株価は07年2月以来の6万円台も視野に
スターバックス コーヒー ジャパン(2712)の株価が絶好調だ。
今年(2012年)の2月8日に11年3月4日以来の高値5万円を記録、3月末に配当落ちでいったんは下がったものの、5月21日と6月4日をダブルボトムとして再上昇を開始。急角度の右肩上がりの末に、8月29日にはリーマンショック以前の08年3月27日以来となる5万2000円超えを達成し、それ以降も年初来高値を更新し続けており、07年2月8日以来の6万円も視野に入ってきたといえる。
ユーロ危機はいまだ収まる気配が見えず、中国をはじめとする新興国の経済成長にもブレーキがかかる中、投資家の目線はスターバックスなど業績好調な内需株に向かっている。
同社について、フィスコのアナリスト、小川佳紀さんは「相次ぐ新商品の投入によって、スタバファンを飽きさせない戦略が奏功しています」と分析する。
「13年3月期の営業利益は12%増益が見込まれていますが、第1四半期の営業利益は24%増益と上振れ基調の好スタート。穀物市況の上昇に伴うコーヒー豆の値上がり懸念はありますが、業績上振れ期待が株価の支援材料となる。株主優待に対する個人投資家からの人気も根強く、中長期での上昇トレンドが継続すると予想しています」
1000店舗前後のコーヒーチェーンは2ブランドのみ
13年3月期中に店舗数は1000に迫る見通しだ。
1996年8月2日、東京・銀座の松屋通りに第1号店をオープンした。ちなみに、これは北米以外での最初のスタバである。
以来約16年間で店舗数は増え続け、12年3月末時点では955店舗に。13年3月期中に「約60店舗程度」(12年5月10日発表のプレスリリースより)の出店を計画。退店予定が20あることから、実際に1000店舗を超えるのは来期の春先になるとのことだが、節目達成は間近だ。
第1四半期を終えた時点の6月末で店舗数は966店となり、3月末よりも11店舗も多くなっている。ちなみに、13年春には島根県・松江市に出店を予定。その時点でスタバのない県は鳥取県だけとなる。
実は、2001年3月期から3年間、100店以上の大量出店を行った時期があった。しかし、収益性が悪化し、03年3月期には営業赤字に転落した。
これを反省材料としてその後は出店を抑制してきたのだが、それでも1年間に平均50店舗前後はオープンしてきており、その結果、来春には1000店舗の節目を抜ける。
さて、コーヒーチェーンにおいて1000店舗とは、どれくらいの重みがあるのか。下のグラフは著名なコーヒーチェーンの店舗数を示したもの。
最多店舗数を誇るのは、ドトール・日レスホールディングス(3087)の看板ブランドであるドトールコーヒーショップで、12年8月末時点で1115店。スタバはこのドトールに次ぐ規模で、1000店舗前後はこの2ブランドしかない。「1000」という数字は同社にとっても、かなり重みのあるものだろう。
Beyond One Thousand
実際、同社の本社(店舗を支えるという意味で、サポートセンターと呼ばれている)では「Beyond One Thousand」なる言葉が飛び交っているのだという。
「1000店舗以上となる今後、どのように成長していくべきなのか、社内のいろいろなところで議論がなされています」(同社・マーケティング統括 広報部長・足立紀生さん)
もちろん、当面は出店スピードは緩めない。「年間50店舗程度を基本としており、今期は前期同様にやや多めの出店を想定しています。この出店スピードはここ数年は変える予定はありません」(足立さん)
ただし、「出店を増やすよりも、パフォーマンスの高い立地開拓を目指していきたい」(足立さん)という意識もある。今年、表参道東急プラザや上野公園、スカイツリーなど新旧の観光スポットに続々と店舗を構えたり、青森県八戸市で同県初となるドライブスルー店を作ったのもその一環だろう。いずれも好調なセールスを記録しているという。
新規市場の創設が課題に
当面、業績は順調に推移するという見方が一般的だが、もちろんリスクはある。景気低迷や原材料費高騰、出店エリアの枯渇といった外食産業に共通したリスクに加えて、スターバックス独自の、しかも大きなリスクがある。
そのリスクとは、同社のブランドがスターバックスの1つしかないこと。
流通業界の専門誌「チェーンストアエイジ」の編集長、千田直哉氏は「外食は専門外だが」と前置きしながらも、「多店舗展開する企業が成長を持続させるためには、市場の維持と深掘り、そして市場の創造が大切」と語ってくれた。
