名投資家に学ぶ「株の鉄則!」
2015年4月23日 ザイ・オンライン編集部

100万円が13年後に2800万円になった
ピーター・リンチ式のボトムアップ投資手法は
いまの個人投資家でも実践できる!

新訳『ピーター・リンチの株の法則』翻訳者の平野誠一氏に聞く(1)

編集部 運用資産が777倍ですか! また13年間で約28倍というパフォーマンスも素晴らしいの一言ですね。本書では、ピーター・リンチの20年間の投資人生から導き出された重要な教訓の数々がとても参考になりました。平野さんは本書の中でどのような点に注目されましたか?

平野 マゼラン運用の回顧録である第4~第6章が興味深いことはもちろんですが、私にとって特に印象的だったのは、本書の随所に感じられる「株式投資への愛のようなもの」と、良い意味での「視線の低さ」です。

 私はずっと「この人は本当に個別株投資が好きなんだなぁ」と思いながら翻訳をしていました。債券など他の運用手段に比べて有利だからという理屈を超えた何かがなければ、仕事とは言え、あそこまで熱心に投資先の企業の幹部に会ったり情報を分析したりすることはできないでしょう。

 なぜそんなに好きなのか。おそらく、リンチ氏は好奇心が旺盛で、企業や業界動向を分析していろいろなことを知るのが楽しかったのだろうと私は踏んでいます。

 実際、マゼランの運用を始めた頃には「総合的な戦略などなかった・・・私は訓練された警察犬のようにいろいろな会社を嗅ぎ回っていた」そうです(新訳119ページ)。また、マゼランの運用成績を大きく押し上げた大手自動車メーカー、クライスラーへの投資についても、同業のフォードのことをいろいろ調べていくうちにクライスラーの方が有望だという結論に達したと書いています(新訳155ページ)。リンチ氏は後者の過程を「川で砂金を見つけた人が金塊を求めて上流に向かうようなもの」だと表現していますが、運用成績を高めたいという欲だけでなく、もっと知りたいという好奇心も手伝って上流に向かったのだと思われます。

 ただ、株式投資というのは元来、好奇心をそそるものではないでしょうか。例えば、A社はとても優れた製品を作っているのに、同業のB社よりも株価収益率(PER)が低い状況が続いている。財務に問題があるのか、市場シェアが低いからなのか。それとも何か見過ごされていることがあるのだろうか・・・このように気になったことをコツコツ調べて分析するという作業には、推理小説の謎解きにも似た面白さがあると思います。

 しかも、面白い上に、実際にお金を投じれば利益も得られる可能性がある。リンチ氏の言葉を借りて言うなら、株式投資は「報われる娯楽」(新訳25ページ)になるのです。

編集部 なるほど好奇心の先に利益がある、ということですね。さきほどお話に出たピーター・リンチの投資法を語る上で欠かせない「視線の低さ」について、簡単にご説明いただけますか。

平野 良い意味での「視線の低さ」というのは、正真正銘のボトムアップの運用スタイルだという意味です。「経済全体が今後こうなりそうだから、この業界に投資しよう」という見方をせず、自分の身の回りに投資のヒントを見いだしているということです。

 その最もわかりやすい例が、第8章「小売株は、ショッピングモールで探せ!」にあるクリアリー・カナディアンやギャップ、ボディショップなどのエピソードでしょう(新訳218ページ)。  

 リンチ氏は、思春期の娘さんといっしょにショッピングモールに出かけ、一番気に入っている店に案内させます。そして、そこで売られている製品とその売れ行きを観察し、どこの企業がどんな手法で事業を運営しているのかを調べ、財務諸表を見たり株価をチェックしたりします。自分が直に見たもの、手で触れたものから上に向かって順々に調べていくのです。

 リンチ氏によれば、個人投資家の強みはここにあります。「どの業界でも、そして米国内のどの地域でも、注意深く観察するアマチュア投資家は、素晴らしい成長企業をプロの投資家よりもずっと早く見つけることができる」というわけです(黄金律、第15条)。これこそ、本書の原題が”Beating the Street”(ウォール街に勝つ、の意)であるゆえんです。

 ちょっと話がそれますが、このようなリンチ式のボトムアップの投資手法は、今日の日本の個人投資家でも実践できると思います。むしろ、前作が出版された20年前よりも今日の方がはるかにやりやすくなっていると考えます。

 これは「訳者まえがき」でも申し上げたことですが、1990年代前半の日本では、企業の詳しい情報が詰まった資料を、特に有価証券報告書総覧を手に入れるのはなかなか骨の折れることでした。大型書店や政府刊行物の販売所など限られた場所に出かけて、お金を払って購入しなければならなかったのです。しかも、基本的に古いものは店頭には並んでおらず、最新のものも売り切れていることがありました。

 ところが今では、お目当ての企業のウェブサイトにアクセスし、指を何度か動かすだけで、数期分の決算短信や年次報告書を無料でダウンロードできることがあります。どんな事業を展開しているかを紹介した、写真付きのページを見られることもあります。昔を思えば夢のような話です。これを利用しない手はないでしょう。(次回に続く)