ESGランキングの世界TOP100に日本企業は5社がランクイン
ESG投資の連載の4回目(前回のコラムはこちら)です。ESGのEはエンバイロンメント(環境)、Sはソーシャル(社会)、Gはガバナンス(企業統治)です。今回はGを取り上げます。
ESG投資には2種類の方法があります。1つはESG評価が絶対的に高い企業に投資することです。例えば、公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)はESGインデックスのウエイトを毎年のように引き上げています。
個別銘柄では、例えば、カナダのコーポレートナイツ社が発表する持続可能性が高い100社「2021 Global 100 Most Sustainable Corporation in the World index」の中に日本企業は5社ランクインしており、これらの企業に投資するのはESG投資の王道と言えるでしょう。
日本企業で最上位にランクインしているのが、16位のエーザイ(4523)です。同社は「ESG EBIT」という指標を社内で開発し、研究費や営業の人件費を将来の投資として評価すべきだという考えを提唱しています。また、ゼロエネルギー住宅(ZEH)だけを販売する姿勢を明確にしている積水化学(4204)も51位にランクインしました。そのほかには、検査機器メーカーのシスメックス(6869)が32位、複合機メーカーのコニカミノルタ(4902)が41位、医薬品メーカーの武田薬品工業(4502)が71位にランクインしました。
今年はランクインしませんでしたが、社内のCO2排出レートを1トン10万円に設定してカーボンニュートラルを達成する仕組みを構築中のアステラス製薬(4503)は来年にランクインすると予想しています。一方、昨年までランクインしていたトヨタ自動車(7203)は圏外に落ちました。ハイブリッドで内燃機関を温存しようとしていると批判されたからです。
ガバナンスで世界から遅れを取る日本企業
TOP100社のうち、欧州企業が46社と圧倒し、次いで米国企業が33社を占めます。中国企業も17社が選ばれています。日本企業のランクインが少ない1つの理由として、環境技術や環境負荷削減の取り組みへの評価が高い一方、ガバナンスの評価が低いことがあります。その1つがダイバーシティ(多様性)の欠如でしょうか。以前より改善されているとは言え、いまだに経営陣が日本人男性だけで占める日本企業は少なくありません。
ダイバーシティが欠如している企業は、女性蔑視発言で辞任に追い込まれた元東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長の森喜朗氏のように健全な意思決定や組織運営ができなくなります。蔑視と言わないまでも、女性の働き方や登用の仕方について偏見を持つ日本企業は今も存在します。そうでなければ、日本企業がこれだけ女性従業員比率が低いのはおかしく、今後も改善されなければ世界の投資家から見捨てられるでしょう。
日本企業のガバナンス改革は、男性の意識改革にかかっている
ガバナンス改革の根本は、男性の意識改革にかかっています。日本の働く男性に対して「家事や育児は男性の仕事です」と言われて「えっ?」と驚く方は多いと思います。家事や育児をする男性の割合は以前より増えたものの、「女性の仕事を手伝う」という意識が根強く、自分の仕事とは思っていません。家事を分担すべきという考えが中心の世界では「手伝ってあげている」という発想自体が「寝言」でしょう。
私事で恐縮ですが、我が家では洗濯や皿洗いなどの家事を、私や子供も同様にします。理由は一緒に暮らしているからです。例えば、子供が洗濯物を干し始めると、次々に兄弟や妻や私もいつの間にか集って手伝います。皆でワイワイ話しながらやると、すぐに終わってしまう。妻が料理を作っていると、子供が寄り添い、他愛ない話をしながら一緒に野菜をみじん切りにしている。そうした風景を見て、いい家族だと思います。親として、そういう家庭になってよかったと思うのです。
世間には横暴な夫が存在し、在宅勤務が増えてDVも増えていると聞きます。どうして妻に家事を押し付け、たまに食事を作った程度で「手伝ってやった」と威張る人がいるのでしょうか。そういう男性はガバナンスを語る資格はありません。ESGの原則は「誰一人置き去りにしない」です。妻や子供を置き去りにしてはダメなのです。家庭も統治できずに、職場も統治できるはずがありません。
職場でも、自らの職責や仕事で立てた手柄など小さなものであり、困っている人がいたら助けるのは当たり前です。手柄なんて全部、他人のものでよいのです。困っている同僚がいれば皆が陰で支える。こっそり精一杯手伝う。でも他言は無用。その人の手柄にしてあげる。それが一流のガバナンスです。
