世界的な需要回復で業績拡大が期待できる日本の製造業
4月末に行われた決算発表の中から、今後、重要なトレンドになりそうな動向を紹介しましょう。
ミニショベルの世界的メーカーである竹内製作所(6432)は、2021年3月期の4Qの受注が急回復し、2021年の下半期の受注高は838億円となりました。上半期の418億円と比べて、約倍増しています。
同社の竹内明雄会長は、業績が急回復した理由と今後の動向について、次のように述べています。「4Qの受注が回復した理由は米国向けが好調で、バイデン大統領の政策効果が表れたと言えるでしょう。今後の動向についても強い需要は一過性で終わらず、少なくとも今後1~2年間、いや3年間ぐらい持続するという感触を得ています」。
つまり、半導体や電気自動車(EV)などに限らず、多くの製造業において世界的な需要拡大で恩恵を享受できる日本の製造業は多く、今期(2022年3月期)も好調な業績が期待できるでしょう。
2022年3月期の業績を占うのは価格交渉力
一方、気になる動きもあります。現在、鋼材や銅の価格、海上輸送費などが急騰しています。冒頭に挙げた竹内製作所もショベル製造のために多くの鋼材を使い、海上輸送費もかかります。同社は、今期の業績はコスト上昇が要因で減益を想定していますが、私は保守的な計画だと思っています。なぜなら、顧客への値上げが浸透すると思うからです。
今期の企業業績を占うポイントはずばり価格交渉力でしょう。部材の調達費用の上昇をできる限り抑えたり、値上げ分を製品価格に転嫁できたりするかなどといった価格交渉力が強いか、弱いかによって業績が大きく上下する可能性があるのです。
日本電産(6594)のトップが決算発表で語った「打ち返し」
モーター大手で業績好調の日本電産(6594)も銅価格などの高騰の影響を強く受けます。しかし、経営トップの発言を聞く限り、同社はそれを「打ち返す」術を持っていると言えます。
CEOを退任した創業者の永守重信会長は、本決算発表で次のように発言しました。「全ての製品で実現できているわけではありませんが、例えば、モーターは銅の値上がりの影響を大きく受けますが、軽薄短小の技術を使って設計することで、仮に銅の価格が上がっても、使用量を同じ割合減らすなどして製造原価を変えない努力をしています。実現できれば、競合メーカーが製造原価の上昇で値上げせざるを得ない中、以前と同価格で提供することでシェアをより高めることができるのです」。
新たにCEOとなった関潤社長も次のように発言しています。「半導体、樹脂、鉄、銅などの各部材メーカーの値上げ要請を鵜吞みにすると製造原価は上昇するでしょう。それを避けるべく、当社は部材メーカーと交渉して値上げ幅を抑えたり、製造原価を抑える設計をしたり、顧客と協議して部材の値上げ幅をシェアしたりするなどの工夫を凝らしています。こうした取り組みは社内で打ち返しと呼んでいますが、今期の業績は打ち返しがどこまで徹底できるかによって大きく変わると思います」
外部環境の悪化をはねのけて業績を伸ばす企業に投資する
日本電産のトップの発言通り、企業業績は外部環境によって運命的に決まるのではなく、顧客との粘り強い交渉など企業の取り組み如何で大きく変わります。外部環境の影響はもちろん大きいですが、それはすぐに株価に織り込まれます。外部環境が良くない中、それをはねのけて業績を伸ばせる企業はポジティブサプライズとなり、株価は上昇するでしょう。
ポジティブサプライズを起こせる企業の条件として利益率が高いことが重要です。なぜなら、利益率が低いと外部環境に翻弄されて価格交渉力が弱くなる可能性が高いからです。DFRのポートフォリオ銘柄を選ぶ際に利益率が高いことを重視する理由の1つであります。
オフィスビルのZEB化も大きなテーマ
米国に限らず、コロナ禍を通じて日本国内でも新たなボトルネックが生じています。住宅もその1つです。テレワークなどで家で過ごす時間が多くなり、郊外の少し広めの戸建の人気が高まっています。コンテナによる輸送価格が急騰し、輸入木材の価格も上昇しています。住宅価格の1割を占める木材価格が上昇することで、新築戸建ての販売価格も上昇するでしょう。
オフィスビルのゼロカーボン化も急速に進んでいます。在宅勤務の浸透で都心部のオフィス需要が減少傾向にある中、オフィスビルのZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化はテナント獲得のための切り札になります。環境性能が高く、環境価値が高いマネジメントを行っているオフィスビルを適正に評価する建物環境総合性能評価システム(CASBEE)などのグリーン認証の取得も進むでしょう。オフィスビルのZEB化はデベロッパーのみならず、個人住宅のZEH化と同様に多くの部材メーカーや空調などの設備会社などに恩恵が及ぶでしょう。
今後の企業業績を占う4つのポイント
今期決算のポイントは、ESG領域の動向を注視することです。需要が先行し、供給にボトルネックが生じていますから、顧客は1~2年程度は製品が届くまで待つという状況になるでしょう。バイデン大統領が先導するグリーンニューディール政策の贈り物で世界は忙しくなりつつあります。
今期の決算動向のポイントを4つにまとめます。
1つ目はESG領域の需要が顕在化し、今後10年続く高い需要への出発年度になること。
2つ目が製造原価が上昇する中、経営の工夫や顧客との粘り強い対話力が収益向上への決め手となること。
3つ目がコロナ変異株の感染拡大で自粛が長期化し、グローバルの営業活動は引き続き抑制され、経費削減やIT導入によるコストダウンが加速すること。
4つ目がなだらかなインフレが起き、徐々に消費が喚起される(貯金から消費や投資にお金が回るようになり好景気になる)でしょう。
(DFR投資助言者 山本潤)
この連載は、10年で資産10倍を目指す個人のための資産運用メルマガ『山本潤の超成長株投資の真髄』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、週2回のメルマガの他、無料期間終了後には会員専用ページでさらに詳しい銘柄分析や、資産10倍を目指すポートフォリオの提案と売買アドバイスもご覧いただけます。