使えない医師を囲えるのは
大学医局だけ
──大学医局といえばマイナスな話題しか出ない時代ですけど、皆さん何だかんだで大学に残っているということは、何らかのメリットがあるからですよね。
A医師 やはり珍しい症例が医療圏中から集まってくるので、勉強にはなるんです。僕自身はあと2~3年で大学は辞めて父の医院を継ぐ予定ですが、若いうちは絶対大学にいた方がいいとは思いますね。でも、今の給料で10年以上いられるかというと……。
B医師 1年後に専門医が取れる予定なので、その後は市中病院で修業して、地元で開業を考えています。僕も大学のメリットに関してはA先生と同意見ですが、何しろ駐車料金を給料から引かれるのが納得いかない(笑)。
D医師 これだけ尽くしてるんだから、もっと大事にしてほしいですよね(笑)。僕の最大の不満は、医局人事をもう少し正当な評価、例えば論文の中身などで決めてほしいということですね。教授も忙しくて医局員全員の仕事ぶりを見るのは難しいのは理解できるんですが。ただ医療の進化を真っ先に実感できる職場ですし、仕事自体はすごく面白いです。今、外科はオペ(手術)だけやっていればいいという時代ではなくて、例えば、がんなら集学的治療(異なる分野の複数の医師や薬剤師が協力してチームで診療に当たる)が当たり前になっています。
手術の適応だけでなく、この症例は薬物治療が適しているなど、適切に判断する能力が外科医にも必須になるのは間違いなく、やはりそれは大学のような教育施設で勉強しないと身に付かないと思うんですよね。
あと世の中にとって大学が存続するメリットを一つ挙げるとすると、臨床に出してはいけない、つまり能力が著しく低い中高年以上の医師を囲っておける懐の深さですかね。ひたすら患者さんへのアナムネ(病気の経過や状況の聴取)をさせるなど、命に関わる医療行為は絶対にさせないわけですが、そんな余裕があるのは大学医局だけでしょうね。
C医師 そのような、言ってみれば「怪物」が世に放たれるリスクもそうですが、若い人を広い意味で庇護できるギルドとしての役割は果たしていたのではないかなと思いますね。もちろん医局の硬直性は批判されるべきですが。
これまでは医局の中で深く考えずに初期研修を終えて、臨床、大学院、学位を取って大学で名声、もしくは開業でお金を得ていたのが、SNSで人生のネタバレが進んだ結果、どっちも若手に響かなくなってしまった。まともに開業したら、実は競争激しいし、大学のポストはすごく少ないし。割に合わないということが分かってきたところで、SNSには「自由診療で1億稼げる」とか「初期研修後3年で院長になれる」といった投稿があふれているわけです。そういった悪意ある業者が若手を刈り取りやすくなってきたというのも、大学医局衰退の負の側面でしょうね。
大学医局員による覆面座談会の後編『大学医学部「主任教授、病院教授、臨床教授…」肩書乱発の末路【大学医局員の覆面座談会・後編】』はこちら
Key Visual by Noriyo Shinoda