石油会社の倉庫係はどうやって億万長者になれたのか?
私が大学卒業後、はじめて就職した会社はエクソン(現エクソンモービル)でした。その当時、テキサス州でエクソンの倉庫係として働いていたテリーという人に話を聞くことがありました。
彼は大卒でもなく、特別なスキルがあるわけでもありません。しかし、定年退職する頃には、ESOPと呼ばれる自社株を保有する制度を通じて、数百万ドルの資産を形成していました。彼の「投資」といえば、企業から受け取る報酬の一部が毎月自動的に勤める会社の株に変わっていったことだけでした。
エクソンモービル(XOM) 3ヵ月足 出所:TradingView
ESOPとはEmployee Stock Ownership Planの略で、日本語では従業員自社株保有制度などと訳されます。アメリカでは多くの上場企業がこの制度を導入しており、従業員は自社株を企業の拠出により購入でき、税制優遇を受けながら退職時まで長期保有できるのです。
このテリーのようなケースは珍しくなく、「倉庫係が億万長者に」という話はアメリカでは普通に存在します。
[参考記事]
●金融業界の中の人は知っている日本株式市場の不都合な真実。明治維新レベルの日本経済革命は起こるのか?
ちなみに日本の多くの上場企業では、従業員持株会という制度が導入されていますが、こちらは給料からの天引きで自社株を購入するもので、税制優遇措置はありません。
「株主意識」が企業文化を変え、米国企業の強さの源泉になっている
ESOPの本質は金融制度としての側面だけではありません。従業員は「株主」になることで、会社への関わり方が根本的に変わるのです。
業務でムダなコストを省けば、その分、会社の利益は上がります。業務上で何か創意工夫すれば、それで会社の利益が上がるかもしれません。そして、会社の利益が上がれば、会社の株は上がり、その結果、自社株を持っている自分も豊かになります。
このように、働いている会社の株主に自分がなれば、モチベーションが高まるのです。この「株主意識」が米国企業の強さの源泉の1つだと私は考えています。
日本企業の従業員持株会は規模が小さく、経営への影響力はほぼない
ここで、日本企業と比較してみましょう。
先ほど述べた通り、日本の多くの上場企業には従業員持株会があります。しかし、従業員持株会はあっても、その規模は小さく、経営への影響力はほぼありません。
日本企業の従業員は「会社のために働く人」であり、「会社のオーナー」ではないのです。この差は、長期的な企業価値の形成に大きな影響を与えていると考えます。
PBR1倍割れ:「開かずの箱」のナゾ
日本株式市場の特徴として、長年にわたってPBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る企業が大量に存在していることが挙げられます。PBRとは、会社を解散したときに手元に残る純資産に対して、株価がどれだけ評価されているかを示す指標です。
[参考記事]
●米国企業と比べ日本企業はガバナンスに問題あり! 東証がいくら「PBR1倍割れ改善」を要請しても今のままならうまくいかない!
PBR1倍割れとは「今すぐ会社を清算して資産を株主に分配すれば、今の株価で株を買っている株主はみんな儲かってしまう」状態です。つまり、会社が今後も事業を続けていくよりも、今すぐ清算してしまった方がいいというぐらい、低水準の株価がついたままになっている状態なのです。
私はこれを「開かずの箱」と呼んでいます。
その箱は安く売られています。箱の中に価値あるものが入っているのにです。しかし、経営陣に箱を開ける気がなければ、箱の価格は安いままです。日本企業のこのような経営姿勢は、長期に渡って株主価値を棄損してきました。
東京証券取引所は近年、PBR1倍割れ企業への改善要求を強化しています。
これは単なるルール変更ではなく、日本の企業文化そのものを変える試みです。テリーのような話が日本でも当たり前になる日は来るでしょうか。それが日本株式市場の本質的な変化を測るバロメーターになると私は思っています。
従業員が「株主」として会社を見る文化こそが、米国企業の長期的な競争力を支えています。PBR1倍割れは、この文化の欠如を示すシグナルです。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガ「米国株&世界の株に投資しよう!」を配信中。著書『台湾系アメリカ人が教える 米国株で一生安心のお金をつくる方法!』発売中。
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