利上げスピードの鈍化とインフレの沈静化を期待してマーケットは上昇
株高が止まらない。先週月曜日に発表された8月の米製造業景況感指数は-31.3とショッキングな数字だったにもかかわらず、その日の米株式マーケットは主要3指数揃って上昇した。まさに「景気悪化などどこ吹く風」という雰囲気である。「インフレが鈍化すればOK」「FRBが利上げペースを緩めればOK」という側面だけでの株価形成がなされている。6月には3万ドルを割り込んでいたNYダウは先週一時3万4000ドル台を回復し、S&Pもナスダック指数も大きく値を戻している。そのきっかけとなったのが7月下旬におこなわれた米連邦公開市場委員会(FOMC)である。
7月のFOMCでは2回連続となる0.75%の利上げを決定。政策金利は2.25%~2.50%となり、米連邦準備理事会(FRB)が景気をふかしも冷やしもしない中立金利2.50%に達した。大幅な利上げがおこなわれたわけだが、パウエル議長は「ある時点から利上げペースを緩めることが適切だ」と述べたため、「これ以上利上げペースが加速することはない」「株式市場には大いにプラス」という見方が広がった。先週水曜日に開示された議事要旨もパウエル議長の記者会見で述べたこととほぼ同じ内容で、改めて好感されている。
マーケットは楽観論に傾いているが、英国CPI上昇加速など懸念も
今のマーケットを一番大きく動かしている要素は「今後の利上げスピード鈍化」と「すでに大きく高まったインフレの沈静化」の2点に集約される。いずれも合格点との評価が7月中旬からの株式市場の上昇を形成している。しかしながら議事要旨でも述べられているように「物価上昇率は受け入れがたいほど高い水準が続いている」し、「消費や生産の活動が弱まっている」という動かしがたい事実がある。2年債と10年債の逆イールドは依然として高水準のまま推移。今後の景気減速を示唆し続けているわけだが、マーケット参加者の見方は「リセッションには至らず、景気は軟着陸できる」との楽観論だ。
その一方で、先週水曜日に発表された英国の7月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で10.1%上昇、伸び率は6月よりさらに0.7ポイント拡大した。これで10カ月連続での上昇となり、市場予想の9.8%も上回った。1982年前半以来、40年ぶりの高さなのだが、電気・ガスの大幅値上げが見込まれる10月にはインフレがさらに加速し、10月のCPI上昇率は13%程度に達するとの衝撃的水準をイングランド銀行(中央銀行)は想定している。先走りでインフレのピークアウトが意識されている米国とは大きな違いだ。
米株高が波及し、堅調な日本市場。楽観相場のウラで起きていることは?
当然のことながら日本市場も米株高が波及しており、日経平均は先週水曜日に2万9222円と今年1月5日以来7か月ぶりの高値水準となった。昨年末が2万8791円であったため年初来ではプラスだ。ロシアによるウクライナ侵攻の地政学リスクで3月9日に2万4717円の年初来安値を付けたが、それと比較すると18.2%の上昇。大きな上昇が始まる前の6月末の26393円からは10.7%の上昇。随分と値を戻している。
ところで今回の本題である。7月からの本格的上昇かつ楽観相場のウラで起こっていることを見てみよう。東京証券取引所が発表している投資部門別売買動向。個人投資家は現物と先物合計で6週連続日本株を売り越している。6週連続は2019年11月以来2年9カ月ぶりだ。FRBの利上げペースの鈍化を期待する海外投資家の買いが先行している一方で、日本の個人投資家は利益確定売りに動いている。ちなみに一番直近の8月第2週(8~12日)での個人投資家の売り越し額は3340億円であり、高値警戒感から売りの勢いが増している。
日経平均の反落に賭けてダブルインバースを買う個人投資家が急増
売り越し継続に加えて、興味深いのが「ダブルインバース」型のETF(上場投資信託)の発行済み投資口数が先週水曜日に過去最多となったことである。皆さんもよくご存知だと思うが、「ダブルインバース」型ETFというのは市場とは逆の方向に2倍の値動きをする市場連動型ETFである。実際、最も流動性の高い「NEXTFUNDS日経平均ダブルインバース・インデックス連動型上場投信(コード番号1357)」の投資口数は先週水曜日時点で7億326万口と7月末時点(5億3864万口)から急増。日経平均が2万9000円の大台に回復したこの日の売買代金は341億円と高水準となった。単に手持ち株を利益確定で売るだけではなく、「今後相場は下がる!」と見てダブルインバースで「売り」のポジションを積極的に取っているのだ。目ざとい個人投資家は日経平均の反落に賭けている。
