日本の輸出入の多くを担う海上輸送は大量のCO2を排出する
ESGをテーマに未来の成長銘柄を考える連載の5回目(前回のコラムはこちら)では、船舶航行時の環境負荷削減について考えたいと思います。ESGとは、Eはエンバイロンメント(環境)、Sはソーシャル(社会)、Gはガバナンス(企業統治)です。
輸入物資の輸送の99%を船舶が担うなど、日本にとって海上輸送はなくてはならない存在です。しかし、船舶もまた内燃機関の自動車と同様に、航行時に大量のCO2を排出します。船舶は航行時の動力に加えて、船内で使う電気もディーゼルエンジン発電で賄うなど環境負荷削減で多くの課題があります。
現在のロードマップでは、2030年までに海上輸送時に排出されるCO2を4割削減することが義務付けられています。この目標は、2018年に国連のIMO(国際海事機関)が最終的に温室効果ガスをゼロにするという目標を達成するために設定されたものです。
この目標を達成するためには、海運業者は保有する船舶を「大改造」する必要があります。例えば、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)と同じような考え方で、船舶の断熱性能を高めたり、燃料をLNGに変更したり、低燃費の航行をしたりするなどの工夫が必要でしょう。
風力発電の本命は、風車ではなく、凧(たこ)?
船舶航行時の環境負荷削減対策の一環として期待されているのが「凧(たこ)」を用いた洋上風力発電です。2020年8月19日、川崎汽船(9107)とフランスのAirseas SAS社は、自動カイトシステム「Seawing」の基本設計に関する基本承認を取得したことを発表しました。カイトとは逆三角形の西洋凧(だこ)を意味し、このシステムでは簡単なスイッチ操作によって凧の展開や格納を自動的に行えます。
川崎汽船は、このシステムを活用して船舶航行時の環境負荷削減を推進し、今年末には大型バルキャリアに搭載する計画です。このシステムの導入によって燃料使用量とCO2排出量を20%削減でき、さらに燃料をLNGに変更することでCO2排出量を30%削減できることが期待されています。
凧による風力発電が合理的な4つの理由
凧を活用した洋上風力発電と聞くと非効率な印象を持つかもしれませんが、極めて合理的な発電システムと言えます。理由は主に3つあります。
1つ目は、強風を利用できるため、発電効率が高いことです。凧による発電効率は、大型風車と比べて2倍高いと言われています。理由は、凧は風車より高く上がるからです。自然の摂理で高度が高いほど風速は強くなります。発電量は風速の3乗に比例するため、凧による風力発電の方が高効率なのは明らかでしょう。
2つ目は、乱気流が生じにくく、風を無駄なく活用できることです。風車の弱点として風向きの変化に対して機動的に対応しにくいため、乱気流が生じやすいことがあります。一方、凧は風向きを機敏に察知して、最適な向きを取りやすいため効率的な発電が可能です。乱気流が発生して風車を動かせない強風下であっても、風の流れが安定的な高度にある凧の場合は発電できる場合が多いのです。
3つ目は製造コストです。風車による風力発電は環境アセスメントや大型の土台や支柱などが必要で材料費や工事費が割高になりがちなのに対し、凧による洋上風力発電は凧とロープがあればできるため経済的です。
凧を活用した洋上風力発電の仕組みは単純です。凧にロープを張り、風が強い方向に向きを変えることで、凧は風を受けて上がろうとします。その次の瞬間、風が凧の向きを変えてロープが一瞬緩みます。その瞬間にAIがロープを巻き取れと指令を出す。これを交互に繰り返すことでロープが行ったり来たりします。その際に発生する運動エネルギーでDCモータを発電します。起電力です。
日本電産(6594)、ウェザーニュース(4825)など関連銘柄多数
凧による洋上風力発電の関連銘柄の筆頭は効率的なDCモータを作る日本電産(6594)でしょう。安価な小型のブラシモータでも十分となるとマブチモータ(6592)なども該当します。さらにAIやIoTなどの技術も必要ですから、半導体やセンサーを手掛ける企業も関連します。AIを活用するために必要な気象データを保有するウェザーニュース(4825)なども楽しみな存在です。
この自動カイトシステムは夜間も使えますし、リチウムイオン蓄電池と組み合わせて使うとより効果的です。走る場所を選ぶ必要がありますが、電動トラックによる低速輸送など陸上輸送にも応用可能です。
凧による洋上風力発電の技術が実用化されたのはAIのおかげだと思います。自動制御が前提なので、IoTを通じて洋上の風力や温度、海流などの膨大なデータを取得し、AIに学習させる必要があります。ウェザーニュースなどのデータサプライヤーは随分と前から燃費節約のためのナビゲーションシステムを船舶会社などに提供してきました。
こうした技術の積み重ねで、洋上の凧発電も遠隔からクラウドで制御することが可能になったのです。制御装置や通信費用が安価になったり、大量のデータ処理が可能になったりするなど様々な条件が整ったことで実用化が目前に迫っています。
小風力や小水力発電が至るところで行われ、電源は地域分散へ
グーグルなどが出資する、空中風力発電機を搭載した「凧」を飛ばすベンチャーの米マカニ・パワー社に対して、2019年にロイヤル・ダッチ・シェルも出資しました。飛行船は軽いために凧のように浮かせることができます。(Makaniはハワイ語で「風」を意味する)。個人的には、同社の発想は少し欲張りすぎていると感じており、凧の格納手法で一日の長があるSeawingに軍配が上がると思います。
ソフトバンク(9984)や三菱重工(7011)など出資しているのが、洞窟型のおばけ風船を上空600メートルに上げてロープでつなぐ米ベンチャーのアルタエロス・エナジーズです。空洞の風船の内部に風車を入れ回転させる仕組みで、大量のヘリウムガスを入れて飛ばします。
岡山大学発ベンチャー企業「ハイドロビーナス」社が手がける取り組みもユニークです。自動運転の「ヨット」の水面下にタービンを設置して水力発電を行う仕組みです。ヨットに蓄電池を搭載し、電池が満杯になったら勝手に戻ってくるように海上の一定領域内を自立走行します。通常のヨットはマストと帆を使いますが、凧しか使いません。浮体に凧をつないでAI制御して浮体を走らせる仕組みです。自然エネルギーは至る所にあるため、それらを丹念に拾うことが地域分散電源の考え方です。至る所に小型の風力や水力が標準搭載されるようになるでしょう。
(DFR投資助言者 山本潤)
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