ドル円が153.18円、3カ月ぶりの円安水準に。なぜここまで巻き戻した?
10月23日(水)の夜間取引での出来事。ちょうど21時にドル円は153.18円を付け、9月16日の139.57円から14円もの円安が進んだ。9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)において米連邦準備理事会(FRB)が4年半ぶりの利下げを決定したのが9月18日。通常の2倍の0.5%の利下げとなったのはサプライズだったが、「米国の利下げ&日本の利上げが今後進めば、日米金利差が縮小してドル売り&円買いで円高になる」とのシナリオ通りの展開で、7月3日につけた161.94円から9月16日には139.57円と22円もの円高が進んでいた。それが再び巻き戻されつつある。ダイナミックな動きだ。
「米国利下げ&日本利上げ」のシナリオ自体は崩れていないのに、なぜここまで再び円安になるのか? 単純なシナリオ通りには展開しない金融市場の奥深さを感じさせられる。為替市場の方向性を決めるのは単一の理由だけではないということだ。メインシナリオが実現すれば円高でも、様々なサブシナリオが働いて円安になるという好例である。
ドル買いの主因は米国経済の力強さ。円に限らず全通貨に対して独歩高に
現在、ドル円に最も影響を与えているのが米国経済の力強さである。米国の消費者物価指数は2022年6月に前年比9.1%上昇という高水準を記録しピークを付けた。FRBはインフレ退治のために強烈な利上げを行って沈静化を図り、今や上昇率は2.4%まで鈍化した。もちろん、物価水準自体は2022年6月よりも上がっているが、「上昇率」は1年前に比べて3%を切り、FRBが目標とする2%というターゲットをほぼ達成していることになる。パウエル議長の最近の発言において、インフレ沈静化に対して自信を示しているのも頷ける。
米国で利下げが行われたと言っても、政策金利は4.75%~5.00%と依然として高水準にある。にも関わらず、このところ発表されるマクロ経済指標はどれもこれも労働市場の堅調さや経済が底堅いことを示している。前々回のコラムで「マーケットではソフトランディングどころかノーランディング(無着陸)になるのではないか、との見方が出てきている。ノーランディングとは文字通り『景気減速がない』というシナリオである」と述べたが、まさに「景気減速が起こらないほど米国経済は強い」=「ドルを買う」という動きが起こっており、ドルはすべての通貨に対して独歩高となっている。
機関投資家による米国債買いも旺盛。8月は6.1兆円と過去2番目の水準に
その象徴的な動きが機関投資家による米国債買いである。8月の中長期債の買越額は6.1兆円。単月としては2020年3月のコロナ禍初期に次いで過去2番目の金額だ。今年1~8月の累計で見ても14兆円と膨らんでいる。高い利回りを求めてマネーが米国に向かっている。長期金利は4.2%台と3カ月ぶりの高水準となっている。
これほどまで景気が堅調ならば利下げを急ぐ必要はない。むしろ、利下げを行うことでインフレを加速してしまっては元も子もない。「FRBによる利下げペースは緩やかになる」=「日米金利差は思ったほど縮小しない」という見方がドル高・円安を引き起こしているのだ。
そして、もう一つのサブシナリオが「もしトラ」だ。11月5日に投開票が行われる米大統領選挙。高齢を理由に撤退したバイデン氏に代わり副大統領の立場にあったハリス氏が立候補。「史上初の女性大統領」「トランプ氏より圧倒的に若い」との視点で当初は優勢が伝えられる報道が多かった。だが、ここにきて様子が変わってきた。トランプ氏が勝利するのではないか、との見方がマーケット関係者に多く、ドル高と米金利上昇を狙う「トランプ・トレード」が再開したというのがもっぱらの話題である。
トランプ氏の大統領選公約には保護主義や財政拡張的な政策が掲げられ、法人減税など景気刺激策が主体である。トランプ氏が勝利するとインフレ再燃の懸念が高まり、ドル高・金利上昇を招く形になるだろう。一方のトランプ氏自身は「ドル高は災難、ドル高を是正」と主張するが、彼が以前大統領だった時、自身が望まないドル高・金利上昇が起こり、FRBに利下げするよう政治的圧力をかけていたこともあった。皮肉な結果の再来が起こっている。
ところで、日本の株式市場は円安にも関わらず、どんどん下落する展開となっている。日経平均株価は10月15日に一時4万円台をつけて3カ月ぶりの高値まで買い進まれていたが、今や3万8000円台を割り込み、11日連続の陰線も記録した。「選挙は株式市場に追い風となるのが普通だが、今回の衆院選では自民党が議席を大幅に減らすことが確実視されており、追い風が吹かない可能性もある」と私が述べた通りの展開である。「選挙は買い」は日本の株式市場のアノマリーである。日本の選挙は与党が勝つケースが大半であり、国民の信任を得て政策実行力が増すとの期待感が強まるためだ。1947年に施行された現行憲法下でみると、日経平均は通算21勝3敗で、平均3%上昇している。今回の衆院選挙がマイナスのパフォーマンスになれば1960年以来の記録となる。「円安」=「株高」との方程式は、意外なサブシナリオでいとも簡単に崩れるというケースである。
この原稿を書いているのが10月25日の金曜日。皆さんが本記事を目にするのは選挙結果が出た後の10月29日であろう。与党惨敗で政局が不安定になるシナリオは随分と織り込まれていると思うが、しばらくはガタガタした動きになる可能性がある。加えて、11月5日の米大統領選も株式市場に大きな影響を与える不確実要素である。
現在のような状況でジタバタする必要はない。株式市場の行く末を決める最終的な要因は企業業績であり、政局ではないからだ。むしろ、システマティックリスク(市場全体のリスク)を味方に付けるくらいの気持ちが重要である。不安に駆られてついつい感情的に売買する個人投資家をよく見かけるが、たいていは芳しくない結果となって後悔することになる。あなたは大丈夫だろうか?
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●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもDFRへのレポート提供によるメルマガ配信などで活躍。
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