トランプ政権による関税政策で、中国からの輸入コストが大幅に上昇
最近、シアトルにある電動自転車の会社の社長と話す機会がありました。彼の会社は中国の工場と契約し、アメリカでオンライン販売を行っています。
しかし、最近のトランプ政権による関税政策の影響で、中国からの輸入品には45%もの関税が課されることになり、輸入コストが大幅に上昇しました。これは企業にとって非常に大きな負担です。

関税は何を目的としてかけられるのか?
関税(tariff)とは、政府が輸入品に対して課す税金のことであり、主に以下の目的で利用されます。
(1)国内産業の保護:輸入品の価格を上げることで、国内産業の競争力を高める。
(2)税収の確保:政府の収入源となる。
(3)貿易交渉の手段:他国に対する圧力として利用される。
関税をかければ、必ず国内産業が発展するとは限らない
しかし、関税が必ずしも国内産業の発展につながるわけではありません。
たとえば、冒頭で紹介した電動自転車の会社の場合、関税が上がることで生産工場をアメリカ国内に戻すのではなく、むしろマレーシアへの移転を検討しています。
なぜなら、中国にはすでに電動自転車のエコシステム(部品供給網や技術インフラ)が整っており、それを簡単に別の国へ移すことは困難だからです。マレーシアでの生産といっても、実際には中国製の部品をマレーシアで組み立てるだけであり、結局のところ、中国企業が利益を得る構造は変わりません。
関税が第二次世界大戦を引き起こした? スムート・ホーリー関税法の影響とは?
関税の負の影響は歴史的にも証明されています。その代表例がスムート・ホーリー関税法(1930年関税法)です。
この法律は大恐慌のまっただ中にあった1930年のアメリカで成立し、国内産業を守る目的で幅広い輸入品に高関税を課しました。具体的には、約900品目に平均40%以上の関税が適用され、輸入品の価格が大幅に上昇したのです。
しかし、以下のとおり、この関税政策は逆効果となりました。
●貿易戦争の勃発:他国も報復関税を課し、世界貿易が急激に縮小。
●経済の悪化:アメリカの輸出が激減して、アメリカ国内の農業・製造業も打撃を受け、失業率が上昇。
●国際緊張の高まり:経済的困窮はドイツや日本などの国々の軍備拡張を促進し、第二次世界大戦への道を開いた。
特にドイツでは、世界恐慌の影響で失業率が急激に上がり、ナチス政権の台頭を招きました。ヒトラーは経済の自立を掲げ、軍需産業の拡大に注力しました。
一方、日本も原材料の輸入が制限される中で、中国や東南アジアへの進出を強め、結果的に戦争への道を歩むことになりました。
現代への教訓──関税政策は意図せぬ経済的混乱を招き、国際的な緊張を高める可能性がある
このような歴史から学べることは、関税政策が意図せぬ経済的混乱を招き、国際的な緊張を高める可能性があるということです。
現在の米中関係も同様のリスクを抱えています。
関税で貿易が制限されても、経済のグローバル化自体が止まることはないでしょう。関税が上がることによって、企業は別の国への移転を模索し、その中で関税が新たな経済ブロックの形成や、地政学的な対立を加速させる可能性があります。
したがって、関税は単なる経済政策ではなく、国際関係や安全保障にも深く関わる問題であり、慎重に運用すべき手段だと言えるでしょう。
☆ポール・サイ氏は、「米国株&世界の株に投資しよう!」というメルマガを毎週配信しています。米国株を中心としたFIREのためのポートフォリオ(2年半で2倍以上のパフォーマンス!)の提案や米国株の分析、シアトル在住の強みを生かした現地のニュースなどのレポートなどを配信しています。登録後10日以内の解約は料金が無料となりますのでぜひご登録をお願いします。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。
※メルマガ「ポール・サイの米国株&世界の株に投資しよう!」募集中! 米国株&世界の株の分析が毎週届き、珠玉のポートフォリオの提示も! 登録から10日以内の解約無料。