厳しい業績見通しで、年初来安値圏に沈むJR東日本(9020)の株価
コロナショックで大きく影響を受けた業種の一つが鉄道です。JR東日本(9020)の株価は年初来安値を更新するなどさえない展開が続いています。今期の決算を9月18日に見直しましたが、非常に厳しい内容でした。売上高は前期と比べて約1兆円の減収、営業利益は約9000億円減少し、営業損失は約5000億円の予想です。純損失は約4200億円で、1株利益(EPS)はマイナス1100円を見込みます。1株純資産(BPS)は配当100円と合わせて1200円減少し、前期末の8300円から今期は7000円程度まで減少する見込みです。
売上が下がれば、変動費も下がる製造業などと比べて、鉄道は営業を継続する以上そこまで費用を減らせません。電車を走らせる限り、動力費、修繕費、人件費などはほぼ減らず、実際、今期の限界利益率(利益の減少幅と売上の減少幅との比率)は90%になります。
来期は5000億円程度の増収か
重要なのは今後です。足元は明るい兆しが見えます。乗客が回復しています。9月の月次は見かけは悪いものの、定期が消費税の駆け込みで前年は1.6倍になっていることを考えると足元の定期収入は通常期の75%まで戻していると思います。近距離も70%を超えるまで戻しています。懸案の長距離収入も現在はGoToトラベルで好転しています。
来期の業績は大きく改善し、5000億円程度の増収になると見ています。定期券の約1.3倍の正規運賃で乗る乗客比率が上昇し、平均単価が上がることも好材料です。また、終電を早め、始発を遅らせることで夜間修繕工事の効率を上げるなどといった1500億円超のコスト削減効果も期待でき、来期の営業利益は2000億円程度まで回復すると予想します。
コロナ前の水準に戻るために立ちはだかる2つの壁
ただ、コロナ前の水準に戻す道のりは厳しいです。主に二つの要因があります。一つがインバウンド需要がさほど回復しないからです。中国や韓国からの入国を再開すればそろりと回復し、東京五輪も開催されれば改善するでしょうが、コロナ前の水準に戻るにはかなりの時間が必要でしょう。
二つ目がテレワークがニューノーマルになることです。テレワークの普及は、大都市圏を中心に通勤ラッシュを緩和させ、企業の生産性が向上すると言われています。ただし、各種の学術研究から、週に2日程度のテレワークは向上に寄与するものの、それ以上多いと企業への帰属意識低下などを招いて、生産性は低下すると言われています。米国のIT大手グーグルのように出社を奨励する企業も増えるでしょう。さらに半数以上がテレワーク に向かない業種や職種であると想定すると、テレワークによる鉄道収入の落ち込みは2/5×1/2×1/2=1/10でマイナス10%程度と見ていますが、同社はそれよりも厳しいマイナス15%が永続すると見ています。出張減による長距離収入の落ち込みも頭の痛い問題です。
長期では、ESGに配慮した魅力的な新事業が期待
長期ではESGに配慮した魅力的な新事業が期待できます。例えば、多様な街づくり。郊外駅を開発し、日本において少ない良質な賃貸住宅を提供する事業。駅上にマンションを建設し、遠隔介護や遠隔医療技術などと組み合わせて、高齢者向けのワンランク上の住まいも開発できるでしょう。
CO2を全く出さない水素電車も増えるでしょう。HYBARIプロジェクトと呼ばれ、トヨタ自動車が燃料電池、日立製作所が車両システムをサポートして推進しています。また、電力付帯設備の更新に合わせて水素に順次切り替えることで、超長期では主なコスト要因である修繕費を半減でき、保守費用を激減できるでしょう。
駅ビルや列車に5Gを張り巡らせることによる様々な新ビジネスも期待できます。例えば、IoTを駆使して列車や駅の空きスペースを把握し、映画鑑賞やライブなど様々なイベントスペースとして活用できるでしょう。新幹線で生鮮品を北海道から届ける宅配サービスの提供や、EC強化によって駅ナカの魅力もパワーアップするでしょう。
業績は着実に回復し、2年後の株価は現状の1.5倍は期待できる
2024年頃には、2019年3月期の利益水準に並ぶと予想します。今期4000億円を超える赤字を出しながら、配当100円を出す決断を経営者はしました。また、これほどの赤字でも人員整理を発表していません。説明会資料の冒頭には「ポストコロナの不可逆的な構造変化」と記されていました。収益回復は長い道のりになると、経営者は腹を括ったのです。また今回を好機ととらえ、より社会に求められるESG経営を推し進めます。株主も腹を括る番です。自信を持って保有を継続してもらいたいと思います。上記に書いた様々な理由から利益は着実に回復し、2年後の株価は現状の1.5倍にはなるでしょう。
(DFR投資助言者 山本潤)
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