【68】1980年
火を噴く日米経済戦争
複雑化する“摩擦” の構造

 米国の経常収支は戦後、黒字基調を維持してきたが、1960年代後半から黒字幅が縮小、70年代に入ると赤字が発生するようになり、80年代は赤字が急速に増大していった。財政収支も、80年代以降はレーガン政権による減税施策と軍事支出の拡大によって赤字が増大していく。「双子の赤字」である。

 一方で、米国民の旺盛な消費意欲により輸入は増加するばかりで、その供給元が急速に技術競争力を高める日本メーカーだった。米国は日本の対米黒字に対して大幅な削減を求め、日本製品に対し輸入規制をかけるようになる。ダンピング(不当廉売)調査を実施し、日本製品に大幅な関税をかけるという措置で対抗しようとした。

 80年3月1日号では、「火を噴く日米経済戦争――対米摩擦20問20答」として、日米摩擦の背景、問題点を20の問題に分けて解明するという特集を組んでいる。

1980年3月1日号「火を噴く日米経済戦争――対米摩擦20問20答」1980年3月1日号「火を噴く日米経済戦争――対米摩擦20問20答」
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『日米摩擦の対立点は、基本的には、日米貿易収支が日本の大幅出超が続いていることである。昨年は86億ドルの黒字で、史上最高の一昨年の115億ドル黒字を下回ったものの、依然大幅であることには変わりなく、米国の貿易収支の赤字247億ドルのうち、実に3分の1を占めるに至っている。
 米国側には依然、日本が輸出促進策をとるだけで輸入のガードが固く、失業を米国に輸出しているという考えがある。日米間の貿易摩擦が米国での現地生産や雇用問題に発展してきているのには、この側面がある。これに対して日本側は、米国の貿易収支の赤字は米国内のインフレ、生産性、技術力の低下など、米国自身の競争力低下に原因があるという考えである。自由競争、経済の合理性は守られるべきで、現時点では自動車などは現地生産しても採算に乗らないということになる。
 折から米国はスタグフレーションの様相を次第に強め、輸入品に対する被害者意識が高まる一方、今年は大統領選挙の年とあって、この日米摩擦が政治的に利用され、火に油となりやすい状況になっている。
(中略)
 問題は、こうした貿易摩擦だけにとどまらず、最近は米国側の不満が、政治、防衛、外交などへの問題にまで広まってきたことである。いわゆるフリーライドで、日本が米国の半分のGNPをもち、人口1人当りでほぼ米国に匹敵する水準にきているのに、防衛負担、途上国援助など経済大国としての責任を果たしていないという不満である』

 上記の解説のように、日米貿易摩擦の焦点は、単に「日本製品が安すぎる」というだけでなく、日本が輸出するばかりで米国製品を買わないせいで米国内の産業が疲弊しているという主張や、コンピューターなどのエレクトロニクス、航空機、原子力、宇宙開発など、将来の産業界を左右するハイテク分野でも日本企業の追い上げが急であることへの不安、さらには経済大国の地位を高めているにもかかわらず政治、軍事、外交などで日本政府があいまいな姿勢を取り続けることへの不満などがあいまって、日米摩擦の構造は複雑化していた。

 特集は、こうした日米摩擦の背景、標的となっている業界の行方、日本と米国それぞれの今後の出方などを多角的に解説する内容となっている。