フルにAIを活用して、息子の誕生日に贈る156ページのフォトブックを実質2日で完成
イラスト:いらすとや
先週、私は1冊のフォトブックを作りました。AIをフル活用し、息子の18歳の誕生日に贈る156ページのフォトブックを、実質2日で完成させました。
18年分の写真325枚を10の章に編み、キャプションと各章の序文はすべて英語と日本語の2ヵ国語。家族のLINEに残っていた言葉や、私の日記からの引用も織り込みました。
装丁は印刷会社3社それぞれの仕様に合わせ、背幅の計算まで含めた入稿データを作成。見積もり比較や、印刷会社とのやり取りに使う文面まで用意しました。ここまでにかかった時間は実質2日です。
従来なら1~2ヵ月かかった作業が、AIで実質2日に短縮
この作業をAIを活用せず、従来のやり方で外注していたら、どうなっていたでしょうか。
ブックデザイナー、フォトエディター、翻訳者、DTPオペレーター。少なくとも4つの職能にまたがり、作業時間は100~160時間、期間にして1~2ヵ月、費用は6000~1万5000ドル程度になるでしょう。
私が実際に支払ったのは、AIの利用料と印刷の実費だけです。
コストで数十分の一、時間で十数分の一。投資の世界で長く仕事をしてきましたが、個人が日常生活の中で、これほどの投資対効果を実感できる技術を、私は他に知りません。
[参考記事]
●AI活用で約2000時間の作業がわずか6時間に。約200ページの日本沿岸ヨットクルージングガイドが完成! AIがコンテンツ産業に与える大きな地殻変動とは?
以前、弟がAIを使って3時間でデータモデルを組み上げた話を紹介しましたが、今回はそれが、私自身の極めて個人的な作業で起きたことになります。
[参考記事]
●【米国株・グローバル投資入門:ポール・サイの10の視点】第6回 専門家だけが持っていた分析能力はAIで民主化されつつある。個人投資家の時代が来た!
AIが安くしているのは「専門技能そのもの」。AIによって置き換わる市場はソフトウェア支出ではなく、その数十倍あるサービス労働への支出だ
ここで強調したいのは、この生産性向上の「質」が、過去の技術革命とは違うという点です。
PCは計算を安くしました。インターネットは流通と接続を、クラウドは保存と配信を、スマートフォンは携帯性を安くしました。いずれも「モノと情報の移動コスト」の革命です。
それに対してAIが安くしているのは、「専門技能そのもの」です。AIはソフトウェアを置き換えているのではありません。人が提供してきた専門サービスをソフトウェア化しているのです。デザイン、翻訳、編集、調査といった『人が提供してきた専門サービス』そのものを低コスト化しています。
これまで人を雇うしかなかった熟練労働の限界費用が、ゼロに向かって落ちていきます。
置き換わる市場の大きさを考えれば、比較すべきはソフトウェア支出(世界で年間約1兆ドル)ではなく、その数十倍あるサービス労働への支出です。TAM(Total Addressable Market=獲得可能な市場規模)の桁が、1つか2つ違うのです。
1990年代後半のインターネット革命は統計に現れる前に実感できた。今のAI革命では同じことがもっと大きな規模で起きている
しかもこの変化は、GDPや生産性の統計に現れる前に、家計と中小企業の現場で先に起きています。
統計が捉えられるのは、市場で取引された労働だけです。「発注されなかったデザイン料」や「翻訳者に頼まなかった翻訳」は、どこの数字にも残りません。
思い出すのは1990年代の後半です。インターネットのROI(投資収益率)が統計に現れるよりも先に、私たちは自宅のモデムの接続音を聞きながら、世界が変わり始めたことを知っていました。今、同じことが、もっと大きな規模で起きています。
AIの投資収益率の高さに疑いはない。自分の人生の仕事をAIといっしょにやってみればすぐわかる
ただし、付け加えておきたいことがあります。この2日間、AIが私に代わってくれなかったものも、確かにあったのです。
あの岩が「ゴリラ岩」と呼ばれていたこと。結婚式の写真の日付が間違っていると気づくこと。飼っていた犬にペペという名前があったこと。どの言葉を裏表紙に置くべきかという判断。
85回出した修正指示は、すべて18年分の記憶を持つ人間の側から出たものです。AIは技能を民主化します。しかし、文脈や記憶、そして愛情までは代替できません。だからこそ私は、これを労働の「消滅」の話ではなく、固有の記憶や判断といった、人間にしかできないことへ価値が移動していく話だと考えています。
投資家としての結論はシンプルです。
AIのROIを疑っている人は、自分にとって本当に大切な仕事を、まだAIと一緒にやったことがない人です。一度やれば、議論は終わります。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査に12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガ「米国株&世界の株に投資しよう!」を配信中。著書『台湾系アメリカ人が教える 米国株で一生安心のお金をつくる方法!』発売中。
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