イーロン・マスク氏のツイート通り、日本は本当に消滅するのか?
"At the risk of stating the obvious, unless something changes to cause the birth rate to exceed the death rate, Japan will eventually cease to exist. This would be a great loss for the world." 「あたり前のことを言うようだが、出生率が死亡率を上回るような変化がない限り、日本はいずれ存在しなくなるだろう。これは世界にとって大きな損失になる」
5月7日にツイッターで発信された、米テスラCEOのイーロン・マスク氏のツイートである。日本の総人口はこの1年間で64万4千人減少した。現在、約1億2500万人が暮らす日本において0.5%に該当する。「いずれ存在しなくなるだろう」と述べるのはかなり極論に見えるが、死亡数が出生数より多い状況が継続すれば、いずれ日本人は消滅することになる。
2020年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯を通じて産む子どもの数)は1.33。出生率が1.3を下回る状態は「超少子化」と呼ばれる。実は2003年から2005年までの3年間、日本は超少子化の状態だった。当時、国立社会保障・人口問題研究所から「2004年の出生率1.29が継続し、海外からの日本への移住者が増えないと仮定した場合、日本の総人口はおよそ200年後に1千万人を切り、2340年に100万人となり、2490年に10万人を割り込み、3300年には日本列島が無人になる…」との見通しが出て大きな話題となった。
少子化はコロナ禍以降再び低下基調に。現役世代の収入悪化も深刻
したがって、日本人の消滅論は今に始まったことではない。小泉純一郎内閣は少子化対策に注力し、その効果もあって2012年から2018年までの出生率は1.4台に戻った。だが、コロナ禍になって再び低下基調が鮮明である。あらゆる面で日常生活が制約され、収入不安が一段と高まる状況では出生率は低下する。また、コロナ禍の前から若い世代や働き盛り世代の就労・収入環境は悪化しているのは周知の事実だ。ちなみに現在40代後半の大卒男性の平均年収は、10歳上の世代が40代後半だった時よりも、150万円も少ない。さらに世代が移れば年収は低くなる傾向が出ている。
人口維持に必要な出生率は2.00ではなく2.08である。2.00では乳幼児や子供が死亡したりして人口を保てないため2.08という数字になる。遡ってみると、日本の出生率は1950年においては3.65あり、この年の新生児の数は233万人。しかし、1975年には2.00を切って1.91となり新生児数は190万人、2005年の出生率は1.26と最低を記録して新生児数は106万人。そして直近の2020年は出生率1.34と新生児数は84万人まで落ち込んだ。
日本の歴史を振り返ると、人口が急増したのは第二次世界大戦以降
過去を遡って鎌倉時代から現在に至る日本の人口推移を見よう。鎌倉幕府が成立した1192年(と私は学校で習った)、すなわち今から830年前の日本の人口は757万人と推計されており随分少なかった。146年後の室町幕府成立時の1338年には818万人に微増。しかし、そこから265年後の江戸幕府成立時の1603年は1227万人となり1000万人を超えた。江戸時代は中期までは世の中が安定していたので、113年後の享保の改革の1716年には3128万人と約3倍弱と急増する。しかし、そこから152年後の明治維新の1868年になっても3330万人とほとんど増加しなかった。これは自然災害や飢饉や社会的混乱の影響が大きかったからだ。
ところが2回の世界大戦を経験して「産めよ殖やせよ」の国策(子どもを5人以上産むように、という政策)の下で日本の人口は爆発的に増加する。終戦の1945年には7199万人となり、その後のベビーブームを経て2008年にはピークの1億2808万人を記録。しかし、ここがピークで、本格的な高齢化社会を迎えて、年間に生まれる人間の数よりも、死んでいく人間の数が多くなる局面に入っている。
日本の適正人口は欧州の主要国並みの6000万人~8000万人?
「出生減に歯止めをかけて反転させるためには、真に効果のある対策を実行し、若者を取り巻く経済環境を好転させることである」―。もちろん、この考えには賛成だ。だが、客観的な視点で統計学上の数字を眺めると、やはり「産めよ殖やせよ」が異常過ぎる人口の上昇カーブを生み出し、今はそれが修正される局面にあるのだと思う。もし、軍事的な「兵力・労働力の増強」という特殊要因がなければ、現在の日本の人口はヨーロッパ主要国並みの6000万人~8000万人だったはずである。それが自然な流れだ。私自身はこれくらいの人口が日本に適正だと考えている。
人口が減っても生産性や付加価値を上げていけば問題ない。だが、日本は今やその点において、もはや先進国から転落している事実がある。それに加えて急速な人口減。お尻に火が付いている状況だからこそ、日本は真剣に「生産性向上」に舵を切るべきだと考える。大きな予算を付けて補助金とか助成金を配っている場合ではない。日本政府のお金の使い方は結局、国会議員が選挙で落選しないための政策に偏り過ぎで、「付加価値向上のために投資する」「将来のために投資する」という要素が乏しすぎるからだ。
人口減少前提で、生産性や付加価値の向上に取り組むべき
仮に日本の人口が今の半分の6000万人程度になったとしても、ヨーロッパ並みなのでさほど悲観することはないだろう。もちろん、できれば人口減問題の解決にも道筋をつけてもらいたいとは思うが、それは難題だ。それよりもっと重要なのは生産性と付加価値の向上だ。そこが今イチだからこそ、多くの日本人のやっている仕事は単純作業、つまらない作業、無意味な業務、広がりのない業務、大きな仕事に繋がらない業務…だから年収も低い。当然だと思う。
人口減少前提で生産性と付加価値の向上、これに尽きる。ただし、社会保障制度は別だ。日本の場合は人口増を前提に設計されているため、人口減では制度が崩壊する。ここには大手術が必要だ。
●太田 忠
DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。プロが評価したトップオブトップのアナリスト&ファンドマネジャー。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもメルマガ配信などで活躍。
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