PER6倍、PBR0.7倍など一見割安に見えるが、分析すると割安感はなし
★★★☆☆ (5段階中3 5が最高評価)
創業家の同意を得られなかった出光と昭和シェルの統合。色々ありました。今回は、ようやく走り出した出光昭和シェルこと出光興産株式会社を取り上げます。
出光昭和シェル(5019)の普通株式は、なんと配当利回り予想5%を超えているのです! PERは非常に低い6倍! PBRは0.7倍!で評価されています。
これってどう考えても割安ですね...、そう判断する方々が多数いらっしゃると思われます...。
意外ですが、理論株価を計算すると特に割安ではありません。適正株価なのです。
過去の益利回りの平均は3%です。赤字の純損失と黒字の純利益とを通算して考えた時の過去平均PERはつまり33倍。
過去の赤字を考慮すれば現在の予想PER6倍は額面通り受け取れません。同社の場合、期間利益のコアである仕入れとガソリンスタンドへの売価との差額、いわゆる粗利が薄いものですから、備蓄在庫の評価益や評価損の方が大きいのです。大きな在庫評価損益が出る理由は、市場の原油価格や為替の変動があるからです。利益が出ても評価できない、損が出てもキャッシュアウトとは無関係ということで、その変動を除外して評価すべきという意見があるぐらいです。
現預金が多くなければPBRは機能しない
PBRについて。PBR1倍未満はいわゆる解散価値を下回るので割安とされます。しかし、出光昭和シェルの場合、財務内容が脆弱であるため、PBR指標にそもそも大きな意義が見出せません。
財務が脆弱であれば、資産の処理コストや人員の整理コストに膨大な追加費用がかかります。
とても事業清算して解散価値が残る財務内容ではないのです。というのも、固定資産が大きく現預金が非常に少ないので、資産処分のコストを考えるとPBRは単なる「絵に描いた餅」の解散価値となってしまうのです。
もちろん、仮に同社の資産が100%現預金であれば割安となります。ところが同社の現預金は総資産のわずか3-4%を占めるに過ぎません。
個人投資家の皆様は、 闇雲にPBRを見て投資判断をしてしまう悪癖があるようですが、出光のような脆弱な財務内容の場合には、PBRを参考にしないようにしてもらいたいのです。
赤字になる可能性のある企業のPERは信用できない
PERという指標に戻ります。これは収益のブレる企業にとっては悪質な指標です。何故ならば、黒字と思ったら赤字になるからです。そんな企業でPERを使うことに意味があるわけがありません。
特に6倍とか5倍の低いPERは「クロクロ詐欺」を誘発します。「クロクロ詐欺」というのは、黒字と思ったら赤字だった。後の祭り。低PER投資は赤字企業と知らずに多くが騙される投資の手法です。当然、投資の素人がよくひっかります。
確かに見通しは黒字でPERは一見低いのですが、多くの場合に翌年に赤字に転落します。その時、PERは跡形もなく消滅してしまうのです。クロと思っていたのがアカ。株価は見事に下がります。
出光興産は過去5年のうち、2年が営業赤字です。赤字になる可能性が相応に高い企業にそもそもPERを使ってはいけません。
指標は適正に使ってこそ、有用です。指標に騙されない鉄則は以下の二つです。
1) 赤字になりそうな企業はPERを使うな。
2) キャッシュがない企業はPBRを使うな。
この投資の常識を知らない人が多いのです。
私は嘆いております。PERとかPBRとかで株価を判断してはいけないと私はこの20年間言い続けています。しかし、口を酸っぱくして丁寧に説明しても理解してくれない人が多いのです。PERやPBRはブレーキのない車のような指標です。
PERやPBRはリスクを全く織り込むことができない単なる比率なのです。ブレーキとして資本コストという立派なものがあるのです。資本コストを使えば安全運転ができます。
配当利回りは比較的信用できる
出光の唯一の救いは配当の安定度です。損失が出るとしても在庫評価損ですのでキャッシュフローは痛みません。また、出光興産の経営者が配当に対する思いがしっかりしているので、配当は利益ほどブレていません。
これは一般論としても正しく、ブレが最も大きいのは利益。次に、ブレが小さいのは配当と株価です。利益が最も不安定で、株価や配当の方が利益より安定する現象は、普遍的に正しいのです。
ですから、普遍論、一般論として、配当利回りはPERやPBRよりも信頼ができる指標となっています。
次回の赤字の時に減配とならずに、配当維持で踏みとどまれるか。それが投資においては勝負の分かれ目となります。
さて、出光の資本コストはおよそ11%程度ではないかと想定しております。株価や配当のブレを見てそれなりに判断するとそうなります。DDM(割引配当モデル)で評価するとほぼフェアバリューですので、売り判断にはなりませんが、買いとは言えません。資本コストとは、配当のブレの大きさを表す指標です。ビジネスの特徴から産出することもできますし、配当の時系列データから推定することもできます。
同社の場合、配当の永久成長率を6%として、ようやくフェアバリューです。
それでは全国民に問います。
出光興産の永久成長率が6%であると信じることができるでしょうか??
