現在の世界経済を見渡してみると、地域ごとに異なる経済状況と政策動向になっており、世界経済を取り巻く環境は、複雑な様相を呈しています。
アメリカはリセッションを回避できるのか? できないのか?
まずは、アメリカ経済を見てみましょう。アメリカでは労働市場の変化が投資家にとって重大な懸念事項となっています。
ニューヨーク連銀の調査によれば、特に若年層や低所得者層、女性において雇用の安定性に対する不安が増しており、労働市場の先行きに不透明感が漂っています。このような状況は企業収益に直接的な影響を与えます。特に労働コストの増加や労働力不足が今後、企業の成長の制約となる可能性があります。
さらに、アメリカのリセッションリスクは完全には消えていません。民間調査機関コンファレンスボードが発表する消費者信頼感指数はアメリカ景気の先行指標となるものですが、この数字が2016年以来となる低い水準(コロナ禍の時期を除く)に達していることは懸念材料と言えます。
一方で、ゴールドマン・サックスはリセッションを回避できるとの予測を維持しており、経済成長を支える要因として、消費の堅調さやビジネス活動の活発さを挙げています。
これに加えて、アメリカの主要港湾の貨物取扱いが活況を呈していることから、輸入業者が今年の年末商戦に向けた商品の購入を前倒しで行っていることが示唆されています。
ユーロ高になる可能性が高まっており、これが欧州企業の競争力に悪影響を与えるかどうかに注意
欧州では、エネルギー政策と為替市場の動向が注目されています。
特にドイツでは、原子力発電所の廃止がエネルギーコストの増加と温室効果ガス排出量の増加につながっており、エネルギー政策の見直しが迫られています。
また、ユーロは上昇する可能性が高まっています。
8月23日のジャクソンホール会議における講演でFRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長は、米国が利下げ転換することを示唆し、これにより、米ドル安が進みました。米ドルに次ぐ主要通貨であるユーロは米ドル安の受け皿となり、ユーロ高になる可能性が高まっているのです。
ユーロ高は欧州の輸出産業やエネルギーセクターに重要な影響を及ぼすと考えられます。特に今後、パウエル議長がさらにハト派的な姿勢を示す場合、ユーロ高がもっと進行し、これが欧州企業の競争力に悪影響を与えるかどうかという点は注視すべきことです。
外国人投資家は日本株の現物を買い増しているが、先物市場では売り優勢
アジアでは、日本経済が特に注目されています。
日本の輸出額は円安の恩恵を受けて過去最高を記録し、特に自動車や電子機器の輸出が好調です。しかし、同時に貿易赤字が拡大しており、これが今後の経済成長に対するリスクとして浮上しています。
また、外国人投資家が日本株の現物を積極的に買い増しする一方で、先物市場では売りが優勢となっていることは、日本市場における投資家のセンチメントが必ずしも楽観的ではないことを示しています。
これに対して、台湾と韓国の経済は堅調に推移しています。しかし、中国の製造業が低迷しているため、アジア地域全体の経済成長見通しは慎重に見ておいた方がいいでしょう。
米利下げがグローバルな資本の流れにどのような影響を与えるかに注意。新興国、資源国などにはプラスか
ジャクソンホール会議におけるパウエル議長の発言は、今後の金融政策に大きな影響を与えると予想されており、市場は年内に一定程度の米利下げを織り込みつつあります。
これが現実のものとなっていけば、米国株式市場や為替市場に対する資金フローが大きく変化する可能性があり、投資家はこの点を考慮してポートフォリオを調整する必要があります。
特に、米国の利下げがグローバルな資本の流れにどのような影響を与えるか、また、これが他の主要経済圏、特に欧州やアジアの市場に与える波及効果を慎重に見極めることが重要です。米利下げは新興国、資源国などにプラスに働く可能性があります。
エネルギー市場では、米国のガソリン価格が下落を続ける一方で、米国の天然ガス価格などには反発の動きが見られます。エネルギー以外のコモディティ(商品)市場では、ブラジルの干ばつによるコーヒー価格の上昇が注目されています。
こういった動きは、基本的には短期的なトレンドとしてとらえるべきことですが、エネルギーセクターに長期的な投資チャンスが来ている可能性は検討に値します。
さらに新興国市場では、インドのビジネス活動が引き続き強く、それは金融セクターにおける人材の流動性が課題となるほど力強いものになっています。また、ブラジルの通貨・レアルはルーラ政権下で弱含んでおり、政治的なリスクが経済に与える影響が注目されています。
ジャクソンホール会議後の市場反応などを見て、地域ごとの経済状況や政策動向を詳細に分析する必要がある
結論として、現在の市場環境では、地域ごとの経済状況や政策動向を詳細に分析し、分散投資を通じてリスクを管理することが不可欠です。
特に、ジャクソンホール会議後の各市場の反応やエネルギー価格の変動、そして、各国の経済指標を注意深く観察し、柔軟かつ戦略的な投資判断をするべきだと思います。
いずれにしても、長期投資、分散投資は一番パフォーマンスが安定する運用方法であり、個人投資家にとって勝てる可能性の高い戦略だと思います。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。
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