「勝者のゲーム」と資産運用入門

IPO銘柄の初値買いは絶対やめるべき。
そう考える理由を、株式市場の実態を知らぬ公取委が
提出したビックリ仰天の報告書を肴に学ぼう。太田忠の勝者のポートフォリオ 第18回

2022年2月9日公開(2022年3月29日更新)
太田 忠
facebook-share
twitter-icon
このエントリーをはてなブックマークに追加
RSS最新記事

株式市場にまた逆風? ビックリ仰天の公正取引委員会の報告書

 個人投資家の皆さんはあまりご存じないかもしれないが、1月28日に公正取引委員会が『新規株式公開(IPO)における公開価格設定プロセス等に関する実態把握について』という報告書を公表した。これを読んだ私はビックリ仰天。思うところがあるので、今回はこの問題について解説したい。

Photo :ELUTAS / PIXTA(ピクスタ)

 報告書の内容は何か? 公正取引委員会が証券市場に物申すといった内容で、曰く「上場後初めて市場で成立する株価(初値)が、上場時に新規上場会社(IPO企業)の株式売り出し価格(公開価格)を大幅に上回っている」「公開価格で株式を取得した特定の投資家は差益を得るが、新規上場会社には直接の利益が及ばない」「新規上場会社はもっと多額の資金調達をし得るはず」と述べている。

公取委は「主幹事証券会社は公開価格を過小に設定」と指摘

 その上で「IPOの上場業務を担う強い立場の主幹事証券が、一方的に過小な公開価格を設定して新規上場企業に不利益を与えるのは独禁法の『優越的地位の乱用』に該当する恐れがある」と指摘。これを受けて「スタートアップ企業の資金調達をめぐる環境の適正化を目指すべきだ」と提案している。

 公取委は2021年8月に調査を始めて、過去1年間にIPOで上場した75社や主幹事を務めた証券会社22社から書面調査で回答を得たほか、複数社に聞き取りをした結果の結論だそうだ。確かに日本では、初値が投資家の需要調査を基に決める公開価格を大幅に上回る傾向がある。平均すると初値は公開価格の1.5倍であり、米欧の1.15倍前後に比べて大きい。実際、2021年にIPOで上場した125社のうち初値が公開価格を上回ったのは82%にあたる103社だった。

 初値が公開価格を上回るほど、公募申込みで当選した個人投資家(機関投資家含む)は多くの利益を得られる。要するに、証券会社が顧客の囲い込みのために公開価格を保守的に設定しているという理屈だ。一方、適正に値付けされれば、企業はより多額の資金調達ができるという主張でもある。調査結果によれば、新規上場企業の91.8%が公開価格設定を主導したのは主幹事証券会社だと認識しているそうだ。

 証券界の反応はどうか? やはり公取委の報告書に対して違和感を隠せない、というのが本音だ。新規上場した企業の3~4割は上場1年後の株価が公開価格を下回っている現実がある。さる証券会社幹部は見直すべき点はもちろんあるとしつつ「公開価格のあり方は全体の一部を切り取った議論だ」と報じている。

IPO銘柄の初値買いは絶対やめるべきだと、私が考える理由

 私はIPO投資に関して「最初に申し込むのはOKだが、申し込みに外れて初値から買いに行くのは絶対やめるべきだ」と日頃から個人投資家に言っている。なぜなら、IPOの初値やその後しばらくの値動きは「幻想価格」に支配されているからである。

 IPO企業がどれだけの資金を調達できるのかを決めるのが公開価格。そして、上場日に初値がついた時点で、IPO企業は第1段階としての企業価値の評価を投資家から受けるわけだが、そのほとんどが「幻想価格」といってよい。多くの場合、企業の持つ本来の実力が正当に測られることはなく、楽観的なシナリオでの「将来性」が先行して価格形成されるからだ。

