トランプ大統領が提案する新たな関税政策によって、株式市場は大きく下落しています。こうした局面で、個人投資家はどのように対応すべきでしょうか?
多くの投資家にとって最善の対応は「何もしないこと」である可能性が高い
まず、多くの投資家にとって最善の対応は「何もしないこと」である可能性が高いです。
あるいは、4~5年以上の長期的な視点を持ち、かつ十分な現金余力がある場合は、分散投資を前提に、慎重に株式を買い進めるという選択肢も考えられます。
下がったときに売りたくなり、上がったときに買いたくなる人間の心理
人間の心理には、株価が下がったときに売りたくなり、上がったときに買いたくなる傾向があります。
これは典型的な「逆張り」の反対であり、結果的に損失を招くことが多いでしょう。今回のような下落局面でパニックに陥って株を手放すのは、賢明とは言えません。また、何かのニュースで相場が急騰した際に、その流れに飛びついて買う行動も避けるべきです。
投資とは本質的に、投機とは異なり、市場より優位に立てる「自分なりの知見や分析」があって初めて成立するものです。
トランプ大統領の関税政策、その真の狙いは何か?
今回の事例で言えば、短期視点では「トランプ大統領がこの関税政策を本当に実行するのか? それとも交渉材料として使っているだけなのか?」という見極めに賭ける形になります。
もし、彼の最終目標が「世界的な関税ゼロ」の実現であるならば、今回の関税強化はあくまで交渉の一時的手段に過ぎず、長続きしない可能性もあります。
しかし、彼の真の目的が「米国内への製造業の回帰」である場合、関税撤廃はむしろ逆効果となり、米国の製造業空洞化がさらに進むことにもなりかねません。米国内での製造コストはすでに相対的に高くなっており、それは従来の関税政策だけに問題があったわけではありません。
そして、アメリカが製造業に投資を集中すると、本当に投資すべきAI分野などへの投資は減っていきます。これはアメリカにとっていいことではないと考えられます。アメリカのAI分野が成長スピードを減速すれば、その分、中国が恩恵を受けることになるでしょう。
貿易収支を「ゼロにする」ことが良いわけではない。それは非現実的であり、経済全体としても健全なことではない
また、貿易収支を「ゼロにする」ことが必ずしも良いわけではありません。
貿易収支の問題を個人の生活に置き換えて考えてみましょう。
私たちはスーパーマーケットに対して、常にお金を支払い、商品を受け取っています。これは貿易収支でいえば、完全な「貿易赤字」ということになります。
けれど、私たちの生活は働いて得た給料によって、ちゃんと成り立っています。会社に私たちは労働を提供し、会社からは給料をもらっています。会社とのやりとりは「黒字」なのです。
このように、すべての収支をゼロにするのは非現実的であり、経済全体としても健全ではありません。
[貿易収支に関する参考記事]
●トランプ大統領の関税政策で米国の貿易赤字は解消するのか? 貿易赤字の根本原因は米国内の経済的不均衡にある。長期的には関税では問題は解決しない
関税が導入されると、アメリカの消費者の生活コストは上がる
関税が導入されると、全体として輸入品の価格は上昇します。
それではアメリカの消費者は輸入品ではなく、アメリカで作られた商品を購入すればいいかというと、そうもいかない面があります。今のアメリカ国内の製造業は十分な態勢にないため、結局、消費者の選択肢は減ってしまい、生活コストが上がる結果になるでしょう。
このような状況のなか、すでに政治的な圧力も高まってきており、トランプ氏が今の関税政策を長期間維持するのは困難だと私は考えています。
トランプ政権の関税政策。今後、考えられるシナリオは2つ
今後、考えられるシナリオは大きく2つあります。
(1)世界的な景気後退が進み、不安定な情勢が拡大。かつてスムート・ホーリー関税法が施行されたあとのように、最悪の場合は戦争につながる可能性もある。
(2)トランプ関税が何らかの形で撤回される。
私は、最終的にはこの関税政策は撤回されると考えています。ただし、それが「数週間以内」か「数ヵ月後」か、あるいは「数年単位」かかるかは不透明です。
[スムート・ホーリー関税法に関する参考記事]
●トランプ政権による関税政策の影響は? 関税をかければ必ず国内産業が発展するとは限らない。第二次世界大戦への道を開いたスムート・ホーリー関税法とは?
したがって、短期的な視点しか持てない人にとっては、今は無理に動かず、静観するのが賢明でしょう。
一方で、長期的な視点で物事を見られる投資家にとっては、今後の投資対象を少しずつ選定していくタイミングとも考えられます。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。
※メルマガ「ポール・サイの米国株&世界の株に投資しよう!」募集中! 米国株&世界の株の分析が毎週届き、珠玉のポートフォリオの提示も! 登録から10日以内の解約無料。