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「老師」を疑う勇気を持て。私がアメリカで学んだ専門家とのつき合い方とは? どれだけ優秀な投資の専門家でも市場の未来は正確に予測できない

2026年6月10日公開
ポール・サイ
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台湾語では「老師」、日本語なら「先生」。アジアでは専門家への敬意が深く刻み込まれている

 アジアで育った私たちは、専門家への敬意が深く刻み込まれています。

 台湾語では「老師」、日本語なら「先生」。たとえば、医師、弁護士、教師、カウンセラー──このような人たちが「老師」と呼ばれる専門家でしょう。

 そして、アジアでは専門家の言葉には従うものとされ、専門家を疑うことは失礼であり、セカンドオピニオンを求めることは信頼の欠如と見なされます。このようなアジアにおける文化的な姿勢は、社会の中に秩序と敬意を生み出し、多くの場面でうまく機能してきました。

アメリカでは専門家はあくまで「サービス提供者」

 しかし、台湾からアメリカにやってきた私には、気づいたことがありました。

 アメリカでは、専門家は「サービス提供者」なのです。彼らはあなたのために働いています。あなたが彼らのために存在しているのではありません。

 この原則を最もわかりやすく示しているのが、投資の世界です。

 投資の世界において、「専門家」は無数に存在しています。

 ファンドマネジャー、ファイナンシャルアドバイザー、アナリスト、証券会社の営業担当者──彼らは皆、専門的な知識と経験を持っています。

どれだけ優秀な投資の専門家でも市場の未来は正確に予測できない。自分の投資の結果と共に生きるのはあなたであって、専門家ではない

 しかし、投資の世界では1つだけ確かなことがあります。不確実性は誰にも排除できない、ということです。どれだけ優秀な専門家でも、市場の未来を正確に予測することはできません。

イラスト:いらすとや

 そして、次のことが重要な点です。あなたの資産が損失を出しても、その結果と共に生きるのはあなたであって、投資の専門家ではない、ということです。

 アドバイザーはあなたから手数料を受け取り、次のクライアントへ移っていきます。もしも、アドバイザーの助言に従って投資した結果、あなたの老後資金が半分になっても、彼らの生活は変わりません。彼らには長期的にあなたの傍らにいるインセンティブもありません。

 彼らは今日の取引で報酬を得ます。そして、明日の結果はあなたが背負うのです。

 だからこそ、投資において「老師を盲信する」ことは、台湾でもアメリカでも日本でも危険なことなのです。

 これは文化に関係ない普遍的な真実であり、不確実性が高く、専門家が結果の責任を負わない領域では、最終判断は常に自分自身で下さなければなりません。

アメリカで離婚しようとすると多くの専門家が関わるが、そこには投資の世界と同じ構造的問題がある

 実は、こういった構造はアメリカの家族法の世界にも驚くほどよく当てはまります。

 アメリカで離婚しようとすると、弁護士、セラピスト、調停人、評価者など、多くの専門家が関わります。彼らは皆、それぞれの専門知識を持っています。しかし、投資の世界と同じ構造的問題がここにもあるのです。

 弁護士は和解すれば数千ドル、裁判に持ち込めば数万ドルから数十万ドルを得ます。紛争が長引くほど収入は増えるのです。これを悪意ある行為とは言えません。そういうビジネスモデルなのです。

 そして、あなたの裁判が終われば、弁護士は次のクライアントへ移っていきます。もしも、あなたの家族関係が壊れたとしても、彼らの生活には影響しません。

専門家があなたの人生に関わるのは一時的なこと。その一方、自分の人生をずっと生き続けるのはあなた自身に他ならない

 セラピストにも同じことが言えます。

 あるセラピストは認知行動療法を、あるセラピストはユング心理学を、あるセラピストはトラウマ(心的外傷)に焦点を当てたアプローチを信じています。

 それぞれの理論には価値がありますが、どの枠組みがあなたの具体的な状況に合うかは、セラピスト自身にはわからないことがあります。

 特に、セラピスト自身が未解決の問題を抱えている場合、無意識にクライアントを自分と同じストーリーの中に導いてしまうリスクがあります。セラピーが終わっても、あるいは終わらなくても、そのストーリーの結果と共に生きるのはあなたです。セラピストではありません。

