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株価急落で恐怖そのものが売買の理由になった時、判断は歪む。そんな時や人生のピンチにも役立つ東洋の慎重さ「塞翁が馬」と西洋の明晰さ「第一原理」とは?

2026年2月11日公開
ポール・サイ
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 人生と投資は、本質的に同じ構造を持っています。意思決定は不確実性の中で行わなければならず、結果を完全にコントロールすることはできません。

 にもかかわらず、人は目の前の出来事にすぐ意味づけをして、「成功」「失敗」「正解」「間違い」と断定してしまいます。その衝動こそが、最も大きな判断ミスを生むのです。

不幸は幸運に、幸運は不幸に転じるかもしれない。短期的な評価は控えるべきという中国の故事「塞翁が馬」の教え

 中国の故事「塞翁が馬」は、その危うさを端的に示しています。

 不幸に見えた出来事が幸運につながり、幸運に見えた出来事が不幸を招く──出来事の価値は、その瞬間には決して確定しません。「塞翁が馬」が教えているのは、未来の因果が見えない以上、短期的な評価そのものを控えるべきだという"態度"です。

 ただし、ここには逆説があります。評価を保留し続けるだけでは、意思決定そのものができなくなるということです。「塞翁が馬」を「何も判断するな」という教訓だと誤解すれば、思考停止に陥ります。出来事に善悪をつけないことと、何も考えないことは、まったく別のことなのです。

[「塞翁が馬」に関する参考記事]
世界で一番悲観視されていた株式市場とは? 悲観の中にチャンスあり! そのナンバーワンに近い企業を狙え

評価を急がず、それでも判断するために有効な「第一原理」の思考

 では、評価を急がず、それでも判断するには、何が必要なのでしょうか。

 そこで有効になるのが、「ファースト・プリンシプル(第一原理)」思考です。

 これは、感情的な評価や世間の常識をいったん脇に置き、「何が本当に変えられない前提なのか」「構造として壊れていないか」を見極めるための"方法"です。

 たとえば、投資していた企業の株価が急落したとしましょう。感情的には「失敗した」と評価したくなります。ここで「塞翁が馬」の態度をとれば、「まだわからない」と留保することができます。しかし、それだけでは次の行動が決まりません。

 そこで「第一原理」に立ち返るのです。

 その企業が行っている事業の収益構造は壊れたのか。資本は毀損したのか。時間が味方になる設計は維持されているのか。こういったことを考えます。

 そして、もしも構造が健全なら、株価の下落は「安く買い増せる機会」になります。もしも構造が崩れているなら、損切りすることが合理的な判断になります。

「塞翁が馬」は感情のブレーキであり、第一原理は思考のエンジンである

 人生も同じです。

 失業や病気といった出来事に突き当たれば、「不幸」だと感じることでしょう。感情的にはネガティブなことになります。

 しかし、それによって選択肢が狭まったのか、回復不能な損失が生まれたのか、時間を失ったのか。それとも、見かけ上のステータスが変わっただけで、本質的な自由度は維持されているのか。こういったことを考えるのです。

 このように「第一原理」に立ち返ることで、感情的評価から距離を取りつつ、現実的な判断が可能になります。

 「塞翁が馬」は感情のブレーキであり、「第一原理」は思考のエンジンになるものです。そして、この2つを組み合わせると、1つの原則が浮かび上がります。それは…

 「出来事を断定せず、構造だけを評価する」

 ということです。

「塞翁が馬」と「第一原理」を共存させ、出来事を断定せず、構造だけを評価する知恵

 「塞翁が馬」は、断定を戒めます。その一方、「第一原理」は構造を見る視点を与えてくれます。この順番を間違えなければ、両者は矛盾しません。むしろ、互いを補完します。

 興味深いのは、これが東洋と西洋、それぞれの思想的伝統の長所を統合した形になっている点です。

 東洋哲学は、無常観や因果の複雑性を重視し、拙速な断定を戒めてきました。一方、西洋哲学は、論理的分析と還元主義を発展させ、複雑な現象を基本要素に分解する技術を磨いてきました。

 「塞翁が馬」は東洋の知恵であり、「第一原理」は西洋科学の方法論です。両者を対立させる必要はありません。東洋の「待つ知恵」と西洋の「分析する知恵」は、異なる局面で機能する道具として、同じ思考体系の中に共存できるのです。

感情は情報として有用だが、恐怖そのものが売買の理由になった瞬間、判断は歪む

 致命的な失敗を避けることが最優先されるのも、この文脈で理解できます。

イラスト:いらすとや

 短期的な成功や評価は、あとからいくらでも反転し得るものです。しかし、構造が壊れてしまっているのなら、それによって時間を失い、二度と元には戻りません。

 投資でも人生でも、「生き残ること」は感情ではなく、論理から導かれる結論です。

 重要なのは、感情を排除することではありません。感情は情報として有用ですが、判断の根拠にはならないということです。恐怖は「何かが変わった」というシグナルであり、構造の再評価を促します。

 しかし、恐怖そのものが売買の理由になった瞬間、判断は歪みます。感情を無視するのではなく、構造の評価と切り離すことが肝要なのです。

「塞翁が馬」と「第一原理」。東洋の慎重さと西洋の明晰さを併せ持つことで長期的な成功の余地が生まれる

 投資は目的ではなく、人生を設計するための手段にすぎません。

 お金は自由度を高めるための道具であり、時間、健康、好奇心、信頼関係といった本質的な価値を守るために使われるべきものです。そのために必要なのは、出来事に振り回されない態度と、構造を見抜く思考法です。

 「塞翁が馬」と「第一原理」。これらは異なる概念ですが、両者の役割を分けて考えれば、人生と投資の両方において、極めて実践的な指針になります。

 評価を急がず、しかし、構造は見る。感情を認めつつ、判断とは分ける。東洋の慎重さと西洋の明晰さ。両者を併せ持つことは簡単なことではなく、そこにはある種の緊張感が漂うことでしょう。しかし、だからこそ、そこに長期的な成功の余地が生まれるのです。

 

●ポール・サイ  ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガ「米国株&世界の株に投資しよう!」を配信中。著書『台湾系アメリカ人が教える 米国株で一生安心のお金をつくる方法!』発売中。

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