17年連続増配見込みのロート製薬(4527)は長期で買い
今回はロート製薬(4527)の戦略を紹介します。同社は、市販の目薬で世界シェアトップを誇る企業です。コロナ禍で中国がロックダウンした影響もあり、前期の業績は上期を中心に一時的に落ち込み、さらにインバウンド需要の消滅で逆風が吹いたものの、今期は復調して5~6%の増収、10%弱の営業増益と想定しています。同社は、2021年3月期の期末配当が予想通り実施されれば、17年連続で増配を達成することになります。
ナショナルブランドを持つ企業の業績は安定し、予想も比較的容易
同社の特徴は技術力の高さもさることながら、巧みなマーケティングと販売戦略で着実に業績を向上させていることです。
同社の売上の4分の3はドラッグストア経由で占め、残りの多くもGMSなどの大手スーパーが占めています。薬局と言えば、昔は多くが個人商店でしたが、今は大手ドラッグストアチェーンによる寡占化が進んでいます。大手ドラッグストアチェーンの売上は約8兆円弱で、20年間で3倍に伸長しました。年率換算で6%程度の成長を20年間持続していることになります。
ドラッグストアの成長率が6%の増収であれば、同社の売上高も6%程度伸びそうという目算が立ちます。さらに6%の増収なら、8%程度の増益が期待できそうという目算も立ちます。このように、同社のようなナショナルブランドを持つ企業の業績は安定傾向にあり、業績予想も比較的容易だと言えるでしょう。
一方、エビデンスが定かでない健康機能商材などをECで販売する中小型銘柄の業績予想は難しく、一時的なブームで販売が大きく伸びる時もあれど、急激に業績が悪化して株価が急落する場合が多いです。業績が安定し、予想もしやすい同社のような大型株は業績が大幅に悪化して、株価が大幅に下落するリスクは比較的低いのです。
テレビCMを通じてマス認知を高め、大手小売りの棚を確保
同社はマーケティング戦略も巧みです。私のような世代は、1976年から1992年にかけて放映されたテレビ番組「クイズダービー」のコマーシャルで、社名を連呼して本社をクローズアップするといった内容が記憶に残っている方は多いでしょう。
同社は長年、テレビ広告を通じてブランドを消費者に広く認知させる手法をとってきました。高視聴率番組のスポンサーになって、マスへの認知を高めてから、大手小売りの棚を確保するのが定番の戦略です。1970年代にはリップクリームの「メンソレータム」を買収。同社は、目薬とリップクリームというシェアトップ製品を2つ持つことで大手小売りの棚の確保をより強固にしたのです。
化粧品事業を買収し、高単価商品で攻勢をかける
数百円のリップクリームを売るより、1万円の化粧品を売った方が売上や利益は多くなります。ドラッグストアも高単価商品の方が儲かります。そこで考えたのが化粧品事業の買収でした。「肌ラボ」です。同社は製薬会社ならではの高い技術力で、保湿力にすぐれたヒアルロン酸を「てんこ盛り」にした商品を開発し、宣伝費用をかけずに当時の競合商品の約4分の1という「格安」価格で勝負に挑んだのです。やるならばカテゴリー1位を狙う。それも定番の戦略です。
肌のシワを目立ちにくくするアンチエイジング化粧水「オバジ」でも、高い技術力によって、従来になかったユニークな商品を実現します。ビタミンCを25%もの高濃度で配合した「オバジC25」です。ビタミンCは結晶化しやすいため、高濃度で品質を安定させることは難しいと言われてきました。この商品は12mlという少量で小売価格はなんと1万円です。値引き販売もしません。
海外ではマスメディア主体のブランド認知で苦戦する国も
同社の経営戦略は明解です。差別化技術でカテゴリー1位の商品を開発する。大手の小売りの棚をとる。単価の低い商品の売上を底上げして拡大しつつ、高単価の商品を順次投入していく。そのためには買収もいとわない。買収が「へたくそ」な日本企業が多い中、同社は、自らの戦略にかなった事業や技術を買収するという方法で成果を出しています。
同社は勝ちパターンを中国などのアジア諸国でも踏襲し、ゆくゆくは中東、東欧、アフリカ、南アメリカなどの新興国で販売拡大する戦略です。海外展開におけるリスクは、同社のテレビ広告を主体としたブランド認知戦略が通用しないケースがあることでしょう。例えば、世界の国々によってテレビの視聴率は異なります。例えば、インドでは最高視聴率の番組でも1%程度と少なく、テレビCM主体の戦略は通用しません。実際、同社はインドで20年間事業展開しても成果があまり出ませんでした。
エビデンスを活用してSNSで拡販する新たな勝ちパターンを確立中
最近は尖った新製品を投入してSNSで高い評判を獲得し、消費者に認知させることに成功しており、新たな勝ちパターンを確立しつつあるようにも見えます。技術優位性をうまくアピールでき、美容評論家を絶賛させてブランドを確立したオバジなどは好例でしょう。
現在はSNSやECを活用して拡販する手段があるため、以前ほどマス広告に大量の費用を投じなくてもよくなりました。しかし、SNSで販売拡大する際も、効果を統計的に立証できるエビデンスが必要で、それを獲得するための資金が必要です。大手と比べて、中小の食品や化粧品メーカーはコストをかけられず、販売で苦しんでいる状況もあります。
その意味でも、同社のように技術力で効果の高い商品を開発し、さらにそれを宣伝したりエビデンスを立証したりする資金力がある企業は強いでしょう。こうした大企業と中小企業の置かれた「格差」こそ、将来のキャッシュフローの格差につながるのかもしれません。株式投資ではこうした大企業と中小企業の格差をうまく考えることが大事なポイントであることに異論はありませんが、こうした格差は日本経済全体の成長を阻害する大きな社会問題の一つだと思います。
(DFR投資助言者 山本潤)
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