 投資でも、法律でも、セラピーでも、構造は同じです。

 専門家は助言を提供し、報酬を受け取り、次に進みます。その一方、結果と共に生き続けるのは、常にあなた自身です。

 専門家があなたの人生に関わるのは一時的なことです。しかし、当然ながら、自分の人生をずっと生き続けるのはあなた自身に他ならないということです。

セカンドオピニオン、サードオピニオンを求めるのは賢明だが、自分が聞きたい答えを言ってくれる専門家を探し回ってはいけない

 1人の老師、つまり、1人の専門家を盲信することの問題点についてここまで述べてきましたが、ここで注意すべき重要な点があります。

 1人の専門家を盲信せず、セカンドオピニオン、サードオピニオンを求めるのは賢明なことです。しかし、それは自分が聞きたい答えを言ってくれる専門家を探し回ることとはまったく違います。そのことをよく認識しておくのが重要なのです。

 複数の意見を集めても、それらを客観的に評価しなければ意味がありません。自分に都合の良い意見だけを採用し、不都合な真実を告げる専門家を切り捨てるなら、それはセカンドオピニオンではありません。ただの自己欺瞞です。

 伝説的な投資家ピーター・リンチはこう言いました。「株はあなたが持っていることを知らない」

 この言葉は投資の真理であると同時に、人生のあらゆる重要な判断に当てはまります。

 現実は客観的に存在します。あなたがどう感じるか、あなたに専門家がどう言うか、あなたがどんなストーリーを信じているかに関係なく、現実はそこにあるのです。

 株価はあなたの願望を気にしません。裁判所はあなたのストーリーを気にしません。あなたの子どもたちは、あなたが正しいと信じているかどうかを気にしません。彼らは、あなたが実際にどう行動したかを見ています。

専門家の意見は「入力」であり、「結論」ではない

 台湾の文化も日本の文化も、専門家側の高い倫理観と長期的な責任感を前提としています。かかりつけ医は何十年もあなたを診ます。先生は生徒の人生を見守ります。このような関係性の中では、専門家を信頼することは合理的でしょう。

 しかし、アメリカの多くの専門家は、そのような長期的な関係を前提としていません。専門家は市場の中で動き、短期的な取引を行う者として機能しているのです。あなたの人生全体を見て最善を考えてくれる「老師」は、アメリカにはほとんどいません。それはあなた自身の仕事です。

 台湾系アメリカ人として、私が学んだ最も重要な教訓はこれです。

専門家の意見は「入力」であり、「結論」ではない。

 彼らの助言を聞き、感謝し、そして、自分で判断します。自分に合わないと思えば、専門家を変えます。2人目、3人目の意見を求めます。ただし、その時、すべての意見を客観的に秤にかける誠実さを忘れてはいけません。自分の人生の最終決定者は自分であるという事実から逃げないことです。

「老師」を疑うのは失礼なことではない。それは自分の人生に責任を持つということだ

 投資で「この銘柄は絶対に上がります」と言われた時、あなたはそれをいったんは疑うことでしょう。なぜなら、その言葉に従って投資した結果がもしも悪い方向へ向かったとしても、それを背負うのは自分だと知っているので慎重になるからです。

 弁護士が「裁判で勝てます」と言った時も、セラピストが「あなたは自分を見つけなければならない」と言った時も、同様の疑問を持つべきです。その助言の結果と共に生きるのは誰でしょうか。それはあなたなのです。常にあなたなのです。

 そして、株があなたに持たれていることを知らないように、現実はあなたのストーリーを知りません。現実はただ、そこにあるだけです。

 「老師」を疑うことは、失礼ではありません。自分の人生に責任を持つということです。

 アジアからやってきた私が、アメリカで最も身につけるべきスキルは、英語力でも専門知識でもありませんでした。

 最も身につけるべきスキルは、「本当にそうですか」と穏やかに、しかし、確実に問い返す勇気だったのです。そして、その答えが自分の聞きたくないものであったとしても、それを受け止める誠実さです。

 

●ポール・サイ  ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガ「米国株&世界の株に投資しよう!」を配信中。著書『台湾系アメリカ人が教える 米国株で一生安心のお金をつくる方法!』発売中。

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