日本の公的債務はとても大きな規模になっていると言われますが、このような状態は果たして今後も持続可能なのでしょうか?
今回はマクロ経済の分析をお届けしたいと思います。日米の国家債務を比較し、さらに日本経済の未来像を考えてみましょう。
日本の国の借金は増え続けていても、なぜ大丈夫だったのか?
これまで、日本政府の債務はずっと増え続けていても大丈夫でした。
その要因について、米セントルイス連銀のエコノミストたちが分析した記事をまず紹介したいと思います。彼らは日本政府だけでなく、日本の公的部門を統合してバランスシートを見てみれば、日本の公的債務の状況はそこまで悪くないと結論しました。
以下にその記事の要旨をまとめています。
さらに、アメリカ議会予算局は、現行法に変更がなければ、2053年までアメリカは毎年GDPの3%を超える大幅な基礎的財政赤字を続けるだろうと予測している。これにより、債務の対GDP比は増加し続けると考えられる。この高水準の国家債務と、将来の政府財政が黒字化することの不確実性を考えると、アメリカの財政の持続可能性について懸念があると言えるかもしれない。
一方、日本の国家債務は20年以上にわたり、GDPの100%を超えている。実際、2022年第2四半期の時点で、日本の債務残高は対GDP比で226%だった。日本が何十年もの間、非常に高い債務水準を維持できていることからは、アメリカの債務残高の高さに対する懸念は誇張されすぎていると考えることもできるかもしれない。
ただ、債務問題をより包括的に見るには、公的部門全体のバランスシート、純負債の水準、資産収益などを検討する必要がある。
公的部門の統合バランスシートを見れば、日本の場合、純債務の対GDP比は114%に過ぎない。先ほどの226%という数字よりかなり低いが、これは日本国債の一部が社会保障基金や中央銀行などの公的機関によって保有されているためだ。
一方、アメリカで公的部門の統合バランスシートを見てみると、純債務の対GDP比は78%と低い数字になる。これも国内の社会保障信託基金やFRB(米連邦準備制度理事会)が大量の米国債を資産として保有しているためだ。
最後に重要なのは、各国の公的部門が保有する資産と負債の収益格差だ。日本は低金利政策をとっているため、銀行準備金や国債の収益はほぼゼロである。その一方、日本の公的機関はリスクの高い資産への投資から高い収益が得られている。
これに対し、アメリカでは公的部門のバランスシート上での収益差が小さく、政府は平均的な資産収益に近い金利で借り入れを行っている。これにより、日本が経験してきたことは、アメリカの財政状況の予測に役立たない可能性がある。
(出所:セントルイス連銀「What Lessons Can Be Drawn from Japan’s High Debt-to-GDP Ratio?」(日本が対GDP比で高い債務残高となっていることからどんな教訓が引き出せるか?))
日銀が政策金利を引き上げた場合、日本経済は持ちこたえられない可能性がある
以上のセントルイス連銀の分析では、日本の債務がなぜ問題のない状態だったかが簡潔に説明されていました。しかし、現在は状況が大きく変わっています。世界の金利、インフレ、および為替の動きにより、日本の利上げはそう遠くないとされています。
先ほどの記事では、日本は低金利政策をとっていることで、公的部門が保有する資産と負債の収益格差を生み、それが高い公的債務水準を維持できている要因の1つだと指摘されていました。しかし今後、日本で利上げが進んでいけば、話が違ってくるわけです。
これから日本の財政や日本経済はどう変化していくのでしょうか?
まず、アメリカのインフレと金利の動きが日本の財政にどのような影響を及ぼすかは明らかではありません。
現在、目に見えるのは、為替の大きな変動です。円が安くなっても、日本政府や日銀には対応策がほとんど残されていません。
もし、日銀が政策金利を引き上げた場合、日本経済は持ちこたえられない可能性があります。
金利が(短期でも長期でも)上昇すれば、住宅ローンを借りている人(変動金利のものがほとんど)や地方銀行(多くの国債を保有)は困難に直面するでしょう。したがって、日本政府や日銀の取れる対策は限られているのです。
財務省のレポートが示す日本経済の「良い未来」と「悪い未来」
アメリカ経済の強さにより、米金利の大幅な引き下げは期待薄であり、利下げ開始時期も遅れると予想されます。そして、米金利が高ければ、円安は加速します。
しかし、為替相場が一定のレベルに達すると、為替の影響で日本ではインフレが進行し、インフレと円安に対する対策として、日本も利上げしていくことになるでしょう。
ある国の金利が低く、別の国の金利が高い場合、マネーは金利差を求めて移動します。為替による調整はありますが、ある水準に達すると金利も調整され始めます。
このような状況下では、日本の金利も上昇するでしょう。日本の財務省が出している「これからの日本のために財政を考える」というレポートによると、日本の低金利環境は永遠に続くとは限らず、その終わりが迫っている可能性が指摘されています。
そうなると、これからの日本はどんな国になっていくでしょうか? 財務省のレポートでは「良い未来」と「悪い未来」、2つのケースが紹介されています。
今後の日本経済を楽観視するのは難しい。ネズミ講にも似た動きが日本で起こり始めている!?
例1の「良い未来」では、インフレが起爆剤となり、日本経済に変化を促しています。そのため、金利が上昇しても、潜在的な成長力によって日本経済はそれに耐え得るでしょう。
例2の「悪い未来」では、何の変化もなく、日本経済はシュリンクしていくでしょう。インフレにより預金者は大きな損失を被るかもしれません。最悪のシナリオでは、アルゼンチンのように実収入の減少、ハイパーインフレ、政府債務の急増、激しい通貨安が生じる可能性があります。
あなたは日本が例1の道を進んでいると見ていますか? それとも例2の道を進んでいると見ていますか?
日本の出生数は2023年に史上最低を記録し、少子化は改善されていません。少子化により、社会を支える人口は減少しています。さらに急激な円安は、若い家族にとって海外への移住を促すインセンティブとなるでしょう。
AIが日本にも普及しており、これは日本経済にプラスですが、そのスピードが十分かどうかは不確かです。また、リモートワークが推進され、子育て支援策が拡充されているとはいえ、少子化の解消には至っていません。
全体的に見ると、今後の日本経済を楽観視するのは難しいと思います。
日本円で収入を得ている日本人は、保有する通貨の多様化と海外投資を急ぐべきでしょう。
もし、みんなが円を売り始めれば、円安はさらに進むでしょうが、最終的に円を持っている人が代償を支払うことになるため、これはある種の「囚人のジレンマ」と言えるかもしれません。ネズミ講にも似ています。行列の最後の人にツケが回ってくるのです。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。直近1年のパフォーマンスは年率50%以上。
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