セブン&アイ・ホールディングスのデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略は水泡に帰した。巨大グループでDX改革を進めるためにはどうすべきか。特集『セブンDX敗戦』(全15回)の#10では、セブン&アイの“カリスマ”鈴木敏文前会長の次男で、デジタル戦略を率いた鈴木康弘元最高情報責任者(CIO)にグループが抱える課題を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部編集委員 名古屋和希)
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康弘氏が語るセブン、経営陣、イオン…
CIOとして「オムニチャネル」を推進
セブン&アイ・ホールディングスの最高情報責任者(CIO)を務めた鈴木康弘氏は、もともとは富士通やソフトバンク(現ソフトバンクグループ)でキャリアを積んでいた。その後、自らがソフトバンクで起業したネット書店ごと、父親で流通のカリスマ、鈴木敏文前会長兼最高経営責任者(CEO)がトップだったセブン&アイに参画した。
康弘氏は敏文氏の後押しも得て、ネットと実店舗を融合する「オムニチャネル」戦略を主導することになった。
しかし2016年、敏文氏が当時セブン-イレブン・ジャパンの社長だった井阪隆一氏の人事案を巡って電撃退任すると、康弘氏も半年後に後を追うように退任した。
セブン&アイを去ってからすでに丸5年超が経過した現在、康弘氏はコンサルティング会社を経営し、流通大手などのデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援している。
その康弘氏にセブン&アイでの実体験について尋ねた。すると、オムニチャネル戦略を推進していたときに遭遇した激しい現場の反発などの様子を、その“抵抗勢力”の実名などを挙げながら振り返った。
デジタル戦略にとどまらず、康弘氏はセブン&アイの現経営陣やグループが抱える構造的な課題のほか、コンサルティング会社との関係やライバルのイオンなど、幅広いトピックについて率直に本音を語った。
カリスマジュニアが実体験した、セブンのデジタル改革を阻む“病理”は何か。
――セブン&アイでオムニチャネル戦略を主導しました。
デジタル対応の遅れがグループにとって大きな経営課題でした。自らトップを務めていたオンライン書店「セブン&アイ・ネットメディア」の経営を通じて気付かされたのが、リアルの重要性です。
特に米アマゾン・ドット・コムという強い競合と戦うためには、グループが抱える店舗網は戦略には欠かせないと考えたのです。
まず、オムニチャネル戦略の重要性を鈴木敏文前会長に説きました。すると鈴木前会長は、「それって(サザエさん)の『三河屋』と同じか」と聞いてくる。私は、「そうです。届けてくれる三河屋のサブちゃんのことです」と応じました(笑)。
鈴木前会長は自ら、「デジタルのことは分からん」と認めていたものの、本質を突いていたわけです。「それじゃあやってみろ」ということになりました。
オムニチャネル戦略を発表したのはセブン-イレブン・ジャパンの創業40周年に当たる13年11月。記念式典で鈴木前会長に「オムニチャネル」というワードを発言してもらい、メディアを通じて大々的にお披露目しました。
そして、オムニチャネル戦略を前進させるために私が最高情報責任者(CIO)に就いたのが14年。ECサイト「オムニ7」がオープンしたのは、それからわずか1年後の15年11月のことです。
当初、立ち上げには1年以上かかると想定していました。1年でオープンすることになったのは、鈴木前会長のこんな発言がきっかけでした。
「『海賊とよばれた男』は読んだか?」
作品の中にはプラントを1年足らずで立ち上げたエピソードがあります。それでピンと来て、「1年でやります」と即答しました(笑)。(失敗したら)責任を取ろうと辞表を忍ばせていましたが、幸いにも無事立ち上がりました。
――オムニチャネル戦略に対する社内の抵抗はなかったのでしょうか。
実際には「血みどろの戦い」がありました。オムニチャネル戦略への反対の声は大きかったのです。