欧州中央銀行が11会合ぶりに利上げ見送りを決定。政策金利は4.5%
先週木曜日に欧州中央銀行(ECB)がアテネで開催した理事会で利上げ見送りを決定した。2022年7月の利上げ開始から実に11会合ぶりの政策金利据え置きとなった。現在のECBの政策金利は4.50%。それに対して物価上昇率は4.30%(前年同月比)となっている。公表された声明文では「インフレ率は依然として高すぎる状態にあるが、今後も長くとどまると予想される」「現在の政策金利を引き続き長い間にわたって維持する」とあり、最終的な物価目標である2%の達成を目指す姿勢を崩していない。ラガルド総裁は記者会見において「再び利上げしないと言っているわけではない」と追加利上げの可能性について触れ、利上げ停止宣言はまだ行わない、との用意周到さを残した。
皆さんもご存知の通り、米連邦準備理事会(FRB)は9月開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で2会合ぶりに利上げを見送り、政策金利を5.25%~5.50%に据え置いた。パウエル議長も「まだ追加利上げの可能性は残されている」とクギを刺した。とは言え、次回11月のFOMCでも利上げ見送りの公算が大きいというのが今のマーケットの見方である。
英国や豪州、カナダ、スイスも利上げ見送り。利下げに転じる新興国も
さらにグローバルに見れば、英国の中央銀行であるイングランド銀行も9月に15会合ぶりに政策金利の据え置きを決めたほか、オーストラリアやカナダ、スイスでも同様に利上げを見送っている。一方、政策金利が10%前後の新興国においてはブラジルやチリなどで早くも利下げに転じており、もはや利上げ局面は終了したと言える状況にある。
このところのコラムにおいて私は執拗に「金利」に関するテーマを取り上げている。なぜか? それは、株式市場の先行きを見る上において金利が最も重要であり、金利が株式市場に最も影響を与えるからである。最大のカギとなるのが米国の中央銀行であるFRBだ。FRBの金融政策が世界の株式市場に最も大きな影響を与える。FRBの意思決定が他の中央銀行にも及び、FRBに追随すると言っても過言ではない。
米の金融引き締めはインフレ抑制は効果も、景気過熱の抑制は効果出ず
米国の金融引き締め政策の効果を見ると非常に興味深い。それは目的とするインフレの抑制には十分な効果を発揮しているものの、景気の過熱感についてはまだ効果が出ていない点だ。米国の物価上昇率はピーク時に9%を超えていたが、現在は3.7%まで低下。劇的な変化である。一方、景気は力強い動きを見せている。先週発表された7~9月期のGDP(実質国内総生産、季節調整済み)の速報値は年率換算で4.9%増(前期比)となった。4~6月期時点での2.1%増から大幅に加速しており、とりわけ利上げをしても衰えない旺盛な個人消費の伸びが目立っている。個人消費はGDPの7割を占めており、伸び率は4.0%増と4~6月期の0.8%増から拡大した。もちろん金利の上昇で住宅ローンなどの利払いは重くなっているが、飲食やレジャーが好調であり消費の勢いは衰えていない。
FRBが好ましいと考える経済成長率は2%である。直近のGDPが4.9%増に加速したことで目算が狂っている。パウエル議長は10月19日の講演で「10~12月期から来年にかけて景気は冷え込むと見ている」と語ったが、これも雲行きが怪しくなってきている。
高金利でも景気が冷めない理由は、コロナ以降の歪な需給バランスにある
どうして金利を引き上げてもこれほど景気が強いのか? それはコロナショックにまで遡る必要がある。コロナショックで2020年2月に世界中の経済活動が停止した。主要都市ではロックダウン、工場の稼働はストップ、でも、生きていくためには人々は消費し続けなければならない。供給に急ブレーキがかかった一方で需要は継続、要するに需給バランスがいびつになった。そして経済活動の再開で消費意欲が高まって需給バランスがさらに悪化。慢性的な人手やモノ不足を解消するために景気が過熱している状況にある。もちろん、インフレも連動しているはずだが、今起きている現象を見る限り、金融引き締めは「インフレに即効性、景気に遅効性」となって現れている。
