FRBは11会合ぶりに利上げを見送る。但し年内利下げ転換はなしとの見方
先週開催された6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)において米連邦準備理事会(FRB)は利上げを見送った。政策金利の据え置きは2022年3月のゼロ金利解除後初めてであり、実に11会合ぶりのこととなった。この結果自体は、すでにマーケットコンセンサスとなっていたので驚きはない。これまで異常とも言えるスピードで利上げをおこなってきた。10会合で実に5.0%の利上げである。現在の政策金利は5.0%~5.25%。金利引き上げと実体経済に及ぼす影響にはタイムラグがある。ここで小休止して、実態を見極めたいとの意図が大きく働いていると思う。
サプライズだったのが、2023年末の政策金利中央値の予想が従来の5.1%から5.6%へ引き上げられたことだ。現在の政策金利は5.0%~5.25%であるため5.1%とピッタリ一致する。5.6%へ引き上げられるとなると、年内に0.25%の利上げをあと2回行って年末の金利水準を5.5%~5.75%までもっていくということだ。マーケット予想ではあと1回の利上げがコンセンサスだった。「FOMC関係者は年内の利下げ転換には慎重」というパウエルFRB議長のこれまでの見解が改めて裏付けられた形である。政策金利の予想を引き上げるということは、少なくとも年内における利下げ転換はないという意味である。
現在のマーケット局面は「逆業績相場」。企業業績は悪くとも株価は上昇
利上げ停止の決断をしたFRBと対照的なのが欧州中央銀行(ECB)である。5月に続いて6月の理事会でも0.25%の利上げをおこない政策金利を4.0%に引き上げた。ラガルド総裁は次回7月の会合でも利上げを続ける姿勢を示した。米国ではインフレ減速の兆候が見られるのに対して、欧州では物価関連指標は依然として強く、「まだやるべきことがある」「利上げ停止は考えていない」と記者会見でコメントした。一方、日銀は6月の金融政策決定会合において、相変わらず大規模金融緩和維持を決定している。
さて、今はマーケットサイクルにおける「逆業績相場」の局面である。FRBを中心とした世界の中央銀行が金融引き締めをどんどん行なうことで景気過熱感を冷まそうとのスタンスが取られている。これを受けて、世界の企業業績は製造業を中心に大幅減益となるものが目立っている。「エヌビディア祭り」で大きな株価上昇の恩恵を受けている半導体関連企業の大半は、実は今期は大幅減益の業績予想を発表している。厳しいのだ。お祭りはお祭り、実態は実態である。区別して考えなければならない。
FRBの金融引き締めのゴールは見えた。今考えるべきはゴール後のこと
とは言うものの、株式市場に最も影響を与えるFRBの金融引き締めは最終盤である。昨今のインフレ鈍化の兆候からすれば、5.6%という中央値の政策金利は今回の利上げの最終到達地点だと考えてよい。「すでにゴールは見えている」のだ。したがって、我々はゴール後のことを考えなければならない。年内のFOMCはあと4回。7月、9月、10月、12月にあるが「どの月に利上げされるか?」という予想はほとんど意味をなさなくなっている。
非常に引き締まった金融環境、そして相次ぐ企業業績の悪化…とくれば次は何が起こるか? そう、それは金融緩和であり、「金融相場」への扉が開かれることになる。金融相場は株式市場が最もエキサイティングな局面だ。足元の企業業績の悪化にはあまり目配りする必要はなく、金融緩和によるマネー流入や金利低下の恩恵を享受できる。株式投資で最も成果が上がるのが金融相場であり、個人投資家が大好きな「テンバガー(10倍株)」が出現しやすい相場環境である。なので、そういう点を視野に入れつつ行動することが求められている。
金融正常化は金融引き締めと違う。金融正常化は日本市場に逆風ではない
「日銀はこれから金利引き上げ、すなわち金融引き締めをおこなうので、日本市場は下がるのではないですか?」との質問をよく受けるが、FRBやECBのような急速な金融引き締め政策を取る必要はない。まずは長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の再修正をおこなうところから植田総裁は着手すると思うが、日本の場合はあくまでもマイナス金利からの脱却、すなわち「金融正常化」に向けたステップを踏むわけであり、これは日本経済にとってはプラスだ。金利のない世の中では経済は活性化しない。それはもうこの10年来我々が体験してきたことだ。「ゼロ金利、給料横ばい、増税、希望のない社会…」は十分すぎるほど味わった。金融正常化は日本市場には逆風ではない。これは重要な点だ。
