配管の継手に革命を起こしたイハラサイエンス
★★★★★ (5段階中5 5が最高評価)
目標株価2300円
足元の半導体製造装置需要を考えると今期の会社予想は想定以上に強気です。しかしながら、配当性向の水準が低いことや、それでも配当利回りが3%を大きく超えている現状の株価は割安です。長期的には業績の飛躍が期待できる同社の評価はもちろん最高評価の5です。
イハラサイエンス株式会社(5999)は、配管をつなぐ継手の製造販売メーカーです。
配管の継手って何でしょうか。みなさまは真っ先に思い浮かべるのは上下水道やガスの配管のつなぎ目なのかもしれません。真っ直ぐなパイプを曲げるためにL字の継手がありますね。継手など、何のイノベーションもない商品だ。それが大多数の読者の印象かもしれません。
しかし同社の継手はまったく違うのです。同社のモットーは「配管を科学する」です。
提唱したのは、1997年。社名を「イハラサイエンス」に変更したときです。その後、 同社は実に独創的な商品を次々と出してきたのです。
尖った製品を直販体制で世界に売り込む!
金属加工は奥が深い分野です。単なる切削ならば誰でも工作機械があればできると思うかもしれません。しかし、同社は大元から考えたのです。なぜ切削するのだろうか。切削すれば切り屑が無駄になってしまいます。
切削せず、無駄を出さないで、しかも、溶接を省くことはできないだろうか。これまで、一体、そんなことは誰も考えなかったですし、考えたとしても、困難が多くて製品化はできなかったのです。
配管を科学してわかったことは、直角の配管をすこし丸みを持たせるだけで流体の抵抗が3割も削減できるということ!!
直角時には流体が角でぶつかり渦ができます。それを曲面にすることでスムーズな流れを実現できるはずだと。
結果として、高圧の継手からの騒音が大きく削減されたのです。これこそ、NNT(滑らかに流れる継手)と同社が呼ぶ、新型継手でした。日本で瞬く間に普及した。 これまでのL型の形状を同社が変えたのです。
同社は継手の作り方を大きく変貌させました。切削を減らした製法をとったのです。削らず、熱圧力で変形させる手法をとります。これは大変、高度な技術なのです。コンピューターを多用した最新の工作機械で削れば作ることはできますが、それでは時間もコストも膨大になります。同社がこだわるのは削りを最小限にした素材を十分に生かす工法でした。
切削をしないことのメリットは材料費の節約に止まりません。削ると表面が荒れてしまいます。削らないとパイプの表面は滑らかなままなのです。汚染が少なくなります。さらに流路がスムーズになります。流体抵抗が削減できます。これがイハラサイエンスの継手なのです。
このように、NNTなどの尖った商品をどんどん世界に販売していくのが多数のセールスエンジニアを要して直販体制をとる同社の強みなのです。
自社で開発し、自社で売る会社は長期投資に向いている
わたしは投資家として単に下請けの会社よりも、自社で開発陣を抱えて商品を生み出し、さらに、営業陣容を抱えて直販で顧客を開拓する企業が好きです。当然、固定費は高くなりますが、売上は顧客の開拓とともに着実に増えていくからです。長期投資に好ましい条件のひとつです。
同社の営業利益率が高いのは、顧客へ継手単品ではなく配管科学の提案を請け負っているからなのです。基本手法は、圧力を損失を劇的に減らす提案です。これにより、顧客のランニングコストやメンテコストが下がるからです。あるいは顧客のシステムの寿命も長くなるのです。顧客の投資効率が上がるのです。
圧力損失を減らすためにはベーシックには以下のような提案をします。
1)流路をできるだけまっすぐに流す。
2)流路に突起がないようにする。 流路をでこぼこにしない。
3)継手メーカーなのに継手を売ることにこだわらない。
とくに3)は他の競合はなかなかできません。自己否定も辞さない姿勢です。配管に多数の分岐が必要な場合、配管そのものに多数の穴を開けてひとつのカスタム品を提案します。ライバルの継手メーカーはカタログ商売ですから、カタログから継手をどんどん注文してほしいのです。でもこれは、メーカーのエゴです。
イハラサイエンスは、標準品を10個つなげるより、長いパイプひとつを加工しましょうかと提案します。すると部品数は10分の1になり、現場での工期は10分の1になります。イハラサイエンスではこれを「ロング化」と呼んでいるのです。ロング化により、システムの部品点数を大幅に削減する提案をします。すると、顧客側での工期が半分になり、検査も楽になります。これにより、汎用品よりも安くて性能の高い、コストパフォーマンスのよいシステムが提供できるわけです。
面倒なネジ締め、ボルト締めをなくし、ハメるだけにすることも提案します。必要部品をなるべく少なくして、しかし、一式で揃えるのです。これをイハラサイエンスでは「キット化」といいます。前述のように、なるべく削らないようにする技術です。そうすることで加工時間を短縮できます。これはコスト削減になるのです。システムとしては、溶接をぐんと減らします。溶接を減らせば検査も楽になるからです。設計も加工も組み立ても楽になるのです。
