脱炭素を目指すエネルギー転換の流れの中、再生可能エネルギーに注目が集まるが、そこには多くの課題がある
脱炭素を目指すエネルギー転換の流れとそれに関する投資機会を考える際、多くの投資家は再生可能エネルギーの成長性に注目します。けれど、実際には再生可能エネルギーには多くの課題が残っています。
風力や太陽光などの再生可能エネルギーのコストが大幅に下がったという報道は多いものの、実際のエネルギー供給への影響は限定的です。
現在、米国の一次エネルギー供給に占める再生可能エネルギーの割合はわずか3.5%で、10年前の2.7%からわずかな増加にとどまっています。この状況から、気候変動問題に対処するために再生可能エネルギーだけに頼ることの限界が見えてきます。
経済発展につれ、CO2排出量は増加する。先進国がCO2排出量を削減しても、中国や途上国のCO2排出量は大きく増加している
世界のCO2排出量を決定する最大の要因は中国です。
今世紀に入ってから中国のCO2排出量は3倍以上に増加し、世界全体の31%を占めるまでに至りました。
一方で、米国やEUはそれぞれ約1ギガトンのCO2排出量を削減しましたが、非OECD諸国(中国以外の途上国)からの排出量は9ギガトンからほぼ16ギガトンにまで増えています。
経済が発展するにつれ、エネルギー消費とそれに伴うCO2排出量は増加する傾向があり、これが中国や途上国の石炭、石油、天然ガスの消費を押し上げているのです。
米国は発電において石炭から天然ガスへの転換を進めたことでCO2排出量削減に成功したが、一部の再生可能エネルギー推進団体は米国の天然ガス生産阻止に動いている
米国がCO2排出量削減に成功している背景には、発電において石炭から天然ガスへの転換を進めたことがあります。この成功を他の国々にも広げることが、グローバルなCO2削減には重要です。
米国の安価な液化天然ガス(LNG)の輸出を増やすことは、他国が石炭依存から脱却し、よりクリーンなエネルギー供給を実現する助けとなるでしょう。
しかし、気候変動対策は極端な意見に影響されやすく、一部の再生可能エネルギー推進団体は米国の天然ガス生産を阻止しようとしています。このような状況は、効果的なエネルギー政策の実現を妨げています。
フランスは電力の65%を原子力で賄っており、原子力の有効性を証明。原子力の利用拡大はエネルギー転換加速の重要な選択肢
さらに、原子力発電の役割を再評価する必要もあります。
原子力は非常に安全で効率的なエネルギー源であるにもかかわらず、その利用は停滞しています。福島での原発事故以降、中国を除くアジア諸国は原子力発電所を停止し、ドイツも同様の措置を取りました。
一方、フランスは電力の65%を原子力で賄っており、原子力の有効性を証明しています。米国でも、海軍の原子力潜水艦や原子力空母はこれまで一度も重大な安全に関わる事故を起こしていません。
これらの事例を考慮すると、原子力の利用拡大はエネルギー転換を加速させるための重要な選択肢であることがわかります。
再生可能エネルギーだけでは世界の電力需要の増加分を賄えていない現状を理解することが今後の投資戦略において重要な要素
しかし、現実的なエネルギー政策を採用しない限り、中国の石炭消費は今後も増加し続けるでしょう。
中国は再生可能エネルギーに多額の投資を行っていますが、実際にはCO2排出量は増加しています。これは、再生可能エネルギーの成長が世界の電力需要の増加を十分に補えていないためです。
今世紀に入ってから世界の電力消費量は年間2.9%のペースで増加しました。再生可能エネルギーの成長率は5.1%でしたが、電力需要の増加分の半分以下しか再生可能エネルギーでは賄えていません。
以上のようなエネルギー市場の現状を理解し、長期的な成長の機会を見出すことが、今後の投資戦略において重要な要素となるでしょう。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。
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