これは事件だ。セゾン投信の中野晴啓会長が6月28日の株主総会で退任
「これはもう事件だ!」。それほど衝撃的なニュースだった。日本に数ある投資信託会社の中で「顧客本位」を真の意味で打ち出し、気の遠くなるような努力と地道な有言実行で着実に成長してきたセゾン投信を否定したのが、まさか身内の親会社だったとは…。
皆さんもすでにご存知の通り、セゾン投信は6月28日に開かれる株主総会で中野氏の退任を正式に決定する。中野氏は一部のメディアに対して「お客さま全部主義のもと誠心誠意、職務を全うしてきました。不本意な退任だと思っております」と述べており、今回の決定が親会社クレディセゾンによる事実上の更迭人事だということがわかる。長期の積み立てを重視して直接販売にこだわる中野氏に対し、外部販売の拡大による成長を主張するクレディセゾンの林野宏会長との間で溝が生まれ、関係が悪化していたらしい。
親会社と販売方針を巡って関係悪化。更迭のしわ寄せは個人投資家に
セゾン投信のホームページでは『一部報道について-お客さまに向けたメッセージ-』と題して、代表取締役社長COOの園部鷹博氏のコメントが出ている。「セゾン投信は創業来、お客さまを最優先とする“お客さま全部主義”を実践してきました。これはセゾン投信として今後も決して変わることがない考えであることをお約束します」とあるものの、クレディセゾン側は今回の経緯について「株主総会後までコメントできない」と回答。ただし、林野会長は日本経済新聞の取材で「セゾン投信は直販を中心とした販売方針を転換する必要がある」「クレジットカードの顧客基盤や金融機関との提携を生かし、販路拡大に取り組む」と述べており、セゾン投信の方針とクレディセゾンの方針は私たち第三者が混乱するほど、180度異なっている。
中野氏は1987年にクレディセゾンに入社して資産運用の業務に従事。当時から投信業界の悪しき習慣だった、その場限りの売りやすいテーマ型投信の販売や投信の回転売買とは決別し、個人投資家の長期的な資産形成の役割を果たす投資信託会社を作ろうとの構想の下、2006年6月にクレディセゾンの100%子会社としてセゾン投信を設立した。そして、2007年4月に中野氏が代表取締役社長に就任。要するに中野氏はセゾン投信の創業者そのものと言ってよい存在である。
「積立王子」の異名を持つ中野氏は若者向けの金融教育などにも尽力
セゾン投信は全国での勉強会やセミナーを通して地道に顧客を開拓、証券会社や銀行を介さずに投資信託を販売する直販方式で運用資産を増やしてきた。現在の運用残高は約6000億円、顧客数は約15万人。「積立王子」の異名を持つ中野氏の投資哲学や運用手法に共感する投資家が集まっているのがセゾン投信である。しかも運用する投資信託はわずか3本だけだ。中野氏は長期積み立ての投資意義を発信し続けており、若者向けの投資セミナーも積極的に開催して金融教育にも力を入れていた。そうした地道な功績が実を結び、2023年3月時点でセゾン投信の保有者の実に99.5%において利益が出ている。これは本当に凄いことであり、偉業と言わねばならない。
実は昨年の2022年4月に私がパーソナリティーを務めているFM軽井沢の『軽井沢発!太田忠の経済金融“縦横無尽”』という番組に、セゾン投信の国内株式運用部長である山本潤氏に出演していただいたことがある。
投資信託協会の次期副会長に内定していた中野氏の解任に業界も反発
従来のセゾン投信のプロダクトは世界全体の株や債券に分散投資する「セゾン・グローバルバランスファンド」、そして複数のファンドへの投資を通じて世界各国の株式に実質的に分散投資する「セゾン資産形成の達人ファンド」だけだったが、新たに独自のアクティブファンド「セゾン共創日本ファンド」が山本氏の責任の下に立ち上げられた。「企業との対話を通して企業価値の向上を図り、超過リターンの実現を目指す」という理念に加え、「銘柄選択を徹底した長期厳選集中投資」というコンセプトの投資信託である。安易な分散投資に背を向け、企業との徹底したエンゲージメント(対話)で企業とともに受益者も利益を享受するという新しいタイプの投資信託である。山本氏からは熱い想いを語っていただく貴重な機会を得た。「やはり普通の投信会社とは異なる」というのが私の印象だった。
もちろん、こうした投信会社のスタンスでは収益からは遠い。実際に創業から何年もの間、赤字の状況が続いていたが、すでに黒字化を果たしており収益面でも実を結びつつあった。しかも、中野氏は金融庁の有識者会議のメンバーを歴任しており、6月末に投資信託協会の次期副会長に内定していた。その直前になってクレディセゾン自らが中野氏を解任し、業界での大事な人事案をひっくり返すという暴挙に出ているのである。
解任を反発する解約増など前途多難なセゾン投信。解任劇の余波は続く
運用会社にとって顧客本位の運用姿勢で顧客の利益増大を目指し、顧客からの信頼を集め、それによって会社としても収益を得る…という理想的な循環を確立し、いわば投信会社のロールモデルという存在がセゾン投信だったのに、である。私は理解に苦しむ。
今回の解任劇で株式の4割を保有する日本郵便はどうするのか? セゾン投信の支持者から反発が出て解約は増えないか? セゾン投信が掲げていた従来の運用理念に水を差さないか? 直販モデルや顧客本位は時代遅れなのか? そもそもセゾン投信のスタッフがこれまでのようなモチベーションを保てるのか? 新たな販売手法がファンドのパフォーマンスに影響を及ぼさないか?…など多くの疑問が湧いてくる。
焦点は6月28日の株主総会後の説明責任だ。米国と異なり日本の投信会社の多くは独立系ではなく親会社が抱えている。親会社の意向で投信会社の性格が変わりかねない。親会社と子会社が180度異なる姿勢を示す中、セゾン投信の顧客に向けて説明責任を明確に果たせるのだろうか? 業界全体の問題として注目していきたい。
「勝者のポートフォリオ」は絶好調。個人投資家の資産形成推進に邁進!
さて、太田忠投資評価研究所とダイヤモンド・フィナンシャル・リサーチ(DFR)がコラボレーションして投資助言をおこなっている「勝者のポートフォリオ」。先週は日々&週間ベースでの過去最高値を更新し、年初来高値も10銘柄と好調だった。海外投資家は10週連続の買い越しとなり、日本株は長期的な上昇トレンドが形成されつつある。
6月7日(水)20時より毎月恒例のWebセミナーを開催。テーマは 『日経平均3万円後の投資戦略』。平日の夜にもかかわらず235名もの参加があり、Q&Aが盛り上がって予定終了時刻の21時半を何と1時間半超過して23時に終了。ご参加の皆さま、ありがとうございました。「日経平均3万円は通過点に過ぎないだろう」「今はまだ逆業績相場であるが、来たるべき金融相場になれば過去最高値の日経平均3万8957円をも超えていく可能性がある」というのが私の考えるシナリオだ。次回は7月5日(水)20時よりWebセミナーを開催する予定である。誰でも参加できるので、次回も多数のご参加をお待ちしております。
●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもメルマガ配信などで活躍。
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