CPIショックとFRB議長のタカ派的発言でNYダウは年初来安値を更新
NYダウが年初来安値を更新―。先々週の米消費者物価指数(CPI)ショックに続き、先週はタカ派的米連邦公開市場委員会(FOMC)でマーケットに大きな逆風が吹き、先週金曜日のNYダウの終値は2万9590ドル。6月17日につけた2万9888ドルをあっさりと割り込み年初来安値を更新した。S&P500は3693、ナスダック指数は1万867となり、6月16日のそれぞれの安値3666と1万646の寸前まで下落しており、風前の灯火の状況だ。8月中旬には20を割っていたVIX指数(恐怖指数)も先週金曜日には一時32.30まで上昇し、相場の先行き警戒感が一気に高まっている。
8月の米CPIが+8.3%と予想+8.1%を上回ったが、数字面以上にインフレの本質的な部分が露わになったことが大きかった。7月までのインフレは原油急騰を中心としたエネルギー価格の上昇によってもたらされた面が強かったが、8月の米CPIの中身を見ると、もはやエネルギー価格だけでは説明できないほど、あらゆる面でインフレが起きており、早期に鈍化するとの見方が極めて難しくなった。「エネルギー価格が落ち着けば、インフレもピークアウトする」との楽観的な見方によって、株式市場が上昇するという希望が木っ端微塵に打ち砕かれたのだ。
高金利継続で景気減速は不可避の情勢。逆金融相場から逆業績相場への流れ強まる
そして先週のFOMC。事前予想通り3回連続となる0.75%の利上げが決定され、政策金利は7月の2.50%から3.25%に引き上げられた。さらに、FOMCメンバーが予想する今後の政策金利見通し(ドットチャート)が3カ月前に比べて大幅に引き上げられた。2022年末が3.4%→4.4%、2023年末が3.8%→4.6%、2024年末も3.4%→3.9%との高水準の政策金利が示されたのだ。
これはかなりタカ派的だ。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は記者会見で「インフレ退治のために断固たる措置を取る」「景気を犠牲にすることもやむを得ず」との強い意志を示した。これを受けて債券市場では2年物の短期金利が一時4.27%と2007年10月以来15年ぶりの高水準、長期金利も3.82%と2010年4月以来12年ぶりの高水準となった。逆イールドは金曜日に-0.53%まで大幅に拡大し、景気減速はもはや不可避の情勢になっている。現在は逆金融相場の真っ只中だが、この後の逆業績相場へ続く道のりだ。
さらに象徴的なことが先週金曜日に起こった。英国市場でのトリプル安だ。英国債の利回りが急騰し、2年債は前日より一時0.4%あまり上昇して4%を上回り、2008年10月以来約14年ぶりの高水準になった。トラス政権が大規模減税策と国債の増発計画を打ち出して財政や債券需給の悪化懸念が強まったことが要因だ。英ポンドは対ドルで37年ぶりの安値をつけ、英国株も下げてめったに見られない「トリプル安」になった。これは世界の金融市場にとって不吉な予兆だ。
「当たる、当たらない」は重要ではない。下値でも対処できる投資戦略を
最近のコラムで何度も述べているように、私が想定している今回の「逆金融相場&逆業績相場」における下値メドはNYダウが2万6000ドル、日経平均は2万4700円である。本格的な逆金融相場&逆業績相場がやって来るとマーケットは25%程度クラッシュするとの過去の教訓に立っての前提である。実際に直近の高値から25%下落するとNYダウは2万6000ドルで、日経平均は2万1000円である。
2万4700円との違いはすでに説明したが、もう一度繰り返すと、日本株においては①金融緩和継続、②低インフレ、③保守的な企業業績という米国株とは対照的な投資環境にあり、高値から25%の半分の12.5%下落にあたる2万4700円(≒3月安値)を下値のメドと考えているからだ。下値メドが「当たる、当たらない」は重要ポイントではない。一番大事なのは、もしここまで下がっても対処できるだけの投資戦略があるかどうか、さらに下値メド以上に下がった時でも「下落を味方に付ける」投資戦略があるかどうかに尽きよう。
「勝者のポートフォリオ」は9月のパフォーマンスも好調
私がDFR(ダイヤモンド・フィナンシャル・リサーチ)で投資助言をおこなっている「勝者のポートフォリオ」はもちろん「逆金融相場&逆業績相場」における最適ポートフォリオを構築した。平常時よりもキャッシュポジションを大幅に増やすと同時に、組み入れ銘柄については下げ相場にあまり関係なく活躍できる銘柄群をラインナップしている。おかげさまで大きく下げているこの9月も好調だ。相場環境が厳しい中、昨年10月に開始してからの累計パフォーマンスは9月23日時点で+0.2%(同期間のTopix-5.6%、日経平均-7.8%、マザーズ-36.8%)である。
ここからのマーケットの下げはむしろ大歓迎。なぜなら一段と手元のキャッシュが高まり、安値で投資できるチャンスが増えるからだ。「逆金融相場&逆業績相場なんてもうイヤ! 怖い!」という低次元のスタンスを超えて、来るべき「金融相場」で圧倒的なパフォーマンスを発揮するための準備をすでに着々と進めている。
約24年ぶりの円買い為替介入も効果は限定的。当面は145円の攻防続く
さて、最後に先週の大きな話題となった日本の為替介入についてである。
先週木曜日の午後5時頃、政府・日銀は1998年6月以来、約24年ぶりに円買いの為替介入に踏み切った。この日、日銀が金融政策決定会合で大規模な金融緩和の維持を決め、利上げを進める米国との金融政策の違いから円安・ドル高に拍車がかかって146円台に乗せる直前の出来事だった。介入によって為替はわずか1時間程度で140円台へと5円も円高になった。
鈴木俊一財務大臣は介入後に記者会見。「投機による過度な変動が繰り返されることは決して見過ごすことができない」と理由を述べた。介入規模は「兆円単位」。今回はもちろん他国と一緒におこなう協調介入ではなく日本の単独介入である。介入前に米国財務省に対して「介入をおこなう」と通知した上での行動のため、米国からも容認された形となった。
FRBは引き続き大幅な利上げ継続の意向、一方の日銀は引き続き金利を上げない意向で対照的。日米金利差拡大からドルが買われて円が売られる構造には変化がない。そもそも、どんどん円が売られるような金融政策を取りながら、日本単独で単発的に円を買うという行動自体、非常に矛盾に満ちているが、一気に円高に振れたことから、一定の円安歯止め効果がある。要するに口先介入だけではないぞ、との行動力を示した形だ。
ただ、介入の効果はもちろん限定的だと思う。金利差を背景に円安・ドル高になりやすい構造は変わらない。円買い・ドル売り介入は手持ちのドルを売る必要があり、原資となる外貨準備の範囲内でしか実施できず、大規模な介入を繰り返すのは難しい。現在、日本の外貨準備は約180兆円あるが、自由に使えるのはおよそ10%の19兆円のみ。大半を占める米国債は売れない。
政府・日銀としては何としても150円は避けたいはずだから、145円程度になればまた行動に出るというポーズ、あるいは実際に単発介入に出ると見られるので、しばらくは145円の攻防になると思われる。
●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもメルマガ配信などで活躍。
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