先週木曜日に発表された投資部門別売買動向では、海外投資家は11週連続で日本株を買い越しとの結果が出た。6月第1週の買い越し額は9854億円と4月第2週以来の高水準、買い越し額累計は5兆5000億円である。11週連続はアベノミクス相場初期(2012年11月~2013年3月)の18週以来の連続記録だ。この時の累計額は5兆7000億円であり、金額ベースではほぼ同水準に迫っている。2012年11月は野田佳彦元首相が解散の意思を表明した月だ。要するにダメダメの民主党から自民党が政権を奪還し、安倍晋三元首相がアベノミクスを打ち出したのと同じタイミングだ。「日本は大きく変わる」「今こそ日本株の買いだ!」という勢いのある局面だった。それが今回は「日本企業は大きく変わる」「今こそ日本株は買いだ!」という流れになっている。東証によるPBR(株価純資産倍率)1倍から脱却のための資本政策・経営効率化の変革に大きな光が当たっている。
日本株の投資比率を中立に引き上げた海外投資家による買いは続く
これまでの海外投資家は「日本は成長しない」「日本企業は魅力がない」「割安放置は当然だ」との見方をしており、日本株への投資比率はアンダーウェートだった。それが次々と投資比率の引上げに動いている。日本で株式時価総額が一番大きいトヨタ株が急騰するのはまさにその象徴である。中立のウェートにするためにはあと10兆円ほどの買いが必要との試算もなされており、日本株買いは続くだろう。
それに加えて注目されるのは小型グロース株である。時価総額が小さいため、海外投資家の本格的な買いの対象にはならないが、金融相場ではズバ抜けたパフォーマンスを示す。こちらにも目配りが必要だ。ちょっと前までは急落していた小型グロース復活の狼煙が上がる。「小型グロース株なんてダメだ!」と言っていた個人投資家には発想の転換が求められる。ようやくいいタイミングが来ているのだ。
日本株を売る理由なし。相場から退くのは残念、逆張りはもってのほか
さて、太田忠投資評価研究所とダイヤモンド・フィナンシャル・リサーチ(DFR)がコラボレーションして投資助言をおこなっている「勝者のポートフォリオ」。先週も日々&週間ベースでの過去最高値を大きく更新し、年初来高値も15銘柄と好調だった。海外投資家は11週連続の買い越しとなり、日本株は長期的な上昇トレンドが形成されつつある。
海外投資家が日本株を買い続ける中、日本の個人投資家は5月第5週において8週ぶりに388億円の買い越しに転じたため、会員向けレポートで「大きなマーケットの上昇トレンドにやっと気がついた…」とコメントした。しかし、6月第1週は再び4819億円の売り越しとなった。この大きな上昇トレンドの中で再び売り手に回っているのが印象的だ。
「グローバルで割安な日本株、世界でも珍しい金融緩和策、日本企業の今後の資本効率改善努力、本格的な海外投資家の買い、来年から始まる新NISAによる本格的な日本人の資産形成…」となれば売る理由などどこにもなく、買う理由ばかりが目につく。今のマーケットで早々にゲームから降りるのは非常に残念である。また、相場上昇とは反対のポジションを持つ逆張りは厳禁である。大きな流れに逆らって、お金を失い、マーケットから消えていく人たちを私は過去たくさん見てきた。今損失がどんどん膨らんでいる人は、自分の投資手法が間違っているのだ。そういう投資家にならないようくれぐれも注意していただきたい。
●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもメルマガ配信などで活躍。
※この連載は、ワンランク上の投資家を目指す個人のための資産運用メルマガ『太田忠 勝者のポートフォリオ』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、メルマガ配信の他、無料期間終了後には会員専用ページで「勝者のポートフォリオ」や「ウオッチすべき銘柄」など、具体的なポートフォリオの提案や銘柄の売買アドバイスなどがご覧いただけます。原則毎月第一水曜夜は、生配信セミナーを開催。
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