営大丈夫かな?」と心配してしまうこともあります。山海先生が技術や学術的な分野でとても優れた人であることはわかるのですが、天は二物を与えずで管理やコンプラや営業や経理などの面でどうかなと思ってしまう部分が正直にあるのです。
その懸念の一つは、従業員数の過去の推移です。これは直近の有価証券報告書を見るだけではわからないことです。5年前の有価証券報告書を見ると、社員数が150人規模であったことが確認できます。これが直近ではかなり減っています。そのかわりに臨時社員が急増しているのです。2017年3月期より従業員の概念が変わったのです。これはあまりよろしくない!!
研究開発型の企業は人が全てなのです。アルバイトや派遣ばかりでは、社内のムードが心配なのです。
さらなる懸念は、資産運用の面です。多額のお金を上場によって調達したのはよいのですが、投資有価証券による運用が200億円を超えています。
同社は資産運用やベンチャーキャピタルのプロではありません。そこは現金で保有する方が無難です。
最大の懸念は、前述の通り、経営判断として、競争の極めて厳しい汎用ロボットスーツへの資源を投入していることです。これは、後々、経営のミスジャッジに問われかねません。
この汎用市場へ進出した経営判断が、株価を2600円から700円割れまで押し下げてきたと要因の一つであると私は考えているのですが、いかがでしょうか(もちろん、医療向けの市場拡大が想定以下という面も大きいのでしょう)。
私にとっての懸念は他の人にとっての期待でもあるので、見方はそれぞれですが。
ユニークな企業だが株価が高すぎるため「中立」
議決権ベースでは、優先株を保有する山海社長が8割を超える議決権を保有しています。大量の優先株があることで、普通株式の評価は難しくなります。
一般論ですが、あまりにもPSRなどの評価が高い場合、株を買っても、予想される儲けは多くはないのです。高成長を株価が織り込んでいるからです。
社会的な意義が高く、HALによるリハビリを待ち望む方々も多く、とてもユニークな企業ではありますが、まだまだ株価の評価が高いため、「中立」といたしました。
大学発のベンチャーとして、高評価を得ている同社が、大きな資本を手にして、研究を加速させていることは、これぞ、資本主義のあり方ですので、とても喜ばしいことです。
同社が上場しなければHALのここまでの発展もなかったでしょう。先行投資や拡大均衡作は、グロース市場の開拓に必要なステップです。
研究を続けたい大学の先生方は、国の丸抱えで研究費を捻出できる時代ではもはやありません。研究継続には社会への説明を考えてください!という時代です。
税金を丸々全て使ってしまうような基礎研究であっても、その意義を丁寧に説明する事が必要な時代になったのです。
たとえ、基礎研究であっても、社会の役に立つ分野には資本が必ず流れます。
ですから、大学の先生方におかれましては、ぜひ、自らの研究の意義を市場に問うてください。株式市場は先生方の研究を意義あるものとして資本の額で応援するでしょう!
頑張れ Cyberdyne!
頑張れ 世界中の大学!
意義があると思える事業に投資して損することは、長期的には企業を育てる
投資が単に損得のゲームに過ぎないならば、投資家はバリューエションの高いものを購入する必要はありません。
ただし、思い入れがある事業や、意義があると思える事業に、自らの資本を賭けるのは、立派な投資です。
どうしても応援したくなる、そんな意義あることをサポートするのが私たち投資家の役割です。
事業リスクをあえてとり キャピタル・ロスを厭わないのも、粋な生き方です。株式で被った損(含み損)は一時的なものです。ですが、それは、長期では将来の人材の育成に直結するため、ただの損では終わらないはずです。
損する度に、投資家が資金を回収していては、企業から現金がなくなってしまい、企業は倒産してしまいます。
損をしても耐える。それも一つの投資家のあり方。何故ならば、投資家は社会の安全弁だからです。それが投資家の重要な社会的な役割の一つです(投資家は事業リスクのセーフティネット)。
私たち投資家の「我慢」により、企業の預金通帳から資金が引かれず、社員へと給料が払われる。結果として、大切な社会の構成員たる社員たち(私たちの同僚や仲間)が守られるのです。
そして、経営者と社員と投資家が共に目指す、将来の意義のある大望の成就に、たとえ半歩でも、しかし半歩だけは近づくことができます。
この半歩のために、何年も夢を賭けるのが投資家にとってのロマンではないでしょうか。
損失を恐れずに果敢にリスクをとったことを誇りに思ってください。誰もがリスクを取れるわけではないのですよ。リスクは、ほんの一握りの方々しか取れないものです。皆様のリスクを恐れない勇気が、大きなイノベーションを巻き起こす触媒となるでしょう。
少なくとも、私は株式投資は損得だけのゲームではないと考えています。次から次へと投資案件を消費する態度では投資とはゲームに過ぎません。
消費する態度ではなく、一つの案件に深く長く関わることを「金融リテラシー」と言います。長期投資とは、企業と長く深く関わることなのです。その態度が、投資という多数にとっての消費のゲームを少数派にとっては新しい世の中を作る運動へと昇華させるはずです。
こんな言葉では、ロスという大きな痛みは癒えないでしょう...。全く慰めにはならないかもしれません。ですが、共に、企業の発展を見守ることならば、私にもできます。私が取り上げた企業に注目すべき進捗があれば、また、改めて、ご報告いたします。
この連載は、10年で10倍を目指す個人のための資産運用メルマガ『山本潤の超成長株投資の真髄』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、週2回のメルマガの他、無料期間終了後には会員専用ページでさらに詳しい銘柄分析や、資産10倍を目指すポートフォリオの提案と売買アドバイスもご覧いただけます。