2019年2月に経営ポリシーが大きく変化
★★★☆☆ (5段階中3 5が最高評価)
今回は、創業者の引字氏が6月に完全引退したシェアリングテクノロジーを取り上げます。
実は同社は2019年2月に代表が二人になった時にすでに経営ポリシーは大きく変えていたのです。
事実、2017年にリリースされた中期計画は、知り合いの同社社員によれば、社内ではもはや「亡霊」扱いだそうです。もう、ないものとされているそうです。IRにも確認しましたが、「経営者が変わりビジネスモデルが全く変わりましたからね」ということでした。
経営者が変わったのですから経営計画は見直し。当たり前といえば当たり前です。
ただし、個人投資家の中には、まだこのことを知らない人がいるかもしれません。
このコラムを読んで知っておいてください。
中期計画では2020年9月には経常利益17億円とありますが、この計画は達成できるどころか半分の半分ぐらいになりそうです。これは私が常識的に考えた予想です。
上場企業では珍しい完全なビジネスモデルの転換
これまでは投資事業など、本業以外のものも次々と手がけ、「ありとあらゆるビジネスチャンスを全てモノにするぞ」という会社でした。マラソンという競技で100メートル走を422回連続でダッシュするぞ、みんな、ついてこれるかな? という意気込みの会社でした。当時のビジネスモデルは「儲かりそうなものならなんでもやる!」でした。実際、想定された増収ペースは年々倍増を目指すようなペースでした。
ところが2019年7月に再度訪問した時には、まるっきり違う会社になっていたのです! こういうことは上場企業では滅多にないのです。同社はマラソンを走るには、まずは体力をつけてから持久走をしなければならないことに初めて気がついたのです。
当たり前のことですが、本業とは何かを定め、そこに経営資源を投入して長期戦で頑張ることにしたのです。
これは非常に、非常に、非常に正しい経営判断です。ついに同社は経営を正しいフォームで走り始めたのです。ただし、正しいフォームで走り始めたからといって勝負に勝てるほどビジネスは甘くありません。他社はどこも正しいフォームで走っている会社ばかりですから。
困っている個人に業者を紹介するサービス
同社のビジネスモデルを説明します。とにかく、困っている個人を相手にします。
-蜂の巣が玄関にできてしまって困った
-水がダダ漏れで家が水浸しで困った
-鍵をなくして家に入れないので困った
-シロアリを見つけてしまったがどうしたらよいのだろう。困った
このようなお困りごとがあると、それらを解決するため、同社のコールセンターの社員が業者を紹介します。そして成約すれば業者から成功報酬をもらうというモデルです。顧客が払うバリューの2割から4割が同社の取り分です。大きいですか? そんなことは全くないのです。紹介された業者は自身で営業しなくてよいのですから。
大きなコストは二つです。約定を増やすためには顧客の電話に丁寧に対応する必要がありますので、売上が増えるごとにコールセンターの人員が増加するというビジネスです。同社ではコールセンターの社員の人件費を変動費としてみています。
人員コストよりも大きなコストはグーグルへ払う広告費用です。「水漏れ」や「鍵」などキーワードにお金を払い検索上位に来るようにします。同社のコールセンターに顧客を誘導するためです。これが非常に高いのです。なんと売上の4割にのぼります。
大まかに上記の2つの変動費だけで売上の6割を超えてしまうのでビジネス的にはあまり儲かりません。限界利益率が30-40%ということは、正直、医療機器の卸売よりも限界利益率が低いということになります。
こういう場合、株主ではなくグーグルのために働いている会社なんだと投資家は見なします。ビジネスモデル構造上の致命的欠陥ですので、このままでは投資対象にはなりません。
課題はこの多額の変動費用をどうするかということです。同社は劇的に変動費を下げる施作に取り組んでいるところです。もし、これがうまくいけば、グーグルの「搾取」から脱却できるかもしれません。
「グーグルの搾取」からの脱却を目指す
顧客が「水漏れ」と検索するとこれはグーグルのリスティング広告に引っかかり同社のサイトにたどり着くのですが、この流れは変わりつつあります。現状、95%が検索からの送客になっています。ところが5%の部分は同社の「生活110番」というサイトからの送客です。この「生活110番」の認知度が上がり、日本国民が、困りごとがあれば「生活110番だよね」というような展開になると、変動費の40%は不要になります。利益率は格段に向上するのです。
それでは「生活110番」のポータルサイトの認知度をどう高めていくのでしょうか。宣伝するしかありません。みなさまも是非、困ったときは「生活110番」であることを知ってください。便利なサイトであり、為になる記事もたくさんあります。
同社では百人規模で困りごとに関するコラムをライターが書いています。そしてライターが書く困りごとコラムは同社のコールセンターを紹介しているのです。記事は毎日蓄積される一方です。困りごとの記事がどんどん蓄積されることで生活110番の認知度はどんどん上がっていくでしょう。記事からの誘導が功を奏し、短期間で同社のウエブサイトを訪れる人が10倍以上になっています。会社はこの戦略に自信を深めています。
売上3割増は達成可能も利益率が低い
今期2019年9月はこの本業が30-40億円の売上ですが、利益はゼロです。来期以降、トップラインは3割で伸ばしていくことが経営の目標です。同社によれば3割ぐらいのトップライン成長はこれまでの倍々のペースよりもかなり楽であり、十分に達成可能であるといいます。
ただし、現状のように限界利益率が30-40%では投資妙味はありません。3年後に限界利益率が40-50%になり、最終的には50%を超える時期が来ると判断できれば投資判断は「買い」になります。
今期2019年9月は投資事業の出口が大きなものが一件あります。ですが来期以降は投資事業は撤退の方向です。来期2020年9月は大きな減益になるでしょう。本業がまだ利益がなかなか出ない状況ですので。
ただし、同社ではまだ費用削減の余地があるとのことで来期の本業はある程度の利益となるようです。
今走っている中期計画はもう社内の誰も気にしていませんし、実質、大幅な方針転換があった2月の時点で消えています。新しい中期計画を本決算後に発表する模様。
投資リスクは、来期が大幅な減益見通しであることです。株価がこの2年で大きく下がっていることから、来期減益は株価に織り込み済みではないでしょうか。
(DFR投資助言者 山本潤)
この連載は、10年で10倍を目指す個人のための資産運用メルマガ『山本潤の超成長株投資の真髄』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、週2回のメルマガの他、無料期間終了後には会員専用ページでさらに詳しい銘柄分析や、資産10倍を目指すポートフォリオの提案と売買アドバイスもご覧いただけます。