新型コロナウイルス禍から業績の回復途上にあったコンビニエンスストア業界に逆風が吹いている。円安や原材料高による「値上げドミノ」が広がる中、最大手のセブン-イレブン・ジャパンは“禁断”の商品の投入を迫られた。特集『総予測2023』の本稿では、コンビニの優位性を失わせかねない新たな悩みについて解説する。(ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)
コロナ禍前水準に日販は復調も…
円安や資源高で「値上げドミノ」
コンビニエンスストア業界にとって2022年は「復活の年」にしたいはずだった。
新型コロナウイルスの感染拡大は、小売業界唯一の“勝ち組”のコンビニ業界を直撃した。都市部のオフィス街など稼げるエリアでの需要はリモートワークの浸透や外出制限で蒸発。生活圏ではスーパーやドラッグストアの攻勢に客を失った。
コロナ禍で20年の1日当たり店舗平均売上高(平均日販)は大手3社とも前期比で下落。最大手のセブン-イレブン・ジャパンこそ前期比微減だったが、ローソンとファミリーマートは大きく沈んだ。
ただ、コロナ禍は22年夏に「第7波」があったものの、当初のような厳しい行動制限は課されず、経済活動も再開した。コンビニ業界が待ちに待ったオフィス街の需要も戻りつつある。
回復傾向は数字にも表れ始めた。21年の平均日販は3社とも前期を上回った。さらに、22年3~8月期の平均日販は、セブン-イレブンがコロナ禍前の19年の水準を超えたほか、ファミマも19年とほぼ同じ水準まで復調している。
それでも業界関係者の表情は暗い。なぜなら、「リハビリ中」ともいえるコンビニ業界は緊急事態が続いているからだ。
それが、世界的な原材料高と急速に進行した円安だ。原材料高や円安は大手3社による「値上げドミノ」を招いた。セブン-イレブンは7月に入れたてコーヒーの「セブンカフェ」を値上げしたほか、ローソンは5月に「からあげクン」の1986年の発売以来初となる値上げに踏み切った。集客の目玉商品ですら値上げせざるを得ない厳しい状況に追い込まれている。
加えて、ファミマの細見研介社長が「危機的な大津波」と形容するのが電気代の高騰だ。セブン-イレブンは22年上期、水道光熱費の上昇でコストが75億円増え、ファミマも40億円増加した。加盟店の水道光熱費の大部分を本部で負担するコンビニにとって、電気代の上昇は強烈な利益の押し下げ要因になっている。
円安や原材料高、そして電気代上昇という逆風が吹き荒れるコンビニ業界。外部環境の激変は、最強王者のセブン-イレブンに、ある「禁断の商品」の投入を迫ることになった。
次ページでは、セブンが投入した禁断の商品を明かすとともに、円安や原料高によって苦境に立たされるコンビニ業界を襲う荒波についても解説する。