このところ、FRB(米連邦準備制度理事会)の独立性が、かつてないほどの試練に直面しています。
トランプ政権が司法省を通じて、パウエルFRB議長への刑事捜査に踏み切った
トランプ政権は司法省を通じて、総額25億ドル規模に及ぶFRB本部の建て替え計画を巡り、パウエルFRB議長が議会で虚偽の証言を行った疑いがあるとして、刑事捜査に踏み切りました。
2026年1月9日(金)には、大陪審による召喚状がFRBに届けられ、起訴の可能性まで取り沙汰されています。
これを受け、パウエルFRB議長は1月11日(日)の夜に異例のビデオ声明を発表し、この捜査は利下げを迫るための「口実(プリテキスト)」にすぎないと強く反論しました。
パウエルFRB議長による異例のビデオ声明が公開されているFRB公式サイト内のページ 出所:FRB公式サイト
同時に、バイデン前大統領が任命したリサ・クック理事の解任を巡る法的対立も、最高裁にまで持ち込まれています。
特定の政権がFRBを一気に掌握できないように工夫されたしくみとは?
もっとも、FRBという組織は本来、大統領からの政治的圧力を想定した極めて強固な制度設計のもとに成り立っています。
仮にトランプ大統領が強い影響力を行使しようとしても、その独立性を容易に崩すことはできません。それは、大統領という公職が、何事も独断で支配できるような「王様」ではないのと同じ理由です。
[参考記事]
●米大統領は王様ではないし王様のような権限もない! 米大統領の権限にはさまざま制限があることを意識すべき。米大統領選後に株価暴落なら買いのチャンス!
この堅牢な制度を支えているのは、「FRB(米連邦準備制度理事会)」のしくみです。ワシントンD.C.に本拠を置くこの政府機関は、大統領が任命し、上院が承認する7名の理事によって構成されています。
各理事の任期は、政治的独立性を確保するため、14年という非常に長い期間が設定されており、2年ごとに1名ずつ交代する「スタッガード方式」によって、特定の政権がFRBを一気に掌握できないよう、工夫されています。
FRBは、全米の銀行監督や金融規制、消費者保護といった行政的な役割を担うだけでなく、各地の連邦準備銀行を統括し、米国金融システム全体を安定させる「中央司令塔」としての責務を負っているのです。
「中央の政策方針」と「全米各地の実体経済を政策に反映させる」ことの両方をうまく遂行できるようになっているFOMCのメンバー構成とは?
一方、実際の金融政策を決定するのがFOMC(米連邦公開市場委員会)です。
FOMCは、FRB理事7名全員に加え、ニューヨーク連銀総裁、さらに持ち回り制で選ばれる地区連銀総裁4名を合わせた、計12名の投票メンバーで構成されます。
2026年の持ち回り制の部分の投票権は、クリーブランド、フィラデルフィア、ダラス、ミネアポリスの各連銀総裁が担っています。FRB理事が過半数を占めることで中央の政策方針を維持しつつ、地区連銀総裁の参加によって、全米各地の実体経済を政策に反映させる──この「二重構造」こそが、FOMCの大きな強みです。
FRBとFOMC、それぞれの役割分担とは?
FRBとFOMC、両者の役割分担も明確です。
FRBが、銀行への貸出金利である「公定歩合」や「預金準備率」といった規制面の権限を持つのに対し、FOMCは「公開市場操作」を通じて、政策金利であり、市場金利の基準となる「フェデラル・ファンド(FF)金利」を目標の水準へ誘導します。
言い換えれば、FRBが金融界の「審判(ルール作り)」を担い、FOMCが経済の「温度調節(政策の実行)」を行うことで、「物価の安定」と「雇用の最大化」という「2つの使命(デュアル・マンデート)」の達成を目指しているのです。
パウエルFRB議長への捜査が後任人事やFRBの独立性にどのような長期的影響を及ぼすのか、投資家は慎重な判断を迫られている
金融政策決定において、パウエル議長は「FRBの顔」として注目を集めがちですが、FOMCにおける投票権は他のメンバーと同じ1票にすぎず、拒否権も存在しません。
議長の本質的な影響力は、議題設定や意見調整を通じて合意を形成する、いわば「ソフトパワー」にあります。
現在、トランプ政権とFRBの対立が意識される中、市場ではリスク回避姿勢が強まり、金(ゴールド)は一時、1トロイオンス=4600ドル超という史上最高値を更新するレベルまで上昇しました。
ドル建て金価格 月足 出所:TradingView
パウエル氏の議長任期は今年(2026年)5月に満了となりますが、今回の捜査が後任人事やFRBの独立性にどのような長期的影響を及ぼすのか、投資家は極めて慎重な判断を迫られています。
もしもアメリカがハイパーインフレに陥った場合、相対的により大きな打撃を受けるのは、むしろアメリカ以外の地域
では、投資家はどのように考えるべきでしょうか?
仮にアメリカがハイパーインフレに陥った場合、相対的により大きな打撃を受けるのは、むしろアメリカ以外の地域である可能性が高いと考えられます。
アメリカがインフレを抑制するための大幅な利上げが必要になったとしても、米ドル経済圏が強い限り、その調整コストは海外に波及しやすいからです。
トランプ大統領の発想は、おそらくAIの普及などによって雇用が弱含む一方で、生産性の向上が同時に進むという前提に立っているのでしょう。
そうであれば、金利を低く抑えてもハイパーインフレにはつながらない、という判断になります。この見立てが正しければ、大きな問題は生じません。しかし、もし誤っていれば、インフレが加速し、現金などの価値は大きく目減りします。
投資家が取るべき行動は、実物資産や企業価値といった「資産」に投資することです。その重要性は、こうした局面において、これまで以上にはっきりと浮かび上がっています。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。
※メルマガ「ポール・サイの米国株&世界の株に投資しよう!」募集中! 米国株&世界の株の分析が毎週届き、珠玉のポートフォリオの提示も! 登録から10日以内の解約無料。























