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トランプ大統領の関税政策で米国の貿易赤字は解消するのか? 貿易赤字の根本原因は米国内の経済的不均衡にある。長期的には関税では問題は解決しない

2025年3月26日公開(2025年3月31日更新)
ポール・サイ
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 トランプ政権が関税政策を次々と打ち出し、また、その内容をしばしば変化させることに、金融市場は一喜一憂しています。トランプ大統領はアメリカの貿易赤字を問題視しており、その解決策の1つとして関税を重視しているわけですが、今回はその貿易赤字などについて考えてみたいと思います。

貿易赤字の根本原因は国内経済の不均衡にある

 貿易赤字は一般に輸出よりも輸入が多い状態を指しますが、この現象の根本原因は国内経済の不均衡にあると指摘されています。

 貿易収支は主に国内の貯蓄と投資のバランスに依存しており、国全体で貯蓄が投資を下回ると、結果として貿易赤字が発生するのです。

 過度の消費や投資ブームが国内貯蓄を減少させると、その国の経済は必然的に海外資本に依存することになります。

 こうした状況では、国内で生産される商品やサービスだけでは国内の需要を満たすことができず、不足分は輸入によって補われることになります。したがって、問題は貿易赤字そのものにあるわけではありません。根本的な問題は国内の資金循環のバランスが崩れている点にあるのです。

貿易赤字の解消を、為替レート操作や保護主義政策といった表面的な政策によってはかるべきではないという議論も

 さらに、貿易赤字の解消を、為替レート操作や保護主義政策といった表面的な政策によってはかるべきではない、という議論もあります。

 これらの政策によって、貿易赤字は一時的に解消できるかもしれませんが、国内の根本的な貯蓄・投資バランスを修正しない限り、赤字の再発は避けられないとの見解があるのです。

 このような考え方はマイケル・ペティスという経済学者が提唱しています。マイケル・ペティスはスペイン生まれのアメリカ人で、現在は北京大学の国際金融学教授であり、カーネギー国際平和財団の上級研究員です。ウォール街の投資銀行でトレーディングなどを行っていた経験もある人物です。

マイケル・ペティスカーネギー国際平和財団のマイケル・ペティスのページ 出所:カーネギー国際平和財団

マイケル・ペティスの主張から考えを進めれば、国内の消費や投資行動を持続可能な形に修正し、貯蓄率を適正化する必要があることに

 このマイケル・ペティスの主張から考えを進めていくと、貿易赤字を解消するためには、国内の消費や投資行動を持続可能な形に修正し、貯蓄率を適正化する必要があります。

 たとえば、アメリカなどでは過剰な借金に依存した消費を抑制し、より生産的で効率的な投資を促進する政策を取ることが重要となります。

 たとえば、中国、日本、ドイツなどは、国内の需要が足りないので、その過剰生産能力は輸出に向かうしかないのです。そして、その輸出で得た外貨を輸出先の国に投資することになります。たとえば、米国債の購入です。

財政赤字と貿易赤字が同時に発生する「双子の赤字」

 いわゆる「双子の赤字」とは、一国で財政赤字と貿易赤字が同時に発生する状況を指します。

 1980年代以降、アメリカはこの双子の赤字の状態に陥り、一時的にそれが解消した時期もあったものの、アメリカの双子の赤字はかなり長期間続いています。

 政府が支出を増やし、財政赤字を拡大させると、資金調達のために海外からの借り入れが増加し、結果として自国通貨が上昇します。この通貨高により輸出競争力が低下し、輸入が増加、貿易赤字が生じます。

 つまり、財政赤字が貿易赤字を招き、両者が連動して悪循環を形成する現象が起こるのです。

 アメリカの場合、根本的に経済をバランスさせるには、貯蓄を増やし、消費・投資を減らすことです。

 そして、中国は消費を増やし、国内需要のための投資を増やし、貯蓄を減らすことです。中国は消費を増やさなければいけないという専門家は多いです。

関税政策の影響は複雑だ。長期的には貿易赤字も財政赤字も再拡大する可能性がある

 関税は貿易収支、さらには双子の赤字に複雑な影響を与えます。

 関税を引き上げると、輸入品の価格が上昇して国内需要が抑制され、短期的には貿易赤字が改善する可能性があります。

 しかし、長期的には、自国通貨が強くなって輸出競争力が低下したり、報復関税が導入されて輸出が減少するなど、かえって貿易赤字が拡大する場合もあります。

 また、関税収入の増加により財政赤字が一時的に縮小する場合もありますが、景気減速による税収減少など副次的な影響で財政赤字が再び拡大する可能性もあります。

 そのため、関税政策を実施する際には、慎重な検討が求められるのです。

[関税に関する参考記事]
トランプ政権による関税政策の影響は? 関税をかければ必ず国内産業が発展するとは限らない。第二次世界大戦への道を開いたスムート・ホーリー関税法とは?

長期的な観点から見ると、関税は根本的な問題解決策ではない可能性が高い

 ここまでマイケル・ペティスの主張に沿って議論を進めてきましたが、結論として、ペティスは貿易赤字を単なる貿易政策の問題としてではなく、国内経済に潜む構造的な不均衡の結果として捉えることを提唱しているのです。

 したがって、政策立案者が貿易赤字を効果的に是正するためには、国内経済の根本的な要因に目を向け、長期的かつ総合的な政策運営を行う必要があるでしょう。

 長期的な観点から見れば、関税は根本的な問題解決策ではない可能性が高いと言えます。

 

●ポール・サイ  ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。

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