たとえば女性向け大規模衣料店をチェーン展開するしまむら(8227)の場合、中核店舗「ファッションセンターしまむら」の積極的な出店を続ける一方で、若年層を中心とした「アベイル」やファッション雑貨の「シャンブル」、さらにはベビー・子供服の「バースデイ」など、別ブランドも展開している。「同じお客がより多くのお金を払ってくれるようにすることと、新しいお客さんをつかまえることを両面で行うことが必要なのです」(千田さん)。
コーヒーチェーンでも同じことを行っている会社は少なくない。たとえば、前述のドトールの場合、先のグラフにもあったエスプレッソ主体の「エクセルシオール」のほか、ハワイのコナコーヒーを提供する「カフェ マウカメドウズ」(12年9月25日現在で6店)、最高級ブランドと位置付ける「ル カフェ ドトール」(同3店)といった、ドトールとは個性の異なるブランドを複数展開している。
もちろん、ドトールに比べて現状の店舗数は圧倒的に少ないものの、新たな成長エンジンになる可能性は秘めている。しかも、ドトールは「洋麺屋五右衛門」「卵と私」などを展開する日本レストランと共同持ち株会社を形成しており、そちら側のブランドとの提携や融合なども考えられる。実際、日本レストランシステムでは、すでに自社とドトールのノウハウを集結させた「星乃珈琲店」を関東、中京、関西を中心に展開している。
これに対して、スターバックスは、いわば「ブランド1本かぶり」の状態。確かにブランド力は非常に強力であり、優位性が崩れることは当面ないだろうが、消費マインドの劇的な変化に備えて、他のブランドもできれば用意しておきたいところ。ただ、そこは米国本社との関係で難しいのかもしれない(この点に関して、スターバックス コーヒー ジャパン広報は「ノー・コメント」とのこと)。
もちろん、同社では右のコンビニ専用商品「スターバックス ブラックコーヒー」などで、店舗以外での収益源も獲得している。ただし、店舗以外での売上高は全体の2.2%でしかない(12年3月期)。成長するには店の数や1店舗当たりの売り上げを増やすしかない。ただ、それもいつかは限界をむかえる。多ブランド戦略を採用しない限り、それ以上の成長はないかもしれない。あまりに強すぎるブランドは、それ自体が将来的にはリスクになる恐れも秘めている。
JINのように新規顧客を囲い込めるか
前述のアナリスト、小川さんも、スタバファンを維持させつつ、新しい顧客の獲得が必要だろうという。
「私自身もスタバをよく利用するのですが、『コーヒーはスタバでしか飲まない』という、固定層を飽きさせないことが大事でしょう。つい最近、日本航空(9201)が再上場しましたが、『飛行機はJALしか乗らないから、また株主になる』という個人の声は多いようです」
その点、スターバックスはよくやっている。さまざまな新製品を生み出したことも奏功し、今期の既存店月次売上高は、前年同月比99%だった7月を除いて軒並みプラス。7月も加えた5カ月平均で102.6%となっており、ファン離れは起きていない。また、そうしたファンがそのまま株主となっている場合が多いのも同社の特徴で、個人投資家は10万人を超える。サイズや種類・オプションを問わず利用可能なドリンク券がもらえる優待の魅力も手伝って、冒頭で述べた通り株価もこれまでのところ堅調に推移している。
しかし、今後は新規客を囲い込む戦略も重要になると小川さん。「ジェイアイエヌ(3046)は、メガネが必要のない人に度なしのメガネ(JINS PC)を発売、大ヒットを記録して業績を大きく伸ばしています。こういった新たな戦略も当然、スタバにも求められるでしょう」。JINS PCにあたるものがスターバックスでは何になるのか? それを生み出せるのか? 期待と不安が織り交ざる。
今年からスターバックス広報部では報道用資料「スターバックス ジャーニー」を作成、折に触れて同社のさまざまな活動を伝えていく。その第1号の1ページ目で、同社社長・関根純氏は、同社の現状を「人間でいえばまだ16歳」と位置付け、「成熟した大人になるためには、いま一度、自らの姿をじっくりと見直すべきではないか」と、従業員とともに考えているという。
この言葉を借りるなら、私たち投資家の関心は成熟してもなお、少年のような成長力を秘めていられるか、だ。はたしてスターバックスはどんな「大人」になるのだろうか? じっくりと見つめていきたい。
【※関連銘柄の株価チャートはこちら!】 |
◆ドトール・日レスHD(3087) |
◆しまむら(8227) |
◆日本航空(9201) |
◆ジェイアイエヌ(3046) |
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