この行動は米国のマーケットプレーヤーよりも一歩先んじていると言える。なぜならダブルインバースのポジションを持つ投資家の考えは「足元の株価反発は米国のインフレがピークアウトするとの期待が一時的に高まっているだけ」であり、「これから景気後退懸念が高まる」「FRBによる金融引き締めは続く」との見方に立っているからだ。
下落相場中のブルマーケットを脱しきれない中、能天気な投資スタンスは禁物
8月3日の第43回のコラムで「7月のFOMC後は2つのシナリオがある」と私は述べた。シナリオ1は「マイルドな業績相場に戻る」「日経平均は再び3万円を目指す」というもの。これは金融正常化の方向性が不透明な中では「マーケットはガタガタする」が、それが終わると業績相場の中で「マイルドな局面に戻る」という、従来の相場パターンを踏襲した展開だ。要するに今年の初めから私が一貫して述べてきたストーリーである。
「マイルドな業績相場」の後にやって来るのは何か? それは金利が一番のピークあたりに達してからの株式市場のクラッシュ、すなわち本来の姿の「逆金融相場」である。その後、金利引き締め効果によって景気減速が起こり「逆業績相場」がやって来る。すなわちシナリオ2だ。これも従来の相場パターンである。「GDPが2期連続のマイナスになるとその後、大きな株式市場のクラッシュが起こっている」という歴史的事実は無視できない(すでにアメリカは現在2期連続のマイナスだ)。本格的な逆金融相場&逆業績相場がやって来るとマーケットは25%程度クラッシュするとの教訓に立って、これまでのコラムで「NYダウの下落メドは2万6000ドル、日経平均の下落メドは2万1000円」と私は述べた。景気が軟着陸し、もうこれ以上金利は上がらない、という展開が見えてくればもちろんここまでの水準に下がる可能性は極めて低い。しかしながら、いまだに「下落相場の中のブルマーケット」という状況からは脱し切れておらず、能天気な投資スタンスは取れない。
先週の米国のVIX指数は20割れ、日本のVI指数も20割れとなっており、「先行きにはほとんど不安がありません」と言っている状況になっている。9月のFOMCまであと1ヶ月もあり、波乱要因はほとんどないとの見立てになっている。
とはいうものの、1つ大事なイベントがある。それはジャクソンホールにておこなわれる国際経済シンポジウムだ。今週金曜日の午前10時からパウエル議長が経済見通しやインフレ、金融政策について講演する予定になっている(日本時間は午後11時から)。毎年恒例のイベントであるが非常に注目度が高く、マーケットにインパクトを与える可能性がある。要ウォッチである。
「勝者のポートフォリオ」は最高値更新。選りすぐりの3銘柄を新規投資
私が投資助言をしている「勝者のポートフォリオ」はおかげさまで先週最高値を更新した。相場環境が厳しい中、昨年10月にスタートした個人投資家向けのサービスであるが、先週末の8月19日時点で+2.7%(同期間のTopix-1.8%、日経平均-1.8%、マザーズ-33.6%)。これまでの高値は+1.9%(11/12)だったので一歩抜け出した。また、先週は選りすぐりの3銘柄に新規投資をおこなった。「今ホットな銘柄」ではなく「これから着実に上がる条件を備えた選りすぐりの銘柄」だ。さすがにマーケットの短期的な過熱感は否めないが、たとえ調整が起こったとしてもマーケットに打ち克つだけの底力があるポートフォリオになっている。引き続き運用資産を積み上げ、会員の皆さんとともに大きく前進していきたい。
(本コラムは8月20日執筆)
●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。プロが評価したトップオブトップのアナリスト&ファンドマネジャー。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもメルマガ配信などで活躍。
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