デフレ期に通用していた現金・不動産を中心とした運用が通用しない時代がやってきた
資産は現金で持っておけば、リスクはなく、目減りもしない。または低金利を利用して不動産投資をする──バブル後のデフレ期に通用したこのようなやり方は、これから通用しなくなっていきます。今はまさに経済の大きな流れが変わり始めている時期なのです。
景気と金利には短期サイクルと長期サイクルがあります。
人々はお金を借りて、消費します。お金を借りるということは将来のお金を現在、使うことです。そうなると、将来の消費はその分、減ります。この将来の消費減少分は生産性の向上で少し補えますが、完全に補うことはできません。
借金が増えている間は景気がいいです。しかし、いつかは借金を返さなければいけない時期が来ます。その時、消費は抑えられ、景気は減速します。
このようなメカニズムによって、短期(3~5年)と長期(10年以上)の景気サイクルは作り出されます。
借金が増え続けても、インフレ率がさほど上がらないという時代は終わり、インフレ率が急激に上がり始めた!
アメリカの住宅バブルが崩壊し、リーマンショックがやってきたあと、各国では景気刺激策が打たれ、世界全体では借金が増え続けてきました。そして、不思議なことに、借金が増え続けても、インフレ率はさほど上がらなかったのです。そのため、各国の政府は借金を増やし続けられました。
さらに、新型コロナウイルスのパンデミックによって、各国の景気刺激策には拍車がかかり、借金の額は跳ね上がりました。
そして、「借金が増え続けても、インフレ率がさほど上がらない」という時代はもう終わりとなってしまいました。インフレ率が急激に上がり始めたのです。借金はもう増やすことができません。借金減少と金利上昇はセットでやってきます。
今のインフレは中国のゼロコロナ政策とロシア・ウクライナ戦争によって起こっている部分がありますが、1つ言えるのはこうした要因はすぐにはなくならないということです。これらの出来事は本来、来るべきトレンドを早めただけだと思います。
世界は反グローバル化の方向へ。サプライチェーンの分断はインフレを助長。これからは日本にもインフレがやってくる!
トランプ氏の米大統領就任以降、世界は反グローバル化の方向へ動き始めました。
グローバル化は物価が抑制される方向へ働くと考えられます。世界のそれぞれの国がそれぞれ得意なモノを作り、互いに貿易を盛んに行えば、効率よく製品を作っていくことができるからです。
このような、最適なサプライチェーンをグローバルに構築する動きが、反グローバル化の中で逆回転し始めています。
トランプ政権下では、米中対立が激しくなり、両国が互いに高い関税を掛け合うようなことが起こりました。
コロナ禍によって世界中で生産や物流が滞り、新興国などから輸入していた部品がなかなか入らず、製品を作れないといった事態が生じました。効率を追求し、サプライチェーンをグローバルにはり巡らせたことによるリスクの存在を、世界の企業は悟ったのです。
さらにロシア・ウクライナ戦争の勃発は、「民主主義国家vs専制主義国家」という対立軸を鮮明なものにしました。
このようなことから自国内、あるいは友好国の陣営内だけでサプライチェーンを再構築するような動きが世界的に起きています。
そして、このような動きはコスト高につながり、インフレを助長します。
世界のインフレ率がまだ2~3%のころは、日本独特の理由(バブル崩壊、少子化、高齢化など)によって、日本はまだデフレの状況にありました。しかし、世界のインフレ率が5~8%のレベルに到達すると、資源価格をはじめとしたコスト高、為替市場での円安進行などによって、日本にもインフレがやってくるようになるでしょう。
国内投資の比率が高く、円資産を過剰に持つことのリスク、あなたはわかっていますか?
ここで、40代後半のサラリーマン、Aさんを例に考えてみましょう。Aさんはポートフォリオの大半がマイホームの不動産と現金です。
●Aさんの金融資産(不動産を除く)は1000万円。不動産も含めると2500万円。
・うち500万円は現預金、300万円が保険、200万円が株(日本株)。
・マイホームは3500万円で購入し、ローン残債を2000万円とすると、純資産ベースでは1500万円。
・資産の60%が不動産、20%が現金、12%が保険、8%が株。
このAさんの投資ポートフォリオは直近20年間では保守的で、安全なものでした。大きなリターンは見込めませんが、購買力が減ることもなかったのです。
しかし、世界は変わりました。
コロナ禍によって、大きな経済刺激策が打たれ、その副作用により、日本以外の国は揃ってインフレになっています。
為替市場では、アメリカの利上げによって、米ドル高の動きが起こってきました。以前は戦争などでリスクオフ的状況になると、円高になっていましたが、今は円安になります。国内投資の比率を高めて、円資産を過剰に持つことは、かなりリスクの高い資産配分戦略になってしまいました。
海外投資によって、株・通貨など全般的に資産を分散投資しないと危険です。今まで通用していたやり方はもう通用しないのです。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。
※メルマガ「ポール・サイの米国株&世界の株に投資しよう!」募集中! 米国株の分析が毎週届き、珠玉のポートフォリオの提示も! 8/27来日セミナーも予定