 「株式投資とは、そもそも将来性を買うことではないか」と反論するかもしれないが、IPOならではの毎度お決まりのパターンの「無謀な評価」が問題なのである。人気が高い企業だと「いっちょう短期で儲けるぜぇ!」みたいな投資家がウヨウヨ集まってとんでもない高値が形成される。

 株式市場の平均PERが20倍以下にもかかわらず、初値価格はPERが50倍、あるいは100倍を超えることも珍しくない。50倍や100倍という評価がつけば、投資家はその企業に対して多額のプレミアムを払っていることになる。そして、その後成長していく過程において、高PERに見合う利益成長が実現されない限り、50倍や100倍が維持されることはなく、株価水準は切り下がっていく。

投資家の「幻想価格」を重視した公開価格にすれば、上場後の株価下落は今より悲惨で壊滅的に

 最初の株価が「幻想価格」で、初値から時間が経過した後のより適正な評価を「現実価格」と名付けるとすると、堅調に成長する企業であっても、過度な「幻想価格」は「現実価格」にとって大敵となる。IPO時にパブリック企業にふさわしくない企業に不当な「幻想価格」がつき、その後利益が大幅に急減、あるいは赤字転落となれば「現実価格」のパフォーマンスは壊滅的となるからだ。

 さて、話を戻す。そうすると公取委は「幻想価格」が本来の株価価値と見なして「公開価格が安すぎる」と言っているように私には聞こえる。これはあまりにも一方的で、IPO市場の株価形成を知らない人たちの考え方である。仮に「幻想価格」をより重視して公開価格を決めれば、上場後のパフォーマンスは今より悲惨で壊滅的になるはずだ。なぜなら、IPOしたほとんどの企業の現在株価は「幻想価格である初値」から暴落しているからだ。個人投資家や機関投資家は割高なIPO市場からどんどん遠ざかっていくのは目に見えている。

 IPO企業が上場時にディスカウントされるというのは、ある程度必要だと私も思う。もし、もっと資金を調達したければ、上場時ではなくその後しばらくしてファイナンスをすればよい。好業績がきちんと出ることを示し、資金調達すればいいのだ。そもそも日本のIPOは規模が小さく、上場時の企業体質も脆弱である。2020年のIPOにおける資金調達額を比較すると、日本は1件あたり0.36億ドルにすぎない。これは米国の10分の1、欧州の4分の1である。

株式市場の実態を理解していない人が「欠陥制度」を作れば、市場が崩壊する

 今回の件に限らず、金融市場や証券市場の世界では、なまじ株式市場や金融の本当の実態を理解していない人が集まって、大きな欠陥制度ばかり作っているというのが私の正直な感想だ。まるで柔軟性のない硬直的で片手落ちのNISAを作ったり、現物と先物の損失を合算できない税金制度を作ったり、果ては総理大臣主導で金融所得課税を増税する、などというおぞましいことまでおこなわれようとしている。

 とりわけ金融所得課税においては、多くの個人投資家が所得レベルに見合わない20%という高い税率を課されているのにも関わらず、「1億円の壁」などという高所得者だけを見た改革をしようとしている。本当に実現されれば、マーケット破壊、個人投資家破壊もいいところで、全くもってふざけている。大迷惑な話だ。皆さんはどう思われるだろうか?

 

●太田 忠

DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。プロが評価したトップオブトップのアナリスト&ファンドマネジャー。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもメルマガ配信などで活躍。

 この連載は、ワンランク上の投資家を目指す個人のための資産運用メルマガ『太田忠 勝者のポートフォリオ』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、週2回のメルマガの他、無料期間終了後には会員専用ページで「勝者のポートフォリオ」や「ウオッチすべき銘柄」など、具体的なポートフォリオの提案や銘柄の売買アドバイスなどがご覧いただけます。

 

国内外で6年連続アナリストランキング1位を獲得した、
トップアナリスト&ファンドマネジャーが
個人投資家だからこそ勝てる

「勝者のポートフォリオ」を提示する、
資産運用メルマガ&サロンが登場!

