微細なモノづくりと
DXの新結合を目指す日立製作所

 先行きへの危機感を強め、事業の新陳代謝向上を目指したわが国企業の一つが日立だ。リーマンショック後、日立は社会インフラとソフトウエア分野での成長を目指して、大胆に選択と集中を進めた。さらに、日立はわが国のモノづくりとデジタル技術の新結合を目指している。その象徴が、「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)技術」だ。

 日立は自社開発した人工知能(AI)を用いて、三井化学と共同で新材料開発の実証実験を開始する。そのポイントは、AIが最適な実験条件の設定と成分調整を行い、客観的に確度が高いと考えられる実験候補群を策定することだ。三井化学の過去のケースに当てはめたところ、実験の試行回数は従来の1/4に削減されたという。つまり、研究者や組織の暗黙知や経験に頼ってきた開発のノウハウや手順をAIで見える化、効率化することによって、より微細な、高付加価値の素材創出が目指される。

 わが国経済にとって、その潜在的インパクトは過小評価できない。その理由は大きく3点ある。

(1)わが国には素材開発に比較優位性を持つ企業が多い。

(2)世界全体で新しい素材開発力の重要性が高まっている。半導体分野では、窒化ガリウムなど新しい素材を用いたウエハー創出などが重視されている。脱炭素も素材開発を後押しするだろう。2030年までにわが国は温室効果ガス排出量の46%削減を目指すが、それは企業のコスト負担要因になる可能性がある。しかし、2050年までのカーボンニュートラル目標は、脱炭素を支える素材や機械などの創出に関してわが国企業のビジネスチャンス増大につながる可能性がある。より軽量、耐久性の高い素材を、より短期間に開発する力は素材メーカーの成長に大きく影響するだろう。

(3)微細な素材は分解し、模倣することが難しい。新素材の開発者は先行者、あるいは創業者利得を相応の期間にわたって手にする可能性がある。

 日立のMI技術は、オープンイノベーション志向だ。それによって短期間での新素材の開発が実現すれば、世界経済の先端分野でわが国企業がより多くの部材や装置需要を手に入れる可能性は高まる。言い換えれば、企業経営者は常識にとらわれずダイナミックな発想で将来の展開を描き、具体的な戦略に落とし込まなければならない。それが難しいと、変革そのものが難しくなる。