収益率の低さを回転率の高さで補うビジネスモデル
出光興産などの石油元売のよいところを紹介します。どんな企業にも悪いところとよいところがあります。
同社の素晴らしいところは資産回転率が高いところです。悪い財務内容の元凶は低い利益率なのですが、それを素晴らしく高い回転率が補っているのです。
利益率が異常に低いことのトレードオフとして資産効率はよいのです。例えば、デイトレーダーが薄利多売で毎日トレードするようなビジネスを出光も行なっています。デイトレーダーは儲かるとは限りませんが、出光はビジネスサイクルを儲かる設定にしています。それは仕入れ値にコストを上乗せして売るということができるからです。デイトレにはできませんね。
同社の在庫回転率は高いのですが、一回転しても利益率が低いので薄利を積み上げているのです。
これがもっと回転率が上げられるような余力があればPER/PBRなどのバリューエションはもう少し高く設定できます。すでにギリギリの高い設備稼働率と人員の稼働率です。目一杯全力のアクセルでこの利益なのです。余力の小ささがバリュー向上のボトルネックなのです。皮肉なものです。
マクロ要因以外の業績のアップサイドがない銘柄のバリュエーションはどうしても低くなります。業績は残念ながら企業努力よりも環境に左右されてしまうのです。台風の中でバトミントンのラリーを続けようとしても、悲しい哉、続かないのです。投資家は、まずは、台風がこないビジネス環境を選びますので、どうしても評価は低くなってしまいます。
ガソリンスタンドの経営は厳しく、プラグインハイブリッドから EVとなればスタンドを訪れる回数は減るため、系列のスタンドの淘汰は進むでしょう。
統合に統合を繰り返し他ので、残存者利益のステージに入りますので、生き延びることは十分に可能です。ただし極度に効率化を成し遂げた経営であることが逆にアップサイドを限定し、将来展望を閉じさせているのです。
-自力で苦境を打開できるか? プライドある社員はいるか?-
先週厳しいことを言いました(記事「パナソニック(6752)の株価は長期で資本を毀損し続け低迷。あまりにも低い利益率を挽回するためには事業モデルを抜本的に変えるべき!」参照)が、パナソニックはそれでも27万人の社員がいます。開発したものを直販でグローバルで勝負できます。プライドある社員が一定数いれば企業というものは突破口が見出せるのです。しかし、出光は、設備はあり、傘下のスタンド事業者がいまずが、本体社員が9500人規模です。出光は6-7兆円の売上がありますが、売上に比して少ない人員です。
ガソリンスタンドを有効活用するFC事業者たちを頼りにしなければなりません。自らが先頭に立って新規を直販する新分野の開拓のマンパワーが足りてはいないのです。
現状、ガソリン需給を改善するための提携や合併といった競争緩和政策が取られ、実際に競争緩和の状態が生まれつつあることは好ましい変化ですが、それ以外にとるべき道があまりないのです。安売りをやめて、利益率を向上する期待を数年前から市場参加者は持っていたのですが、やや期待先行の感がありました。今後、実際に利益率の改善で示すことができれば株価はとても割安になります。利益率が改善すればそれはすなわち配当成長率が高まることを意味するからです。同時に利益率が高めれば資本コストまで下がるからです。
トヨタとの開発に期待
楽しみなのはトヨタとの全固体電池の硫化水素系の個体電解質の開発です。ここに活路を見出すことはできるでしょう。実際、有機EL材料では高いシェアを誇ります。規模は小さいですがかなりの高収益を実現しています。エアコン向け冷媒の潤滑油事業もユニークな存在です。
(DFR投資助言者 山本潤)
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