これまではナット式継手といって、多数のナット(メッキ処理)が継手には必要でした。ナットフリーにすれば、メッキが剥がれて汚染するという問題は解決できます。継手自体をもっとシンプルなものにできます。
究極には部品2点だけの継手をつくる提案をします。ふたつの違う材料同士をつなげるのは実に難しい技術です。テフロンチューブとSUS継手という組み合わせなどは難しいのです。
同社の飛躍のひとつは、半導体やフラットパネルの製造装置向けの配管です。装置メーカーは、装置自体の開発に注力します。だから、周りの配管は、これまでは汎用品で十分だと考えてきたのです。しかしながら、微細化がさらに進む半導体業界などでは、ナットレスやロングパイプこそが、装置の歩留まりを左右するようになります。
装置自体への負荷を減らす、装置の不具合を減らすことが、 装置メーカの切実なニーズになったのです。部品点数を減らすと歩留まりは上がります。メンテコストは安くなります。工期は大幅に短縮されます。装置の価値があがります。ですから配管にこそ、プロフェッショナルな科学的ソルーションが求められているのです。
装置メーカは下請けを複数持っており、主要なライバルは彼らです。だから、配管を科学するセールスエンジニアが提案するイハラサイエンスは装置メーカーの設計部門からも一目置かれる存在なのです。提案能力の高さは、イハラサイエンスの営業利益率の高さに現れています。
同社は装置の設計段階から、顧客側と相談のテーブルに乗ります。そうなれば、顧客の設計図に「イハラサイエンスの配管システム」をまるごとお願いすることができるからです。
イハラサイエンスの営業利益率はいま、まだ20%ですが、長期的には30%以上にできるはずと考えています。なぜ、90度に曲げるのか、という根本的な疑問を持つ継手メーカなど世界中どこにもないからです。イハラサイエンスならば、90度ではなくてもよいのではないかなどと最善の策を考えてくれるのです。
誰もやらないことをやるから唯一無二の企業に
誰もやらないことをやるので世界になくてはならない会社になったのです。「配管を科学」する装置やラインや工場全体の配管を設計する比率はすでに、20%程度となっています。これを今後、長期的に3割以上に引き上げることができるはずです。人材が育っているからです。
カスタム設計は高いと思われますが、ロング化やキット化によって多くの汎用品を寄せ集めるよりも安くできるということを同社は証明しました。配管のメンテコストや監視コスト、そして、流体抵抗や騒音を抑えることで逆に汎用品よりも納入単価を高くできることも証明しました。こうした同社の「提案力」が利益率を改善させてきたのです。顧客とのWin-Winの関係を築き、売上を伸ばしながら利益率も上がる好循環を具現化してきたのです。
イハラサイエンスは海外でも円建てで取引しています。競争力が高い査証といえるでしょう。
海外はまだ1割程度にすぎません。これを15年で半分程度まで高めていけるのではないか、とわたしは予想しています。
同社の成長は以下のトレンドが支えるでしょう。
1) 海外売上の増加
2) カスタム提案の比率の増加
3) 半導体向けシェアの増加
1)2)3)の過去のトレンドが長期で確認できます。
イハラサイエンスに定年がない理由
また、同社には定年がありません。ですからから、80才の社員もいらっしゃいます。社員を大切にする会社なのです。
この点については、同社の歴史を少し長くなりますが紹介させてください。わたしも、書きながら、恥ずかしいですが、同社の経営陣の決断にほろりとなる場面があったのです。
中野会長は、「定年は自分で決めろ」「年をとって悲しいのは自分の存在価値がないと思い込むこと」だといいます。そうではなく、働く場所を提供すれば誰だって生き生きとするだろう、リーダーの教育も平日に行うべきだといいます。リーダーが抜ければ現場は大変になるが、その方が、よいというのです。互いに助け合おう、リーダーいないから大変なんだ、という気持ちが社員に湧き出るから、それでよいのである、というのです。これが、リーダーも鍛え、そして、同時に自然に下の社員も育つ方法なのです。
リーマンショックで売上半減したときの同社の決断もすごかったのです。安易なリストラはしません。ピンチをチャンスに変えるために、同社が行ったことを、みなさんに知ってほしいと思います。
リーマンショック時に雇用をむしろ増やした英断
話は2008年にまで遡ります。リーマンショックと円高です。同社の株価は2300円から300円に急落しました。ハーフエコノミー(これまでの経済規模が半分になってしまうという考え)の衝撃はすさまじく、 2010年売上はほぼ半減の65億円となってしまいました。営業利益は2.5億円に急降下したのです。
