5月のCPI加速で米国株は急落。直近の上げ幅をすべて吐き出す形に
5月の米国CPI(消費者物価指数)加速で、米国株は急落―。先週6月10日金曜日のNYダウは880ドル安、S&P500は116ポイント安、ナスダックは414ポイント安と大きな下げを演じた。5月のCPIが+8.6%と4月の+8.3%を上回り、インフレピークアウトのシナリオを打ち消す内容となったからだ。
その結果、米国の長期金利は3.16%まで上昇し、2年物金利とのイールドギャップは0.10%まで縮小している。NYダウは3週間前は9週ぶりの大幅高となっていたものの、その後は冴えない展開だ。8週間での3600ドル安に対して、上げ幅は131ドルと4%戻しまで縮小(3週間前時点は1951ドル高、54%戻し)、すなわち上げ幅をほぼすべて吐き出す形になっている。
日本株は直近は連れ安傾向も、金融緩和継続もあり堅調な展開が期待
米国市場の「金融引き締め、ドル高、割高感」に対して、日本市場は「金融緩和継続、円安、割安感」という対照的な構図がパフォーマンスの差に表れている。加えて、米国企業の業績下落懸念に対し、日本企業の保守的な業績予想も対照的だ。恐怖指数比較では米国のVIX指数27.75に対して、日本のVI指数は21.27と相変わらず格差がある。しばらくは「軟調な米国市場」に対して「堅調な日本市場」の展開が続くと予想される。
私が助言する「勝者のポートフォリオ」はおかげさまで好調である。先週半ばに一度、昨年10月のスタート以来の高値+1.9%に限りなく近づく+1.5%を記録したが、着地は-0.1%にて終了。同期間のTOPIXは-4.3%、日経平均-5.5%、マザーズ-39.1%で大きく勝ち越している。特に5月に入ってからのアウトパフォームが顕著だ。これはひとえに「ガタガタ局面からマイルドな業績相場へ」というシナリオを前提に4月から積極運用策に転じたことが功を奏している。
IR支援を行うIRジャパン元副社長による前代未聞のインサイダー疑惑
さて本題に入ろう。先週、私が一番驚いたのが次のニュースだ。上場企業へのIR支援を行うアイ・アールジャパンホールディングス(6035)の元副社長でCOO(最高執行責任者)だった栗尾拓滋氏がインサイダー取引に関わった疑いで、栗尾氏ならびに同社に対して証券取引等監視委員会による強制調査が入った。
「はぁ? これは、もう、マンガですかぁ??」。IRジャパンのIRとはInvestor Relationsではなく、Insider Relationsの意味だったのか…。
このニュースで同社の株価はもちろん暴落。6月3日(金)の株価4270円が、翌週は月、火、水と3日間連続ストップ安を演じ、2370円まで下落した。そして、6月9日(木)のストップ安の値幅制限は2000円に拡大すると東証が発表。もしストップ安したら2370円から370円まで下がることになる措置だ。その日は286円高と反発して2656円となったものの、6月10日(金)は438円安となり引け値は2218円。その後も続落し、6月14日(火)終値は2004円となっている。一時はニッチ分野の好業績銘柄としてもてはやされて、2021年1月に高値1万9550円をつけたことがあったが、あれは一体何だったのか?
栗尾元副社長はすでに6月3日に「一身上の都合」で辞任しているが、インサイダー取引の容疑内容は「大型案件の進捗遅れを理由に21年3月期の業績を下方修正」。この発表前にインサイダー取引に絡む行為をおこなったという。発表前株価は1万6000円台だったが、翌営業日の終値は1万3000円台に下落。売りで儲けたということだろうか。
皆さんもご存知のように金商法(金融商品取引法)では、未公表の重要事実をもとに株を取引する行為をインサイダー取引として禁じている。法定刑は5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金かその両方。行政処分の課徴金納付命令の対象にもなると規定されている。栗尾元副社長は野村證券出身だ。インサイダー取引を熟知しているだけに、なおさら始末が悪い。実は以前より同社には悪い噂が絶えなかった。同社には本件以外にも「東証規程の適時開示ルールに抵触か…」という報道もなされている。
IRジャパン株に手出し無用。顧客の信用を完全に失い事業縮小は必至
今、株価は投機的な「祭り」の様相を呈しているが、絶対に触ってはいけない。なぜなら、ビジネスが急速に縮小するリスクにさらされているからだ。上場企業のIR支援を業務としている企業がインサイダー取引に関わるような行為を働いている…。そんな企業の支援を受けていたらガバナンス上大きな問題がある。IRジャパンの顧客は逃げていく。今回の件ですべての信用を失ったのだ。
私はGFS(グローバル・フィナンシャル・スクール)という日本最大のオンライン投資スクールの講師も務めており、株式投資講座を担当しているのだが、その講義内容に『こういう企業に投資してはいけない!』というシリーズがある。私が規定する投資してはいけない企業のパターンは9つ。その筆頭が「① ビジネスモデルそのものが崩壊」である。一時的要因で業績が悪化した企業は、業績が回復すると株価は復活するが、ビジネスモデルが崩壊した企業の業績は回復せず、株価の下落が止まらないという事例である。
例えば、2年前にインサイダー取引で「ドンキホーテ前社長が逮捕」というケースがあった。ドンキホーテの前社長であった大原孝治氏がインサイダー取引に絡んだとの疑いで逮捕。水面下で進んでいたユニー・ファミリーマートとの連携強化を公表する前に知人に株取引を勧めて、その知人がインサイダー情報を得た上で事前にドンキホーテの株を買って大儲けしたという事件である。このケースでは、再発防止策を徹底することによって信頼回復は比較的早期に行えたが、IRジャパンはそういうわけにはいかない。IR活動そのものをビジネスとしている企業がやってはいけないことをやっているからだ。やはり、もう一度言いたくなるね。
「はぁ? これは、もう、マンガですかぁ??」
●太田 忠
DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。プロが評価したトップオブトップのアナリスト&ファンドマネジャー。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもメルマガ配信などで活躍。
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