老後を不安なく過ごすための資産を自助努力で作らざるを得ない時代には資産運用の知識は不可欠。「勝者のポートフォリオ」は、投資の考え方とポートフォリオの提案を行なうメルマガ&会員サービス週1回程度のメルマガ配信+ポートフォリオ提案とQ&Aも。登録後10日間は無料!

太田忠の勝者のポートフォリオ

10日間無料 詳細はこちら※外部サイトに移動します


太田忠の勝者のポートフォリオはこちら!
【クレジットカード・オブ・ザ・イヤー 2023年版】2人の専門家がおすすめの「最優秀カード」が決定!2021年の最強クレジットカード(全8部門)を公開! 最短翌日!口座開設が早い証券会社は? おすすめ!ネット証券を徹底比較!おすすめネット証券のポイント付き
ZAiオンライン アクセスランキング
1カ月
1週間
24時間
ダイヤモンド・ザイ最新号のご案内
ダイヤモンド・ザイ最新号好評発売中!

配当&株価が10倍株!
NISA投信グランプリ
ふるさと納税

6月号4月19日発売
定価780円(税込)
◆購入はコチラ!

楽天で「ダイヤモンド・ザイ」最新号をご購入の場合はコチラ!Amazonで購入される方はこちら!

[配当&株価が10倍になる株!]
◎第1特集
配当&株価が10倍になる株!
10年持ちっぱなしで「配当が10倍」になる株や「株価10倍」になる大型優良株を発掘
・誰もが知ってる大型株・優良株で実現
・新興国に進出/AI・半導体/
高齢化・人手不足/環境・EV
・番外編:1年で株価2倍になる株


◎第2特集
ダイヤモンド・ザイ
NISA投信グランプリ2024

2回を迎える、投資信託のアワードを発表!
NISAの投信選びや保有投信のチェックに最適

・NISAで運用できる投資信託のみが対象
・個人投資家が選びやすいよう、本数は30本のみ!
・個人投資家がわかりやすい部門で表彰


◎第3特集
ふるさと納税 日本3大グルメ&生産地
返礼品60 

日本3大和牛、3大地鶏、といったブランド食品や、日本3景、3名泉のベストグルメ、大注目の魚介、フルーツの3大産地の返礼品などを紹介

◎第4特集
FXで1億円!
年億稼ぐトレーダーの「神トレ」大公開!

ドル/円が34年ぶりの安値更新など、活況の為替市場。
FX界隈では、1年で「億」を稼ぐ「年億」の個人投資家が続々誕生しています。その手法を、わかりやすくお届け


◎【別冊付録】

いつまでたっても始められない人に贈る
新NISA「超ラク」スタートBOOK
完ペキさを求めてなかなか始められないより、「ラク」に「早く」始めたほうが、結果的にオトク
なかなか始められない人向け、ぐうたら指南書


◆出遅れJリートに投資チャンス! 利回り4~5%台投資判断&オススメJリート 
◆おカネの本音:渋澤 健さん
◆10倍株を探せ! IPO株研究所
◆マンガ恋する株式相場「コンビニがGAFAの一角に!?」
◆マンガ「昭和のボロ空き家はそのまま貸せばいい!?」
◆人気毎月分配型投信100本の「分配金」速報データ!


>>「最新号蔵出し記事」はこちら!



「ダイヤモンド・ザイ」の定期購読をされる方はコチラ!


>>【お詫びと訂正】ダイヤモンド・ザイはコチラ

【法人カード・オブ・ザ・イヤー2023】 クレジットカードの専門家が選んだ 2023年おすすめ「法人カード」を発表! 「キャッシュレス決済」おすすめ比較 太田忠の日本株「中・小型株」アナリスト&ファンドマネジャーとして活躍。「勝つ」ための日本株ポートフォリオの作り方を提案する株式メルマガ&サロン

ダイヤモンド不動産研究所のお役立ち情報

ザイFX!のお役立ち情報

ダイヤモンドZAiオンラインαのお役立ち情報