セブンDX敗戦#12Photo by Kazuki Nagoya, Kazutoshi Sumitomo, Tomohiro Ohsumi/gettyimages

セブン&アイ・ホールディングスのデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略は暗礁に乗り上げた。DXを推進するための経営者の条件とは。特集『セブンDX敗戦』(全15回)の#12では、セブン&アイの“カリスマ”鈴木敏文前会長の次男で、デジタル戦略を主導した鈴木康弘元最高情報責任者(CIO)に、DXを進めるための理想のリーダー像について聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部編集委員 名古屋和希)

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敏文氏と孫正義氏とのマル秘エピ
DXは経営トップが「腹をくくれ」

 鈴木敏文氏といえば、セブン&アイ・ホールディングスの前会長兼最高経営責任者(CEO)で、流通のカリスマといわれる存在だ。

 その次男である鈴木康弘氏は、富士通やソフトバンク(現ソフトバンクグループ)などを経て、敏文氏がトップだったセブン&アイに参画、最高情報責任者(CIO)を務めた。

 康弘氏はネットと実店舗を融合する「オムニチャネル」戦略を主導したものの、2016年に敏文氏が、セブン-イレブン・ジャパン社長の人事案を巡って電撃退任すると、半年後に後を追うように退任した。

 その後、康弘氏はコンサルティング会社を起業し、流通大手などにデジタルトランスフォーメーション(DX)の支援をしている。

 康弘氏に、セブン&アイやコンサル会社での実体験を踏まえた、企業がDXを進めるために欠かせないポイントを解説してもらった。

 また、父親である敏文氏と、ソフトバンクグループの孫正義社長に仕えた体験を基に、DXを進められる経営者の資質について、マル秘エピソードと共に語ってもらった。経営コンサルタントの大前研一氏やSBIホールディングスの北尾吉孝社長ら“大物”との意外な過去についても披露してくれた。

 カリスマジュニアが見た、DXに成功する経営者の条件とは。

――企業のDXへの取り組みをどう見ていますか。

 DXへの関心は極めて高いですが、まだ本質を理解していない企業が多いのが現実です。DXはデジタルによる変革を意味しますが、単なるデジタル化とDXの違いがまだ理解されていない面もあります。

 DXの実現には五つのステップが必要になります。最初のステップは、まず経営者が意識を変える点です。経営者が単にシステム部長に「DXをやれ」と言うだけではなく、経営者自身が覚悟を決めないといけません。

 二つ目にDXの推進体制の構築です。これも単にシステムに詳しい人材を連れてくるだけではダメ。起業や業務改革を経験したことがある人材が必要です。

「鈴木敏文と孫正義はボロクソに怒るが…」セブン&アイ元CIOが語る、DXに成功する経営者すずき・やすひろ/1965年生まれ、87年に富士通に入社。転職したソフトバンク(現ソフトバンクグループ)でインターネット書店を起業。その後、同社ごとセブン&アイ・ホールディングスに移籍。2014年にセブン&アイの最高情報責任者(CIO)に就き、ネットと実店舗を融合する「オムニチャネル」戦略を進めた。16年末に退任し、17年にコンサルティング会社「デジタルシフトウェーブ」を起業。セブン&アイの鈴木敏文前会長の次男。 Photo by K.N.

 三つ目のステップは、将来を見据えた業務改革です。ビジネスでは、マーケットや消費者は変化していきます。それを前提にして、業務そのものを組み直していかなれければなりません。企業は過去の延長線上で業務を続けがちですが、DXを進めるために必要な業務と不要な業務の取捨選択が重要です。

 そして四つ目がITの活用です。いまやクラウドサービスはたくさんあります。差別化につながるシステムは自ら構築する必要性があるものの、例えば経理や人事などのシステムは、汎用のものを利用できます。その際は、機能に合わせて経理の規定などを作り変えていくような“逆の発想”が大事です。

 最後が、改革を定着させるという点です。人の意識は簡単には変わらない。ですので、これは極めて難しい。しかし、そこまでやって初めてDXは進みます。

 繰り返しになりますが、DXで重要なのは経営者がリーダーシップを発揮するかどうか。トップの決意なしでは絶対にうまくいきません。

――どのような経営者がDXを進めることができるのでしょうか。