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強味を生かし弱点を補い合う
理想的な組み合わせだが…
4月27日、ヤフー(4689)がオフィス用品通販大手のアスクル(2678)と、業務・資本提携することになりました。ヤフー(4689)がアスクル(2678)の第三者割当増資(330億円)を引き受け、株式の42%を持つ筆頭株主となり、共同で通販事業を手掛けていくという内容です。
僕はこのニュースを聞いたとき「ひどい話だなぁ…」と思いました。GW直前だったからなのか、世間が株のことに無関心だからなのか、あるいは他人事だからなのかはわかりませんが、思ったほどの騒ぎにはなりませんでした。しかし、個人投資家としてはしっかり記憶に刻んでおくべき事件だと思いますので、書いておきます。
両社の提携自体には異論はありません。双方にメリットのあるいい話だと思います。
言うまでもなくヤフー(4689)は、ポータルサイトとして抜群の集客力がありながら、通販分野では楽天(4755)やアマゾンの後塵を拝しています。アスクルを取り込むことで、品揃えの強化はもちろんですが、物流・配送のシステムを利用できます。アスクル(2678)の社名は「(注文した商品が)明日来る」からきているように、物流・配送のシステムには定評があります。
一方のアスクル(2678)は、事業者向けオフィス用文具の通販では大手ですが、個人向けはぜんぜんだめです。ヤフー(4689)と提携することでこの弱点を強化できる上、ポイントや決済システムにも乗っかれます。さらに、物流システムを「ヤフーショッピング」に出店する他のお店にも使ってもらうことで、事業効率を高めることができます。
これだけ聞くと、サービスと品揃えの充実した大きなネット通販サイトが誕生しそうでワクワクする話なのですが、その影で泣くに泣けないことになってしまった人たちがいます。アスクルの株を持っていた投資家の人たちです。
今回の第三者割当増資は、アスクル(2678)が新たに株式を発行して、ヤフー(4689)がそれを買い取るというものです。が、発行される株数が半端ないのです。その数、2302万8600株! これはアスクル(2678)の発行済み株式総数(3118万9400株)の73.83%に上ります。
アスクルが新たに発行する株数は
既存の株を73.83%も希薄化する!
株式会社というのは制度上は株主のものであり、利益や資産や議決などの権利は、株主が持ち株数に応じて保有しています。今回、株式が新たに発行されたことで、これまでに株を持っていた人たちのそうした諸々の権利は73.83%も薄まってしまうことになります(これを「希薄化」といいます)。
僕は株をやっていない友達に、これがいかにトンデモない増資か説明したのですが、どうもピンとこないようだったので、こういうたとえで話しました。「自分が飲んでいたジュースに、"ゆくゆく美味しくなるからね"といって、いきなり73%も水を注がれたらどうよ?」って。そしたらみんな「それはトンデモない!」とわかってくれました。
これだけ希薄化することについて、アスクル(2678)の岩田社長は4月27日に行われた記者会見で「今日、数社の株主を回ったが、理解してもらえた」と言ったそうです。確かに大株主が「うん」と言えば通る話なのかもしれませんが、説明もなにもされてない個人投資家の心の傷に粗塩をズリズリ塗り込む発言です。
アスクル(2678)は新たに発行する株をヤフー(4689)に買い上げてもらう資金(330億円)で、物流拠点を新設したり、情報システムの構築をする予定だそうです。けれども、ヤフー(4689)の宮坂CEOは「詳細は今後詰めるが、やるからに爆速で」などと言っています。詳細、詰めてないんかいっ!
ちなみに最近、大型増資をして話題になった企業には、マツダ(7261)があります。発行済み株式数は17億8037万7399株でしたが、12億1900万株増えて、29億9937万7399株になりました(68.5%の希薄化)。
これだって許せないのですが、この場合は「増資して工場建てたり開発したりしないと、業績悪化に歯止めがかからず、ゆくゆくは潰れてしまうかも」という危機感があって、渋々納得できないでもありません。ですがアスクル(2678)は、そこまで業績が悪いわけではありません。むしろ、好調だったと言えます。
1株当たりの利益から何から薄まるわけですから、当然株価だって薄まります。発表後の最初の取引となる5月1日、アスクルの株価は前営業日比368円も下落(-21.96%)しました。7割も希薄化して2割程度の下落なら、御の字と言えるくらいです。
個人株主にとって唯一の救いどころは、ヤフー(4689)がアスクル(2678)の発行する株式を買い取る価格が、1株当たり1433円であることです。これは「過去2カ月のアスクル株の終値に1.41%のプレミアムを乗せる」ということで決まった価格です。最近のアスクル株が上昇基調だったこともあり、ヤフーも既存株主と同じように含み損を抱えることとなりました。
チャートで見ますと、株価が下げ止まったのは、今年の1月中旬から3月中旬までもみ合っていた価格帯です。さらに週足で見ると、26週移動平均線に乗っかったところで止まっています。出来高も1日で124万5300株と大量の売買がありました。これは、希薄化を悲観した株主と、提携効果を期待して買った株主が、ある程度、入れ替わったことを意味します。
株価が1000円を割ってきたら絶望
食い止めることができれば希望あり
さらに、長期(過去1年間)で見てみましょう。アスクル(2678)の株価は昨年3月の震災以降、ほぼ1000円から1200円の間にありました。この間にアスクル株を買って保有してきた株主は、まだ損を被っていません。チャートの判断ではここを割り込んできたら、本当にマズイことになります。その場合は、ヤフー(4689)との提携には夢も希望も見出せないと、市場から宣告されたと見るべきでしょう。
もし、そこまでの下落に見舞われないのだとしたら、市場がこの増資の「双方の強味を生かし足りない部分を補い合って、より大きな市場を開拓していこう」という大義名分に期待した、ということになるのでしょう。
これが赤字を埋めるための増資だと、水が染み出した泥舟の船底を埋めるがごとく「まだ足りない、まだ足りない」と増資が繰り返される恐れもありますが、とりあえず今回はそうではないのも、下落がこの程度で済んでいる要因なのかもしれません。
全ては市場が納得するかどうかです。ヤフー(4689)とアスクル(2678)は提携してどんなことをやっていくつもりなのか、具体的な計画策定を急いで、矢継ぎ早にアピールしていかないといけません。その上で、成果も挙げていく責任があります。市場はとてもせっかちです。長い目で見てくれると思ったら大間違いです。
ちなみに、もし僕がこの株を持っていたらどうするかと言いますと、たぶん5月1日にぶん投げたと思います。そもそも、セクシーボリンジャー投資法では25日移動平均線を割り込んだら売らないといけないからですが、それでなくても株を持っている立場ではどうしても希望的観測にすがってしまい、冷静な判断ができなくなるからです。
いったん売って頭を冷やし、それでもなお「この提携は素晴らしい!」と思えたらなら、あらためて買い直せばいいのです。場合によっては、売った値段よりも多少高く買い直すことになるかもしれません。それでも、長期的に成長できる素晴らしい提携なら、大したコスト増にはならないでしょう。トレードをする上では「客観的に見る」「冷静になる」ということが、何より大切だと思います。
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