ところで、先週の株式市場も金利に振り回される展開だった。米国の長期金利は先週に付けた5.02%から一時は4.82%まで急低下したが、再び4.95%まで上昇。これを受けて先週木曜日の日経平均は668円安の3万601円となり10月4日の直近安値3万526円に接近した。NYダウも木曜日に251ドル安の3万2784ドルまで下落し、5月下旬以来の安値に沈んでいる。
「景気の悪い話」を催促する市場。金利引き下げこそが株式市場に追い風
今や株式市場は「景気の悪い話はないか?」を求めている。何度も言うように「景気が良くなると株式市場は上昇」「景気が悪くなると株式市場は下落」という妙な先入観を持ってはいけない。株式市場の方向性を決めるのは景気ではなく金利である。
今の株式市場は「景気が強すぎるから、容易に金利を引き下げられず、株式市場に逆風」というのが実情だ。だから「景気が鈍化すれば、金利を引き下げやすくなり、株式市場に追い風」である。これから期待されるのは「景気減速懸念が強まり、株式市場は買われる」という構図である。一般的な解説で見受けられる「景気減速懸念が強まり、株式市場は売られる」ではない。このロジックを理解しておかないと、株式市場のことがわからなくなる。
金融相場移行は2024年6月頃か。今週の日銀金融政策決定会合に注目!
金融引き締め策が奏功して米国に「景気の悪い話」が出てくるようになると、株式市場は今のような金利に振り回される高ボラティリティの状態から脱却できる。そして、「景気悪化を阻止するために金利を引き下げる」との判断をFRBがおこなえば、株式市場は様変わりする。これが要するにマーケットサイクルでいうところの「逆業績相場」から「金融相場」への扉を開くことになる。2024年6月頃からそのような状況になるというのが私の見方である。
今週は火曜日に日銀の金融政策決定会合、水曜日にFOMCがあり、最新の金融政策が発表されるため重要な1週間となる。FOMCは利上げ据え置きが濃厚なため大きなサプライズはないと見られるが、問題は日銀だ。日銀内部では現在、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)再修正の議論が出ているため目が離せない。YCCの再修正が行われれば株式市場は一時的な下落を避けられず(銀行株は上昇)、ボラティリティが高まる可能性がある。
逆業績相場の厳しい環境下、勝ち組投資家になるためのマインドを学ぼう
さて、太田忠投資評価研究所とダイヤモンド・フィナンシャル・リサーチ(DFR)がコラボレーションして投資助言を行っている「勝者のポートフォリオ」。11月8日(水)20時より毎月恒例のWebセミナーを開催する。今回のテーマは『あなたの投資マインドが試されるマーケット』。現状、高ボラティリティの逆業績相場となっているが、勝ち組投資家になるための重要な投資マインドについてお話する。また日米の金融政策を踏まえた相場見通しも見ていきたい。また、本コラムでは個別銘柄の話をなかなかできないが、セミナーでは今後大きく上昇が期待できる銘柄も存分にお話する予定だ。会員限定だが、10日間の無料お試し期間を使えば誰でも参加可能である。セミナー当日14時までのお申込み(15時URL配信)。なお、会員の方々は後日アーカイブでの視聴ならびにプレゼンテーションPDFもご利用いただけるようになっている。奮ってご参加ください。
●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもメルマガ配信などで活躍。
※この連載は、ワンランク上の投資家を目指す個人のための資産運用メルマガ『太田忠 勝者のポートフォリオ』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、メルマガ配信の他、無料期間終了後には会員専用ページで「勝者のポートフォリオ」や「ウオッチすべき銘柄」など、具体的なポートフォリオの提案や銘柄の売買アドバイスなどがご覧いただけます。原則毎月第一水曜夜は、生配信セミナーを開催。
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