日本企業はガバナンスを強化するだけで大きく改善する
日本人男性ばかりがガバナンスしている日本株に投資してはダメなのでしょうか? いや、必ずしもダメではないのが面白いところです。今ひどい企業が今後マシになるという変化をつかめるからです。EやSに着手する前に、改善の余地が大きいGの強化に取り組むべきだと思います。
ガバナンス改革には、投資家の外圧も重要です。私はある上場会社に対して女性幹部が少ないという指摘を役員に申し上げました。採用で10人に1人の割合しか女性を採用していない。女性は語学力やコミュニケーション能力に長けており、マネジメントにも適任です。女性取締役が3人以上になれば、会社全体に大きな化学変化が生じ、経営は必ず良い方向に変わります。
改善の余地が大きい日本企業には大きな変化が期待できます。女性役員が1人だった企業が半数になったら大きな変化です。グローバル化も然りで、海外担当役員は現地の人材に担わせるべきで、日本の経営陣にも外国人が当たり前のように加わるべきです。
ガバナンスの優劣は、企業トップの態度で決まる
ガバナンス改革は、経営トップの態度で決まります。トップが変われば変わるのです。ハイディ日高(7611)の神田正会長が何十年もパートで働いていた女性が知らないうちにやめていたことにショックを受けました。「何十年も貢献してくれた方が辞めたことも知らない私は経営者としてはダメだ」と反省したそうです。その思いがガバナンスです。なぜならば、そうした考えは経営陣で共有されて、次いで社員にも共有されて改革されるからです。お金では買えない大切なものは伝播するのです。
オービック(4684)の野田順弘会長は、社員が通勤する姿をこっそりと喫茶店の窓際の席に座ってチェックしていました。野田会長のすごい点は、社員全員の氏名はもちろん、略歴や家族構成なども知っているところです。元気がないと思えば、後でフォローをする。会社でばったりあったという形にして「いつも頑張っているね。最近はどう。なんでも話していいんだよ」と声をかける。そんな話を以前していたことがありました。
中央自動車工業(8117)の坂田信一郎社長は「オフィスの食堂で働いているパートの方も幸せにしなければならない」とおっしゃった。お客さんにはペコペコするのに、事務所の掃除や食堂で働くために派遣された年配の方々に対し、挨拶しなかったり、横柄な態度をとったりする。「それは人としておかしいと思ってきた。だから誰に対しても挨拶をする組織を作り上げた」
ガバナンス改革に魔法があるわけではなく、一人ひとりがGiveから始めることが重要だと思っています。経営者の仕事はGIVE&GIVEです。部長の仕事もGIVE&GIVEです。今を生きる我々の仕事は若い世代へのGIVE&GIVEです。ガバナンスのGはGiveのGでもあります。まずは一人一人がGIVEから始めることが大事だと思います。
他人に余計な期待をせず、自らやるべきことを淡々と行なう
改革といえば仰々しいですがコツは簡単です。「他者に期待しないこと」「他人にやってもらうことを期待せず自分でやればよいだけ」。現代のビジネスの多くには市場が介在します。マネタイズという20年前にはなかった言葉が氾濫するようになりました。昔は正義のヒーローは人命を救助するや否や名前も告げずに立ち去る。それが定番でした。人目に触れないところで他者を助ける。人類共通の美徳です。お天道様は見ている。我が国ではそう言いますね。
頑張ったことを即座に評価して欲しい。リアルタイムですぐに評価して欲しい。SNSの「いいね」や「既読」、上司や同僚からの評価、会社からの待遇は誰だって気になるものです。そこは私も否定しません。しかし、自分が頑張ったら、自身は頑張ったことを知っているだけで十分ではないでしょうか。どんなに頑張ろうが、自分が頑張りたいから頑張っているだけで、自身で褒めてあげれば十分です。他者の考えは変わりません。他者も忙しい。それぞれがすべきことをする。それで十分でしょう。意識の高い国家になれば次世代が希望を持つ。カーボンニュートラルを実現したこの国の未来を私はどうしても見てみたい。死ぬに死にきれない。ワクワクしながらその瞬間を待ち望んでいます。
(DFR投資助言者 山本潤)
この連載は、10年で資産10倍を目指す個人のための資産運用メルマガ『山本潤の超成長株投資の真髄』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、週2回のメルマガの他、無料期間終了後には会員専用ページでさらに詳しい銘柄分析や、資産10倍を目指すポートフォリオの提案と売買アドバイスもご覧いただけます。