FP花輪陽子のシンガポール移住日記
【第33回】 2018年5月14日 花輪陽子

シンガポールのプライベートバンキングの中身とは?
富裕層がプライベートバンキングで投資する商品や、
究極の金融サービス「ファミリーオフィス」を解説!

富裕層が集まるシンガポールの金融業界では
プライベートバンキング市場が急拡大している!

 ファイナンシャルプランナー(FP)の花輪陽子です。この連載で何度かご紹介してきたように、私が今暮らしているシンガポールは、金融資産1億ドル(約110億円)を超える「超富裕層世帯」の割合が高い国です。

 今、アジア全体で富裕層が急増していますが、その中でもシンガポールに富裕層が集まる理由として3つほど考えられます。

 1つ目は、シンガポールは富裕層の子息の教育環境なども含め、富裕層が暮らしやすいように国全体を設計している点です。例えば、同じように富裕層が集まる香港などと比較しても、この点はシンガポールの強みと言えます。

 2つ目は、政治的な安定性です。この安定性ゆえに、金融の専門家の中には「シンガポールドルは世界で最も安全な通貨の一つ」という認識を持つ人も少なくないようです。

 そして、3つ目は税制面での優遇措置がある点です。富裕層の投資動向を調査分析するウェルスインサイト社によると、2020年までにシンガポールはスイスを抜いて、世界最大のオフショア金融センター(※外国人に対して税金を優遇している国・地域)になると予測されています。

 こうした状況下で、富裕層をターゲットとしたシンガポールのプライベートバンキング市場も拡大し続けています。アジア全体のプライベートバンカーの運用資産残高が、約220兆円であるというデータからも、この業界がいかに活況かがわかります。シンガポールでは、各銀行がプライベートバンキング部門の人員を増やすなどをして、その機能の強化を進めています。

プライベートバンキングの主要な業務は
富裕層の資産保全や運用、財産の継承など

 さて、皆さんにとっては、「プライベートバンキング」というと、どんなイメージでしょうか。「よく分からないけれど、何かすごいことを行なっているに違いない」などと想像する人もいるかもしれません。

マーライオンの後ろに控える「HSBC」など、シンガポールの街の中心部にはプライベートバンキングを提供する銀行が立ち並ぶ
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 ちなみに、『プライベートバンカー カネ守りと新富裕層』(清武英利著・講談社)というノンフィクション小説では、シンガポールを舞台とした詐欺と殺人未遂事件が描かれています。こういった書籍を読まれた方などは、「プライベートバンキング=怪しい」というイメージを持っているかもしれませんね。

 では、実際のところはどうなのでしょう? プライベートバンキングの基本サービスは、富裕層の資産の保全と運用、財産継承などで、それぞれの金融機関が定めた一定以上の資産を保有していないと、サービスを利用することさえできません。そのため、プライベートバンキングは多くの人にとって縁遠いものとなっています。ただし、「カストディ・フィー」という保管料を取るものの、一般に売買手数料率は低く、それでいてサービスのグレードが高いのが特長です。

 とはいえ、富裕層も基本的な資産運用の対象は一般の人とそれほど変わらず、株式、債券、投資信託、保険などが中心となります。ちなみに、シンガポールや香港の金融機関には、日本ではなじみのないサービスも。例えば、債券や保険を購入する際にローンを組めることがあります。ローンを組むと、レバレッジをかけて運用することができるため、それだけ高いリターンも期待できるようになります。

ヘッジファンドやプライベート・エクイティファンドなど、
普通の金融機関では買えない金融商品も取り扱っている

 そのほか、プライベートバンキングならではの金融商品もあります。代表的なのは、ヘッジファンドやプライベート・エクイティファンドといった、限られた人のみが出資して運用するファンドです。

 ヘッジファンドとは、さまざまな取引手法を駆使することで、「マーケットが上がっても下がっても利益を追求すること」を目的としたファンドです。一般の投資信託は運用方法を制限しており、相場が一方向に動いたときのみ利益が出る仕組みのものがほとんど。この点で、ヘッジファンドは特殊と言えます。

 プライベート・エクイティとは、広義では“未上場企業の株式”を意味します。未上場企業の株式の取得や引き受けを行う投資行為を、プライベート・エクイティ投資と呼びます。通常は、未上場株式そのものではなく、プライベート・エクイティファンドに投資をします。ヘッジファンドもプライベート・エクイティファンドも、長期的に高いリターンを期待できるのが特長となっています。

シンガポールには一握りの超富裕層が利用する
マネーの専門家集団「ファミリーオフィス」も多く存在

 シンガポールでプライベートバンキング業務を行なっている銀行は、地場の銀行のほか、欧州系、米国系などたくさんあって、非常に競争が激しいです。日本にもプライベートバンキング業務を手掛ける金融機関はありますが、UBSやクレディ・スイスといったスイス系の金融機関が中心になり、その数はシンガポールと比べると圧倒的に少ないと思います。

 また、シンガポールや香港には「ファミリーオフィス」という形態の金融サービスがたくさんあります。ファミリーオフィスとは、たった一人(一家族)の富裕層のためだけに存在する組織で、資産運用の専門家や税理士、会計士、弁護士、あるいはアートの専門家など、多ジャンルのプロが所属しています。

 彼らは、特定の人物専用のプライベートバンカーとして、高給をもらいながら働いています。例えば、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツなどは、ファミリーオフィスを持つ富裕層の代表格です。

 高級ブティックの洋服でも、「ready to wear(そのまま着られる)」のものと、生地やデザインを自分で選ぶカスタムメイドのものがあると思いますが、プライベートバンキングはカスタムメイドだと思えば想像しやすいでしょう。ファミリーオフィスはその究極の形と言えます。

 さて、雲の上の話ばかりになってしまいましたが、一般的な資産の人が、プライベートバンキングに近いサービスを受けることはできないのかといえば――結論から言うと、今の段階ではまだ難しそうです。

 ただ、この先AI(人工知能)がさらに発展し、「ロボアドバイザー」が人間と比べて遜色ない(あるいはそれを上回る)アドバイスをしてくれるようになったら、誰でも高度な投資助言を比較的安価に受けられるようになるかもしれませんね。