ここで中野社長(当時)は英断を下すのです。パートを正社員化したのです。さらに、驚くべくことに、中野社長は、 設計強化を決断。不景気の中、子会社を吸収し、なんと、人員の増加に動いたのです。
まったく仕事がない状況において。
株主や銀行や多くのステイクホルダーがいる中で、収益へのプレッシャーがある経営者が、こんなお先真っ暗な危機的状況で、正社員を増やすなんて。もし仮にわたしが彼の立場であったなら絶対にできなかったでしょう。
わたしは投資家としてひとつの作法を持っています。それは、企業経営者へのリスペクトの念です。
自分には到底できないこんな芸当をなさった中野さんという人間を、そして、イハラサイエンスという会社を、わたしは本当にリスペクトしているのです。
中野さんは雇用調整をしませんでした。社員やパートの雇用を守り、ワークシェアで難局を乗り越えようとしたのです。定年をなくしたのもそのひとつでしょう。
仕事がないときに、やることはひとつ。さらに飛躍するために、社員たちが一丸となって、勉強すること。努力すること。もっとよい製品を顧客に提供することです。
リーマンショック時にワークシェアをしているときのこと、営業は、顧客にはこう伝えたそうです。
「わたしたちにはいま仕事がまったくありません。ですが、工場には大勢の仲間たちがしっかりと待機しています。」
「ですから、仕事をくだされば、リストラや派遣切りをした同業他社よりも、わたしたちはすぐに御社の注文に対応できます」と。
同社のビジネスモデルは、顧客との対話によるものです。その結果、顧客から喜ばれる提案をするものなのです。
ライバルたちは、標準品をつくり、カタログをつくり、顧客はカタログから継手を選ぶのが通常なのです。しかし、同社は、カタログをあえて作らないという決断をしました。自己否定です。継手の数を減らせばその分、流体抵抗は減り漏れもなくなります。継手をなくそうなどと。
考えられないですね。本当にリスペクトします。業界の常識は往往にして社会の非常識です。
その非常識を正していく理想を掲げたことで、逆に大きな潜在的な需要をとりこんだのです。こういう企業をわたしはとてもリスペクトします。
長期にわたるトライアンドエラーの繰り返しなのでしょう。多くの競合は、そんな割の合わない商売、やってられない、となるところですから。
「飽和する市場はどこにもない!」を証明
自己否定から生まれる新市場。かっこよすぎませんか?
これはどの業界でも同じなのではないでしょうか。わたしはイハラサイエンスから勇気と希望をもらうことができました。生き方を教えていただいたと思っています。本当に感謝しているのです。
わたしの発見は、こういうものです。
「飽和する市場などどこにもない」
諦めているのは当人だけ。飽和したから業績が伸びないとの言い訳がほしいだけ。
ピンチはチャンスであり、成熟市場でこそ、難局でこそ、人は成長できるのだと。
アナリストリポートの価値とは?
アナリストレポートとは何でしょうか。わたしにはよくわからない。なぜならば、わたしたちアナリストは、実際は、投資対象の会社のことをあまり知らないのですから。企業の提供する商品についてよく知っているわけではありません。作り方も、なにが大変なのかも、営業の現場の課題も、製造現場の問題点もわからないのです。そして、わたしたちは大きな会社の経営者でもないので、経営者の悩みも苦労も知らないのです。
そんなわたしたちが取材をして書いているのがアナリストレポートなんです。会社に取材をしても、業績の動向ぐらいしかわからないのです。アナリストだって、よくわかっているわけじゃない。実は、何も知らない人たちなんだ、ぐらいに思ってくださってもそれが真実に近いです。
投資家の皆さんもご自身の投資成果ばかりを気にするのではなくて、どんなときでも、企業経営者にリスペクトの念をいだいていただきたいのです。現場で試行錯誤、大変なご努力をされている社員の方々にリスペクトの念をいだいてほしいのです。理念を理想を追い求める彼らに大きな声でエールをおくってほしいのです。 (DFR助言者 山本潤)
そして、自身の判断において、覚悟を持って投資をしてください。投資とは勝ち負けではなく、プロセスです。企業を応援する旅です。わたしはこの会社のことをずっとフォローしたい、と心から願っています。彼らのやりたいことを理解してあげたいと願っているのです。投資家に、この会社のよさを、不器用なら不器用なりに、直球で伝えたい、と思っているのです。そう思わせる何かをこの会社は持っていると感じたからです。
この連載は、10年で10倍を目指す個人のための資産運用メルマガ『山本潤の超成長株投資の真髄』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、週2回のメルマガの他、無料期間終了後には会員専用ページでさらに詳しい銘柄分析や、資産10倍を目指すポートフォリオの提案と売買アドバイスもご覧いただけます。