「世界の三浦のボイラー」で7年で株価5倍
三浦工業IRの担当者への取材において、貫流ボイラーの世界シェアトップとなった原動力をヒヤリング。その際、ガスボイラーの炉のない商品SQの開発に成功し、1990年に発売となったSQ-800シリーズ、あるいは、翌年のSQ-2000という商品によってシェアを獲得していった経緯を知ることになりました。
株価はSQ発売後、30年で30倍。この7年で株価5倍です。環境に優しい同社のボイラーが中国市場で急速に普及しているからです。
シェアトップの陰に技術者による特許の積み上げがあった
IRの取材によって、当時の開発責任者である技術者と話をすることができました。三浦正敏さんです。彼のバーナー開発がSQ開発の契機となったことを知りました。キーパーソンは三浦正敏さんであることがわかれば特許庁のHPから検索をすると彼の特許が多数あることがわかります。
正敏さんの最初の特許は、1991年に出願された。「角型多管式貫流ボイラ」です。ボイラーにおいて「水管が互い違いに配列されるもの」という技術要素分野のF22B 21/10が筆頭IPCです。IPCとは国際特許分類のこと。
ボイラーの水を蒸発されるための水管群の配置形状を権利としたもので、強い排他性を持つことがわかります。周辺特許を積み上げることで、現在も参入を許さない障壁を保っています。
参入障壁として特許の持つ排他性は重大です。競合する特許がないことから、F22B 21/10蒸気ボイラーにおける[水管の配置]は独占的な権利でなのです。
特許調査の流れは、
1)商品の特定
2) キーパーソンの特定
3) J-PlatPadの検索(基本特許か?)
4) IPC分類検索(競合他社いないか?)
特許を見るときのポイントは、強い特許か弱い特許かを見極めることです。弱い特許とは製造工程の工夫にすぎないもの。競合他社の工場を観察できない以上、排他性に乏しいのです。
一方で、強い特許とは商品の形状や基本成分や部品の配置です。ライバルの商品を見れば、容易に判別できるため強力な排他性を有するのです。
三浦工業の炉がないボイラーはガスバーナーを水管の前面に置く配置にあり、非常に強い特許です。バーナーの近くの水管と遠くの水管で蒸発具合が違うため、近いところの隙間を多くしています。CO2対策になります。NOxが出ないのは、低温で燃やすいからです。遠方の水管には熱交換のためのフィンを設置するなどして、効率を高めている工夫です。このような水管の配置を実現するためには、バーナーの炎の安定性が不可避です。バーナーにも差別化要因があるのですが、特許の請求では基本特許にするために水管の配置や管の形状にもこだわったのでしょう。
水管の配置に関わるF22B21/04, 35/00に関する登録特許数では、三浦が競合サムソン、ヒラカワ、日本サーモエナジーなどに対して、知財力で圧倒しています。それ以前の特許はJ-PlatPatの[分類検索]でわかる。明治以降の特許がデータベースで確認できます。
平面バーナーに関しても、三浦の独断場でした。近年の特許登録数で競合を圧倒しているので。わたしは、1997年以前の状況に注目しました。バーナーに関する特許2508919(1996/4/16登録)に注目したのです。ひとつは、妹尾泰利さんという発明者は、九州大学の工学部で流体の権威を呼ばれた研究者であったこと。
退官後は、創業者の三浦保さん(1928年12月13日生- 1996年9月9日没)と炉のないボイラの開発に携わっていた人なのです。
世の中にないものを創造することで成功する
特許250819はコルゲート上の多孔板に隙間を設けることで炎が安定することを権利化した配置特許であり、平面型のガスバーナーにとっての強力な権利。
バーナーを平面化し、水管群に直接火を当てることで低温となりNOxの発生を防ぐ。また炉が不要となり、角型の配置が可能になり、省スペースを実現しました。小型ボイラは管理者が不要だから、それを並列にすれば、顧客のランニングコストは省ける。多孔板全面に混合ガスで燃やすと炎は暴れるが、区画を区切ることで炎を制御できることを発見したのです。
インタビューにより、それが偶然の発見であったことが、当時の開発者、三浦正敏氏さん(当時ボイラー開発部長)からヒヤリングすることができました。安定しない炎に困り果てていた正敏さんはある日、なぜか炎が安定していることに気がついた。熱でコルゲート構造の多孔が完全に焼き切れてしまっていて、バーナーの内部の一部が溶けて空洞になっていたのです。
三浦正敏さんは実験は「またしても失敗した...」と流体の大家の瀬尾博士に報告したところ、妹尾博士は、「いや、炎が安定したということは、何か重要なヒントがあるにちがいないから、意図的な空洞をあけることで実験を続けるように」と助言したのです。やはり、偉い人は違うのですね。あそこで実験をやめていれば、SQシリーズはできなかったでしょう。熱で溶けてしまい穴を開けたポカが、逆に、大発見のヒントとなったのです!
まだないものを創造しよう
ノーベル賞もブルーオーシャン創造も、誰もやらないこと、誰もできるとは思っていないこと、惜しいところまでもいかないだろうと第三者が批評します。
皆様は、PER30倍の株価は単に高いと考えていませんか。指標的に割安な銘柄を探すことや投資の売買タイミングなどに多大な時間を費やすことが投資だと思っていませんか。
今日も企業の開発の現場では、セレンディピティ(偶然の出会いによって幸運をつかみとること)を求め、それを探しつつあるチームが存在します。商品力といってしまえばそれまでですが、排他的な参入障壁は長期で株価を30倍にするのです。
(DFR投資助言者 山本潤)
三浦工業の投資判断、目標株価はメルマガ会員ページで公表しています。
この連載は、10年で資産10倍を目指す個人のための資産運用メルマガ『山本潤の超成長株投資の真髄』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、週2回のメルマガの他、無料期間終了後には会員専用ページでさらに詳しい銘柄分析や、資産10倍を目指すポートフォリオの提案と売買アドバイスもご覧いただけます。