9月のFOMCはサプライズ。FRBは0.5%の大幅利下げを決定!
前回のコラムでは『ついに逆イールド解消で景気後退懸念、相場への影響は?』と題して解説した。「逆イールド発生とその解消は景気後退のシグナル」「景気減速は株式市場にプラス」という点について分かっていただけたと思う。「景気が悪くなって企業業績が悪化すれば株安要因」というのは間違いであり、「世間の常識は株式市場の非常識」と述べた。景気後退するからこそ利下げを行うのであって、その金融緩和が株式市場に活性化をもたらす。金融相場到来により株高になる、というのが株式市場だ。その号砲が9月19日の未明に鳴った。
私が予想していたのは通常の利下げ幅0.25%だったが、米連邦準備理事会(FRB)が出した結論は0.5%という倍速の利下げだった。4年半ぶりの金融政策転換の初っ端での大胆な決断。サプライズだった。
利下げに重要な判断を与える直近の経済指標を見ると、8月の雇用統計は+14.2万人と予想の+16.1万を下回り、失業率は前月の4.3%から4.2%に低下、8月の消費者物価指数(CPI)のコア指数は前月比+0.3%と予想の+0.2%を若干上振れ、また同月の卸売物価指数(PPI)は前月比+0.2%と予想と一致した。要するにほぼ想定通りの状況であり景況感は悪くない。数字を見る限りは通常幅の0.25%の利下げが行われると考えるのが常識的な判断だ。
FRBが大幅利下げに踏み切った理由と、今後の利下げスピードは?
なぜ、パウエル議長は大幅利下げに踏み切ったのだろうか?
彼は記者会見で「景気後退の可能性を小さくする予防的措置」「後手に回らないという決意の表れだ」と説明した。採決ではボウマン理事が通常の0.25%の利下げ幅を主張して反対票を投じたため全会一致の結論ではなかったが、0.5%をほぼ全員が支持したことになる。
さて、重要なのは今後の利下げスピードである。四半期ごとに開示されるドットチャート(FOMC参加者による政策金利予想)では、2024年末までにさらに0.5%の利下げ、2025年は1.0%の利下げ、2026年は0.5%の利下げとのロードマップが示された。現時点での政策金利は4.75%~5.00%であるため、2026年には2.75%~3.00%の水準まで下がることになる。FRBは景気を熱しも冷ましもしない中立金利を3%前後とみており、2026年には完全にその水準を捉えることになる。リーマンショック時やコロナショック時は、急激な景気悪化で政策金利をゼロまで一気に引き下げる極端な金融政策を取ったが、今回は中立金利まで無難に利下げを行うという穏やかなシナリオである。
今回の金融相場の行方を占う上で重要な4つのポイント
ここからが本題となる。今回の金融相場は従来と比較していろいろと特徴的な点がある。そうしたポイントを常に点検しながらどう闘っていくべきかを考える必要があるからだ。私が強く意識しているのは次の4つのポイントだ。
① 逆業績相場でどれくらい上昇を織り込んだか?
要するに金融相場による株価上昇の先取りが、すでにどの程度起こっているのかという点だ。前回利下げがスタートしたのは2019年8月。日経平均株価は逆業績相場において2万392円から2万1540円へと5.6%上昇していた。今回は3万2981円から3万6380円まですでに10.3%上昇。金融相場の上昇を先食いしている可能性がある。
② 日銀の利上げがどう日本株に影響するか?
世界の株式市場の方向性を決めるのはFRBの金融政策だが、日本の場合は日銀が今後徐々に利上げを行っていく。私自身は「金融正常化」という捉え方をしており、これまで欧米の中央銀行が行ったような急激な利上げとは別物であると考えている。このロジックがきちんと機能するかを見ていかねばならない。
③ 円高に対する株価の耐性は?
「米国の利下げ&日本の利上げ」で今後の日米金利差縮小は避けられない。すなわちドル売り円買いが起こりやすくなる。「円高になれば日本株にとって逆風」というのが一般的な考え方であり、実際にドル円が161円から140円まで円高になる局面で日本株式市場は売られた。ただし、為替の動きは常に株式市場を教科書通りに動かすわけではない。過去の相関関係を振り返れば明らかである。円高に慣れれば為替による業績への影響も重要ではなくなってくる。果たして、このような形になるのかどうか。
④ 小型グロース株の活躍の出番は?
これまでの金融相場では株式市場にマネーが流れると流動性の低い小型グロース株が急騰するパターンが見られた。「テンバガー(10倍株)」が最も出現しやすいのも金融相場である。今は大型バリュー株が脚光を浴びる時代。果たして従来の急騰パターンは見られるのか。
以上の4つが重要なポイントになると考えている。「金融相場が来た、株価が上がる、バンザーイ」という単純なものではなく、逆業績相場でしばしば見られたシステマティックリスクも所々で起こりながら上昇相場を形成していくと考えている。
証券アナリストの時代から小型株スペシャリストである私としては④に最も興味がある。2020年のコロナ禍における金融相場においてマザーズ指数(現在の東証グロース市場250指数)が約3倍の急騰を演じ、テンバガー銘柄が続出した。2021年に金融相場が終わり、マーケットは急落。それ以降、小型グロース株はずっと鳴かず飛ばずの状況が続いている。今のところ目立った動きは出ていない。しかしながら、やはりこの分野への心配りを怠らないことが重要だと思う。
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●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもDFRへのレポート提供によるメルマガ配信などで活躍。
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