「勝者のゲーム」と資産運用入門

厳しいコロナ対策で、今年も低迷しそうな中国経済。ただ「中国景気減速=株売り」と焦る必要はない。あくまで重要なのは米国経済の動向だ太田忠の勝者のポートフォリオ 第17回

2022年2月2日公開(2022年3月29日更新)
太田 忠
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コロナ禍で明暗が割れた米中の経済成長

 米連邦準備理事会(FRB)の金融政策を巡って世界の株価が揺れ動いている。株価にとって最も重要な金融政策。「今、我々はマーケットサイクルのどの地点にいるのか?」「今後どうなるのか?」については次回に譲るとして、今回は経済にフォーカスした話をしてみたい。

 2021年10~12月のGDP(実質国内総生産)が相次いで発表されたが、「中国の減速vs米国の高成長」という対照的な構図になっている。米国と中国の経済状況を理解することは、米国株や中国株への投資のみならず、日本株に投資する際も極めて重要であるため整理してきちんと理解しておきたい。

 まずは中国の状況から見ていこう。2021年の10~12月のGDP成長率は前年同期比+4.0%と、同年7~9月の+4.9%から鈍化している。新型コロナウイルスの感染拡大を徹底して抑え込む「ゼロコロナ」政策が経済活動の足かせになっているからだろう。

実質的には+1.8%程度の低成長にとどまった中国

 2021年通年での成長率は+8.1%と2011年の+9.6%以来の高さだが、土壇場において失速した形だ。さらに+8.1%という数字自体もあまり意味がない。理由は+6.3%分が新型コロナ直撃で低成長となった2020年の反動増にすぎないからだ。すなわち実質的には+1.8%程度の低成長にとどまったと言えるのだ。

 中国では現在も「ゼロコロナ」政策によって厳しい行動規制が敷かれている。省をまたぐ旅行や出張は制限され、西安市などでは都市封鎖さえおこなわれている。当然ながら外食や旅行、物流などの分野が打撃を受けており、12月の小売売上高も前月比で減少に転じた。さらに政府が推し進める不動産への規制強化も大きなブレーキとなってのしかかっている。政府が重視する雇用政策も振るわない。2021年における都市部での新規雇用は1269万人。2020年より+7%と増えたが、単月ベースで見ると12月まで4カ月連続で前年同月を下回り、特に12月は3割近くの減少となっている。

米国は現金給付効果もあり個人消費が回復し、2021年は+5.7%の高成長

 一方、米国の2021年10~12月のGDPは+6.9%と市場予想+5.5%を上回り、高い成長をとげている。2021年通年では巨額の財政出動やワクチンの普及で経済活動が再開し、1~3月期、4~6月期はともに+6%台の伸び。7~9月期は変異型ウイルス「デルタ型」の感染拡大で+2.3%に減速したものの、最後に大きく持ち直した。通年での成長率は+5.7%で、2020年の-3.4%から大きく回復した。

 米国の高成長の原動力は、やはりGDPの7割を占める個人消費である(日本の6割よりも大きい)。10~12月期は前期比+3.3%で、7~9月期の+2.0%から加速。中国とは対照的な動きとなっている。11月から前倒しでスタートした年末商戦も好調。米国政府が個人向けにおこなった現金給付による「過剰貯蓄」は2.6兆ドルに膨れ上がり、何とGDPの1割強に相当。潤沢な現金が消費を後押しした。失業率は12月に3.9%まで低下し、平均時給は前年同月比4.7%上昇。労働市場は逼迫している。

ゼロコロナ政策が足かせとなり、中国経済は2022年上期も低調か

 中国経済は2022年1~3月もゼロコロナ政策が足を引っ張りそうだ。天津市や北京市で相次いで「オミクロン型」コロナウイルスの感染者が見つかり、上海市や深圳市にも広がっている。2月4日に開幕する北京冬季五輪を控え、政府は厳戒態勢を敷いている。トヨタ自動車などの自動車メーカーの工場がある天津市では操業休止を余儀なくされ、天津港では輸入品を中心に通関や積み荷などの業務が停滞し、隣接する北京への物流にも支障をきたしていると報じられている。

 さらに多くの地方政府は2月1日の春節(旧正月)前後の休暇において、帰省や旅行の自粛を呼びかけている。中国政府は春節を挟む40日間の旅客数は延べ11億8000万人と予想。新型コロナ前の約4割にとどまり、実際の旅客数はさらに下振れする可能性が大きい。1年前も政府が帰省の自粛を求めて当初17億人と予想したが、結果は約半分の8億7000万人だった。春節が書き入れ時の陸空運、飲食、宿泊業へのダメージは大きい。

 各国の中央銀行が金融緩和から金融正常化に向けて動き出す中、中国人民銀行は政策金利(市中銀行に1年間資金を貸し出す際の金利)を12月に続き、1月も2カ月連続で利下げを実施。景気を悪化させないための金融緩和政策をとっている。中国にとって今年は大事な年だ。なぜなら5年に1度の共産党大会が今秋開催されるからだ。しかも習近平国家主席は異例とも言える3期目の就任を目指して共産党体制を強化。党大会のある年は政府の景気対策によって成長率は上振れしやすいとされてきたが、地方財政の悪化でインフラ投資にも限度がある。

オミクロン流行で減速傾向の米国復調の鍵を握るのは、やはり個人消費

 米国の2022年1~3月期のGDPは新たな変異型「オミクロン型」の流行などを背景に+2%台に再び減速すると市場では予想されている。年末以降に感染者が急増し、外食や旅行などサービス消費は再び冷え込み、減速傾向にある。

 オミクロン型の感染拡大は人手不足にも拍車をかけている。米国勢調査局が年末から今年初めにかけて実施した家計調査では、労働力人口の5%にあたる875万人が感染や看病を理由に働きに出なかったと回答した。労働市場の逼迫が続き、賃金上昇を通じてインフレ圧力が高まるのは好景気ならでは風景と言える。

 米国経済の好転を見込む動きは、コロナ感染拡大が和らぐ2月に入って早くも出てきそうだ。新規感染者は1月中旬に平均約80万人でピークに達した後に急減。米国経済の最大の懸念ポイントとしては高インフレが長引くことで、消費を控える動きが鮮明になってくるかどうかである。米国景気の先行きのカギを握るのは、やはり個人消費の動向次第と言えよう。

「中国景気減速=日本株売り」と焦る必要はない。大事なのは米国動向だ

 さて、ここからが重要だ。「中国経済が減速、すわ大変!」と早まらないで欲しい。中国経済の動向だけでは「中国景気減速=日本株売り」にはならないからだ。株式市場を見る際には米国経済の動向が最も大事であり、中国は局所要因として見るのが正しい。中国経済が減速すれば、中国に関わるビジネスをおこなっている日本企業への影響は大きくなるが、米国経済が安泰である限りは世界のマーケットへの大きなマイナス要因にはならない。「中国恒大集団がデフォルトしたら株式市場は暴落する!」「リーマンショックのようなことが起こる!」などと一部のメディアは騒いでいたようだが、実際デフォルトしてもほとんど影響は出ていないのはご存知の通りである。あくまで局所的な影響に留まっている。世界経済を見る際には、このあたりのことをきちんとわきまえておく必要がある。

(DFR投資助言者 太田 忠)

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